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それが目的になるほど遠ざかる――『スカートの奥を征く者』

なぜライトノベルは巻頭にカラー口絵があるのか――
印刷の都合上、巻頭か巻末か真ん中にカラーページを集めることになるのは分かります。
ただ、意図してかせずしてか、「本文を読み始める前にカラー口絵を見る」というこの構成は、読み始める前にイラストによってキャラクターのヴィジュアルイメージを確定させる効果があるように思われます。
逆に本文を先に読んだ場合、たとえばイラストのない小説がメディアミックスされる場合など、キャラクターの外見が文章を読んで抱いていたイメージに合っているかどうか、私などはかなり気になりますから。

しかし、Web 小説はまず文章だけで公開され、書籍化される際に初めてイラストが付くことになります。
私は Web 版を先に読んでいることがあまりないので、あまり実感はありませんが、ライトノベルの読み方そのものが変わってもおかしくない契機のように思うのは私だけでしょうか。

 ~~~

そんな前置きをしておいて、今回取り上げるライトノベルはこちらです。

スカートの奥を征く者(1) (モンスター文庫)スカートの奥を征く者(1) (モンスター文庫)
(2014/11/29)
マツ

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「モンスター文庫」も今年登場した新興レーベル。もっぱら「小説家になろう」系の Web 小説の書籍化で出版しているレーベルです。
Web で一定の評価を得ている作品(とりわけ「なろう」系)は一定数売れるということが経験上はっきりしてので、これに手を出すレーベルは増えていますが、さすがに上位作品は掘り尽くされている節もあり、この流れがどこまで続くのか気になるところです。
本作の作者マツ氏は現在まだ高校生とのこと。
モンスター文庫では近い年代の作者を他にも見ましたし、もしかして作者の若さで売っていくのもレーベル方針でしょうか?

さて、本作はオンラインゲームを扱ったどちらかというと日常寄りの作品でしょうか。
主人公・篠山勇司(しのやま ゆうじ)は高校2年生。後輩の西神由美(にしがみ ゆみ)から新発売のヴァーチャルゲーム『Fairy World Online』(略称:FWO)を勧められます。
何でも、由美の叔父が開発会社の人間だということで、2人分を貰えたとのこと。
最初は乗り気でなかった勇司ですが、「『FWO』ではスカートめくりができる」と聞いた途端、一気にやる気になります。
スカートめくりのため、スピードに特化してパラメータとスキルを強化していく勇司(なおゲーム内での名前は「シノ」)。
(なお、ヴァーチャル(VR)ゲームというのは、五感を再現し、完全にゲームの世界に入り込んだかのように体感できるゲームですね。現実にはまだ実用化されていませんけれど、この手の小説ではこれまた――詳しい説明なしに出しても構わないくらい――見慣れたものになりました)

本作は現実よりもゲーム内の描写の方がいくぶん多めくらいのバランスですが、なにぶんゲームです。現実での生死に繋がるような話になったりはしません。
ゲーム内で死亡しても経験値や所持金が減少するというペナルティがあるくらいで、痛いと言えば痛いのですが、それだけでは緊張感を出すには弱めです。
しかし、主人公の目的はあくまでスカートめくり。迷惑行為として通報されてはアカウント停止という、ゲーム内での死より遙かに重いペナルティがあり得るので、上手く不可抗力を装うよう気を付けねばなりません。
というわけで、ある程度縛りをかけ工夫してのクリアを要するお膳立ては揃っています。

――が。
本作、タイトルとあらすじの割には、あまりスカートめくりをしていません。
作中でスカートめくりを決めるのはこの1巻内で一度だけ。他に、近い形に持っていくのに成功する場面が一回ある程度です。しかも、決めた時でさえ主人公の心情的には不完全燃焼と来ています。
色々と上述のような縛りがあり、主人公にもNPCでは面白くないとかこだわりがあるがゆえの結果です。
確かに、あまり簡単に目的を達成してしまっては物語の原動力がなくなりますし、思い通りに行かずくたびれ損、というのも定番の落ちではあります。
