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『四人制姉妹百合物帳』(星海社文庫版)

今回取り上げるライトノベルはこちら……と言っても、同人誌として出版された作品の商業出版での再版であり、同人版をすでにこのブログで紹介しているので、内容について改めて語ることは少なくなるでしょう。
ストーリーと設定については同人版の記事をご参照ください。

四人制姉妹百合物帳 (星海社文庫)四人制姉妹百合物帳 (星海社文庫)
(2014/12/11)
石川 博品、まごまご 他

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 (同人版の記事

それにしても、夏のコミックマーケットに出品された作品が4ヶ月足らずで商業出版とは、今回の星海社の動きはかなりの速さです。
台詞中の人名表記をカタカナか漢字かとか、改行や傍点の有無とかいった変更が2,3箇所あった他は、ほぼ加筆修正もありませんでした。(漢字にカタカナ語のルビを振る特殊な固有名詞を含め)振り仮名は同人版より星海社版の方が少ないようなですが……

さて、本作は女子校・閖村(ゆりむら)学園のサロン「百合種(ユリシーズ)に集まる4人の少女たちの百合要素ありの日常を描いた物語――ですが、何と言っても最大の特徴は剃毛が主題になっていることです。

入会希望の新入生への試練として思いつき任せに「下の毛を剃れ」を言ったのが発端で、第1章「サロンへの径」では「つるつるのあそこ」を見たいだったのが、第2章「百合種の顰」ではつるつるを題材にしたギャンブルになり、第3章は「閖村三十人剃毛」と、ある意味では学生生活らしい悪ノリがどんどん暴走していきます。
文化祭の裏で革命集団「無毛(モーマオ)が暴れ回った挙げ句、

「コラコラ待て待て」
 歩み去ろうとした紗智の肩を花梨がつかんだ。「むりやりつるつるにしてくれといて、どうするつもりよ」
 (石川博品『四人制姉妹百合物帳』、星海社、2014、p. 160)


「うーむ、剃るべきを剃らずに、剃らでない者を剃った……」
 (同書、p 180)


この騒ぎを中心になって起こしているのは「百合種」の創設者である紗智で、こういうノリが、それでいて良く周りを楽しませるための気配りも欠かさない賑やかしタイプの女性キャラは作者の得意とするところです。
ただ本作の場合、それが脇役でなく、――杜理子を物語の主役とすれば――主役の相方であり百合の相手というのが本作の特色でしょう。

そして、「閖村三十人剃毛」(全5章なので分量的にもちょうど真ん中です)で暴走を極めた後、後半は一気に「卒業」を巡るしんみりとした味のある青春小説へと転じていきます。最後は感動的な儀式になるのだからお見事です。
同時に、3年生で姉妹の「長女」杜理子の視点で語られていた物語に、1年生の「四女」多恵の視点が増えていき、さらに多恵の後輩である句美子(この物語を聞き手であるタツヤ少年に語っている人物ですが、当然、この四人姉妹が在学していた時には当事者ではなく、句美子にとっても伝聞のことをさらに物語るという構造です)との繋がりを挟むことで、卒業と“同時に”卒業後の世代のことにも繋げるという、これまた巧みな構成になっています。
ここでも実は「閖村三十人剃毛」が蝶番のような転換点になっていて、この「無毛」のバカ騒ぎに杜理子は直接参加していないので、この章から「無毛」のメンバーであった多恵視点が自然と増えるという運びなのです。

そして卒業ですが、講堂で行われる公式の卒業式や担任の訓辞に関しては(杜理子が先生に反感を持っていたりすることもありますが)、むしろその通り一遍な平板さが強調され、一部により密かに行われる剃毛式はそうした表の式典に対置され、「葬式のお焼香」あるいは「聖体拝領」に比せられる重さを持つものとして描かれます。

(……)ひとりひとりが信心を持って寄って積みあげる。講堂で行われる卒業式よりも敬虔なものがこの「森」の中で隠れて営まれていると思った。どちらが正しいというのではない。ただ、そうした大きな物語からはずれたところにしかサロンの親密さは存在しえないのだ。
 (同書、pp. 303-304)


やっているのは下の毛を剃るという下ネタめいた事柄でこれなのが、本作を象徴しています。


イラストはまごまご氏。同人版(イラストははら氏)との最大の相違ですが、キャラクターデザイン、イラストの挿入箇所ともに同人版に忠実で、ある種の仕事意識を感じました。(しかも、星海社は基本的に全イラストがカラーです)

四人制姉妹百合物帳 星海社文庫版イラスト
 (左が同人版、右が星海社版)

有希奈(上のイラストで左から2人目)のみ、眉の太さ(これは確かに文中でも言われています)が控え目でそばかすもなく、だいぶ容貌が違う感じですが、「白磁のような白い肌」で綺麗なことが作中でも強調されているので、外れてはいないのでしょう。
後は、杜理子は気の強そうな感じになっていますが、これも(引っ込み思案な性格に相違して)「決然とした」「芯の強い」と周りからは見なされていることが述べられているので、正しいのかも知れません。

同人版の表紙↓とご比較あれ。

四人制姉妹百合物帳

ただ、概ね同じ箇所にイラストを入れながら、温泉の絵だけがないのは何故でしょうか。



【追記】
本作の内容がぶっ飛んで非現実的なのは言うまでもありません。
しかし、それが「男性の幻想に沿った美しい女子校像」なのか、それとも「男性が知ったら幻滅するような、慎みなく悪ノリの酷い女子校の姿」なのかは、結構紙一重ではありますまいか。
そこに独特の美しさと品性すらをも与えているのは、文体のなせる技です。


半七捕物帳 01 お文の魂半七捕物帳 01 お文の魂
(2012/09/27)
岡本 綺堂

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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