オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
超絶探偵への挑戦(?)――『百器徒然袋 雲外鏡 薔薇十字探偵の然疑』
『コミック怪』の休刊に伴い、この巻から掲載誌が『月刊ASUKA』に変わっています(隔月連載)。
![]() | 百器徒然袋 雲外鏡 薔薇十字探偵の然疑 (怪COMIC) (2014/12/26) 志水 アキ 商品詳細を見る |
(同シリーズ前作について少しだけ触れている記事はこちら)
今更のようですが、本作の原作は京極氏の代表作「百鬼夜行シリーズ」(デビュー作『姑獲鳥の夏』から続くシリーズ)のスピンオフで、探偵・榎木津礼次郎の活躍を描くシリーズです。
語り手は電気工事の図面引きをしている青年・本島(もとしま)君(単行本一冊目の『百器徒然袋 雨』の最後まで名前が出てきませんでしたが)。凡庸で、いささか鈍い人物です。関口のようにおかしいわけでもなく、伝統的なワトスン役的人物と言えましょう。
事件としては殺人事件を含むそこそこハードな事件が起こるのですが、話のトーンは本編(百鬼夜行シリーズ)と異なり徹底して軽め。推理も真相もどこ吹く風、自分が「悪い奴」と認定した相手を叩き潰すという姿勢に徹する榎木津が痛快で、本編では解決役である京極堂も(あれこれ言いつつ実は榎木津と絶妙のコンビネーションで)中々にコミカルな活躍をします。
さて、今回のお話は何があったか、本島君がガラの悪い人たちに拉致され縛り上げられているところから始まります。

(京極夏彦/志水アキ『百器徒然袋 雲外鏡 薔薇十字探偵の然疑』、KADOKAWA、2014、p. 2)
彼を拉致した連中の上役である駿東(しゅんとう)という男は榎木津のことを色々と訊いてくるのですが、ただ駿東自身はこういう手荒なことはしたくないとのことで、本島君を逃がすために一芝居打つことを提案してきます。
かくして、駿東の提案通りに、竹光のナイフで駿東を刺すフリをして逃げ出す本島。

(同書、p. 29)
とは言え、話を聞いた京極堂がすぐに指摘する通り、手下をたばかって本島君を逃がすためにこんな大芝居をせねばならないというのは、かなり不可解な話なのです。
しかも、本島君がそんな芝居を打って逃げ出していたまさにその頃に、同じビルで駿東が本当に殺されていたことが発覚します。
本島君は、確かに竹光で刺すふりをしただけなのに……犯人は別にいて捕まっているのですが、途中から犯行を否認し始めたりと要領を得ず。
まるで本島君が鏡の中の世界に迷い込み、現実の殺人事件をなぞったかのようです。
他方でその頃、薔薇十字探偵社には霊感探偵・神無月鏡太郎(かんなづき きょうたろう)からの挑戦状が舞い込んでいました。

(同書、p. 71)
霊感探偵という名乗りからして胡散臭さ全開、格好も振る舞いも趣味が悪く、

(同書、p. 95)
見るからに嘘臭い呪術師としての三流ぶりもこのコミカライズは遺憾なく描いています。

(同書、p. 116)
実はこれ――殺人そのものの理由は別にあるのですが――、榎木津を嵌めるための壮大な(しかしくだらない)罠でした。
探偵勝負の行方はどうなるのか――とは言え、敵があからさまに小物ですから。
今回はいつもと違って、探偵・榎木津礼次郎は最後の解決編まで登場しませんし、京極堂も自分では動きません。
探偵は最後になって出てくる、というのはミステリならば一つのフォーマットではありますが……それだけ、しょうもない敵が勝手に動き回っていただけだった、とも言えます。
やはり探偵は唯一無二、格の違いと、本島君のような凡人の心配など不要だったことを見せてくれる解決編はシリーズ中でも最高に痛快です。
ボロクソに言いつつ、しっかり心配して手を回している京極堂も見物ですね。
このコミカライズに関して言うと、連載1回のページ数が減少して連載回数が全6話になったことも影響しているのか、解決編の尺がやや短く、台詞も結構端折り気味だった印象ですが、それを除けば相変わらず素晴らしい出来です。
登場人物も概ねイメージ通り。駿東が帽子にステッキに白髭なのは原作の記述通り、片眼鏡は漫画での脚色ですがよくマッチしています。
いわば黒幕である羽田隆三に関しては、イメージ映像のみの登場ですが、個人的にイメージしていたのよりも歳を取っているような……とは言え外れてはいないでしょう。

(同書、p. 48)
権田信三はイメージにぴったりです。

(同書、p. 63)
これでついに『百器徒然袋』シリーズのコミカライズも後は「面霊気」を残すのみとなりました。
そもそも作中の時系列で本編よりも先に進んでいますからねえ……
とは言え、本編はまだまだたっぷり残っていますし、もう一つのスピンオフ『今昔続百鬼』(多々良先生行状記)もありますので。今後も楽しみに待ちましょう。
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