裏を返すと、それを主題にしてしまうとかえって、パンツ一つなかなか到達できなくなる(もっとしょっちゅう見せている作品もあると言うのに)というのが実態なのかも知れません。

しかし、事がせいぜいスカートめくりという、かなり軽い事柄だけに、これだけ引っ張られてもな、という思いはあります。
あるいは、あくまでスカートめくりを重大事として扱いたいのなら、もっと無駄に派手で仰々しい発言や演出がないと物足りません(主人公がスカートめくりの魅力について熱く語るシーンはありますが、ライトノベルの変態キャラとしてはそこまで「強さ」を感じません)。

そして、そのことを差し引いて考えても、本作はカタルシスが不足しています。
やはり、コンピュータ制御のモンスターよりも考え創意工夫して行動する人間との勝負こそが見所になりそうですが、他プレイヤーと争うイベントも、実にあっさりと幕引きになってしまいます。
圧倒的な腕を誇るプレイヤー「ペンギン」(表紙右のペンギンの着ぐるみを着た幼女)が序盤で登場、その後にギルドを設立するという話になった時には、ペンギンを誘って仲間集めという話になるのかと思いきや、そうでもなく。
ここでも「思い通りに進まない」というのが話を盛り上げる要素になり得るのは分かりますが、結局ペンギンは仲間とも強敵あるいはライバルとも言えない扱いのまま。何だか中途半端です。彼女の(ゲーム内ではなく)リアルの事情なども触れられているので、今後動きがある予定かも知れませんが、この1巻は見せ場に乏しかっただけに、なおさら半端なまま引っ張っている部分が気になってしまうのです。

あるいは、ギルドの仲間「ロズ」がリアルで抱えている問題に関わり、リアルの人間を相手取る展開もありましたが、これまた割とあっさり解決。
往々にして仲間集めの話は仲間を集めてから何かをする話より面白かったりするので、こういうところをもうちょっと丁寧に書いていけば見せ場はいくらでもできそうなものなのですが……

主人公はスカートめくりを目的にしているくらいですから、なかなかに下衆な人間ですが、しかしそんな下衆な性格にスピードに特化した能力を活かして相手の不意を突いて倒すようなえげつない活躍を見せるかというと、それほどでもないのが悩ましいところ。
ロズによくセクハラをしているとか後半で書かれて「そんなにやってたっけ?」と思ってしまうくらい。
『ヴァルキリーワークス』の理樹くらい悪辣・変態の方向に突き抜けていて、なおかつ熱さも備えているなら楽しいのですが、勇司は現実的に小市民的な人間に留まりすぎています。これは上述の、変態方面での突っ走り加減が足りないこととも関連しています。

文章はのっぺりしていますがさらさらと読めて内容は素直に伝わります。たまに引っ掛かる表現がある程度。
ただこれも、主人公の一人称であるがゆえにたまに入るスカートめくりへの熱い想いの語り(といっても簡素なものですが)が浮くだけであまり活きない要因になっている気もします。

ただ、ラブコメとして見ると、日常的に毒舌を繰り出していながら実は勇司のことが大好きな由美が可愛いです。
最初のページで早速の「さすが先輩、情報化社会について行けてない情弱野郎ですね」から始まりどんどんエスカレートする罵倒、さらには一緒にやろうと『FWO』に誘ったのにゲーム内でのフレンド申請を最初は拒否すると酷い態度の由美との掛け合いもそこそこ楽しめます。

しかし、ゲームよりも現実世界でのラブコメパートの方が面白いというのは良いのかどうか……


それからイラスト。
主人公とヒロインの顔の区別も付きませんし、キャラのイメージに合っているとも言い難いです(ペンギンだけは割とイメージ通りですが)。

スカートの奥を征く者 口絵
 (カラー口絵)

極めつけは、スカートめくりに近いことを成功させ、本文にパンツの描写がある場面ですら、パンツが見える構図になっていないこと。
スカートめくりで得られるエロスはあくまで視覚的なものですし、イラストへの依存度は大きいと思うのですが(文章でパンツを官能小説のように丁寧に描写されてもどうかと思いますし)、そういうネタを出版することは、実はリスキーだったのではありますまいか。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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