スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

あくまでも現代の日常の中で戦う勇者――『【急募】賢者一名(勤務時間は応相談) 勇者を送り迎えするだけのカンタンなお仕事です』

今回はこちらのライトノベルを取り上げさせていただきます。
実は、今月の「このライトノベルがすごい!文庫」の新刊ですが、まだ発売日前ながら宝島社より献本を頂いたものです。宝島社さんはどうもありがとうございました。
どうやら、『このライトノベルがすごい!』に協力者として参加すると発売日一週間前くらいに献本を頂けるようで(京都の我が家に届くのは6日前くらいですが。最近はWeb上で人の「献本頂きました」報告を見ると、地域による届く時期の違いまですぐに分かる時代になってしまいました)。

【急募】賢者一名(勤務時間は応相談) (このライトノベルがすごい!文庫)【急募】賢者一名(勤務時間は応相談) (このライトノベルがすごい!文庫)
(2014/12/10)
加藤 雅利

商品詳細を見る

本作は第5回「このライトノベルがすごい!」大賞栗山千明賞受賞作品です。
驚いたことに、最優秀賞の『着ぐるみ最強魔術士の隠遁生活』共々、第5回の受賞作2本は揃ってすでにコミカライズが決定しているとのこと。
『このマンガがすごい!WEB』との連動企画とのこと。新人賞作品に何を賭けているのかは定かでありませんが。

さて、本作の主人公・鳥居千早(とりい ちはや)は男子高校生。勇者の仲間の「賢者」として、同級生の女子であり「勇者」の鈴木ミカゼを自転車で戦いの地まで送るアルバイトをしています。
この世界では異世界から魔王軍によって魔物が送り込まれ、勇者たち(勇者もその仲間も選ばれし血筋の者たちです)が人知れずそれと戦っているのですが、勇者とそのパーティーを登録管理し、魔物の出現情報を伝えて仕事を依託してくるのは市役所です。
ちなみに千早は役所から登録を求める令状が来て、登録しに行くとその場でそれまで一人で活動していたミカゼの仲間にされてしまったので、タイトルに反して「賢者」を「急募」していてそれに応募したというわけではありません。

しかし、千早は賢者と言っても戦闘向きの魔法が使えるわけでもなく、自転車で勇者を送るのみ。ミカゼは聖剣エクスカリバー神盾イージスを持っていて、エクスカリバーを長い竹棒の先に括り付けて突けば巨大なモンスターも一撃と、戦いも何とも気の抜けたものになっています。
が、クラスメートの少女・黒土鵺(くろど ぬえ)が魔王軍の手先と判明した辺りから話は広がり始め、またエクスカリバーを失ったことで俄然戦いも厳しくなってきます。
――と思いきや、やはり肝心なところのイベントが非常に間の抜けた形になっていたり。

本作の基本設の特色は、勇者と魔王というファンタジーの基本構図を徹底して現代社会の日常に組み込んでいることです。
勇者の登録管理は役所の仕事で、パーティーメンバーの登録はスマートフォンで行われますし、回復薬や装備品等を討っている道具屋の通販サイト。魔法も締まらない日本語で呪文を唱えたり、マジックで字(当然、日本語)を書いたりすることで発揮されるというもの。果ては魔王軍の求人まで雑誌に載っていたりします。

 アルバイトを始めたばかりの頃、オカルト雑誌として名高い「月刊むむう」を買ってみたことがある。勇者や魔王軍について書かれていないか、気になったのだ。
 読み始めてすぐに、『今月の勇者さん』というコーナーでミカゼが紹介されているのを見つけた。真面目な顔でピースをした彼女の写真は、目の部分に黒い線が入っていて胡散臭さしか感じられなかった。
 これではかえって誰も本気で信じはすまい、と僕は苦笑いした。
「月刊むむう」は、創作か真実かを気にせずに、かき集めた情報を全て記事にして乗せる雑誌らしく、ミカゼの記事以外は、どれが本当なのか分からなかった。
 全てを信じようとすると、通信販売の広告ページに載っていた、持っているだけで運気が集まるという高い壺を買ってしまいそうになる。
「聖剣が実在するんだし、もしかしたらこれも本物も……むむう」
 (加藤雅利『【急募】賢者一名(勤務時間は応相談)』、宝島社、2014、p. 26)


雑誌の胡散臭さそのものは現実そのままに、そこにさらっと事実が紛れ込んでいるのが味噌。
あるいはもっとバカバカしくなると――

「ああ、便所飯だな。悪いのかこれは」
 皆が楽しそうに輪を作ってお弁当を食べている。そんな脇でソロで昼食を食べるのは、なんとも寂しい気分になることだろう。飯が不味くなる、悲しくて食べてらんない。そうして、静かな安息の地を求め、トイレでご飯を食べる、つまり便所飯をする者がいるのだ。
「そう、便所飯。魔界へのゲートとこの世界の結びつきを強化する悪魔の儀式だよ」
 知らなかった。孤独を愛する繊細な人間が、静かにトイレの個室(最後の楽園)で食事するのは、罪深き所業だったのか。
「ただの便所飯には問題がない。魔王の手先の秘術は、黒魔術の手順で便所飯を行うものなんだよ」
 (p. 69)


しかし引用文を見ても分かるように、本作はこうしたシュールでパロディ的な設定にほとんどツッコミが入りません。
ではボケっぱなしで突っ走るのかと言うとそうでもなく、主人公は強いツッコミをしないだけで常識人寄りではありますし、個々のネタも割とあっさりと扱われて流され、ボケにボケを重ねての暴走にもほとんど至りません。

そして、この淡々としたトーンはシリアスになり得る場面でも相変わらず。だから戦いでピンチになってもそれほど緊張感はありません。

さらにキャラクターもどうも薄味で、魔王軍の手先である鵺は「~です」口調だったのが、正体を現して以降はそれが「~デス」とカタカナになって「死神だから」という説明が入ったり、剣道部での千早の先輩で凄腕の剣士である鳳凰ヒメナは一人称が「わし」で語尾が{~じゃ」の老人口調、もしくは上方弁だったり(武家を示唆する表現でしょうか)という分かりやすいキャラ付けはなされていますが、いかにも表面的です。
メインヒロインのミカゼは無口で男言葉というだけで、そこまで露骨な口調でのキャラ付けになっていないのを見るに、そうした表面的なエキセントリックさによるキャラ付けよりも、もっと地に足の着いたところでキャラを立てたいのかも知れません(そう感じるのは、目が小さくアニメ絵からやや外れたイラストの印象のせいもあるかも知れませんが)。
ついでに主人公の千早も、脚フェチという特徴はあって、地の文で熱心に女子の脚について語っている場面もありますが、こちらもそこまで濃くはありません。

とすると、話自体もパロディ的なコメディ作品というよりも、むしろ日常そのものに焦点があると見るべきでしょうか。
「アルバイトが一緒だから」と自転車で彼女を送り、無理して話すこともなく黙って待機し、その時に座る際の距離の取り方に戸惑う、そんな青春模様。

ただ、それもどこまで成功しているかは微妙なところです。
キャラにしても、無口で無表情で、しかし悲壮ということもない普通の女の子であるミカゼの可愛さはまずまず出ていますが、生の厚みを感じさせるようなレベルでキャラを立てるのに成功しているとは言えません。

この作品の軸や見所がどこにあるのか、という問題もさることながら、作者のポテンシャルに関してもこの一作で見えたとは言い難いのですが、ただコメディ方面をもっと追求しても、凡百以上のものにはならない気がします。
地に足の着いた「人間」や「生活」を描く方が可能性はありそうだと、私には見えるのですが、どうでしょうか。

本作はこれで綺麗に区切りを付けつつ、一応続きも可能な終わり方になっていますが、どちらかというと新作で自分を活かすには何を追求するべきか、しっかり問うて欲しいと思います。


ところで余談ながら、実はアーサー王が岩から引き抜いた剣とエクスカリバーは別物なのですよね。本作中でもやはり混同されていましたが。そしてだからどうこうという話でもありませんが。

〈急募〉村長さん 第1巻 (花とゆめCOMICS)〈急募〉村長さん 第1巻 (花とゆめCOMICS)
(2012/08/20)
藤原 規代

商品詳細を見る

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。