オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
魔王と勇者の輪廻――『勇者よ、魔王にデレるとは情けない!』
![]() | 勇者よ、魔王にデレるとは情けない! (一迅社文庫) (2014/12/20) 高尾 瑞夫 商品詳細を見る |
作者の高尾瑞夫は本作がデビュー作となる作家のようです。
一迅社文庫は新人賞受賞者よりも、正体・経歴不明の新人の方がよく出てくる気がしますね。
本作の舞台は現代日本ですが、ある日突然異世界に通じるダンジョンが出現します。
それによって、主人公の安国寺大智(あんこくじ だいち)と幼馴染の園神理奈(そのがみ りな)は、それぞれ前世で魔王ダィン=ディバベルと勇者リーナとしてその異世界「ベル」に生きていたことを思い出したのでした。
しかも、ダィンとリーナは、本来戦うべき宿命の魔王と勇者という立場でありながら互いに愛し合い、悲劇に終わったという過去を持っています。
というわけで、タイトルは「デレるとは情けない!」とありますが、実態はそれどころか最初から相思相愛のデレデレです。
ストーリーとしましては、地球にやって来た異世界ベルの住人たちがしばしば騒動を起こす中、異世界への憧れが強い生徒会長・勅使河原紗耶香(てしがわら さやか)に動員されることもあって、記憶と同時に魔王と勇者としての力を取り戻した大智と理奈は色々と騒動に巻き込まれて駆け回ることになります。
そして、そんな中でも何かとイチャイチャしています。
まあ前世から互いを求め続けて結ばれなかった仲とあれば、それは分かりますが、ただ本作の特徴はやたらとエロに力が入っていることです。
イラストからしてカラー口絵で下着姿連発、後半はほとんど裸ばかり、というのはままあることとして、問題は文章。
俺はブラジャーのひもに指をかけて、上にずらした。
あらわとなった真っ白な胸を、両手でしぼるようにもむ。
谷間にキスをして、そのままゆっくりと、うす桃色の先端部分へと唇をすべらせた。
「あ、ひゃあっ、はぁんっ」
ピンと立った小さなさんらんぼを舌の上で転がすと、理奈はいっそう嬌声を響かせて、俺を抱きしめる腕に力をこめた。
(高尾瑞夫『勇者よ、魔王にデレるとは情けない!』、一迅社、2014、p. 182)
と、かなり入念な性行為(本番ではなくても)の描写が頻出します。
しかし、世にはアダルト向けのレーベルが別に存在しているわけで、この方向で勝負できるのか、そもそもこういうものが求められているのかどうかは、慎重な考えを要することのように思います。
少なくとも私はあまり――
内容的は基本的にギャグ、コメディです。前世の悲劇の悲劇性は強調されません。
異世界ベルの住人が引き起こす騒動というのも大概はくだらないものです。
「処女しかその背に乗せない」ユニコーンを変態として描くというネタはつい最近『かくて聖獣は乙女と謳う』でも見たばかりですが、本作はそこにもう一捻り。「何かに目覚めた」ユニコーンはなかなかに衝撃的でした。
ダンジョンに形の揃った宝箱が置いてあるのは魔王から勇者へのプレゼントだったとか、「魔王と勇者」ものなら鉄板のRPGのパロディもきっちり押さえています。
RPG以外にも色々なパロディネタ多数(意図してかどうか分かりませんが、そもそも前世でのダィンとリーナの顛末からして、『甲賀忍法帖』に見えますし……)。
中にはこんな方面のネタも――
ネズミ型とネコ型と、二体のモンスターである。
体長はそろって五十センチほど。
ネズミ型のオンスターは、顔をのぞく全身が黒い毛におおわれていて、赤いズボンと黄色い靴をはいて、前足には白い手袋をはめている。
ネコ型のモンスターは、身体に比してやや頭が大きく、全身が白い。鼻はまるくて黄色く、赤いリボンを右耳に結んでいる。
(……)
三月マウスや鬼帝キャットが、俺たちの世界のアレに似ていたことは、もちろん単なる偶然だ。
しかし両者が存在すれば、どこかでだれかが、その可能性を考えてしまうだろう。
それを認めるわけにはいかない大人が、この世界には少なからずいる。
夢の国への入り口は、ふたつあってはならないのだ。
(同書、pp. 73-74)
ただ、前半のこの辺がネタとしてはピークだった気もします。
後半は強敵が現れて若干シリアス寄りになりつつ、シリアスで盛り上げるというほどでなく、「シリアスぶった敵の目的は実はくだらなかった」というのを『ニャル子さん』ほど鮮やかにオチとして決めるわけでもなく……いささか半端な気がします。
一見シリアスな場面で使われる台詞にも元ネタありというパターンも、使い方が元ネタのあますぎて捻りのないことに物足りなさを感じてしまいました。
同じくネタに被りや既視感がある場合でも、たとえば「オークに犯される女騎士」というエロゲーのネタをメタ的に扱ったのは比較的最近『女騎士さん、ジャスコ行こうよ』という例がありましたが、この場合、本作はこのネタを踏まえた上でオークのイメージに捻りを加えていたりします。それに比べると、ファンタジー以外のネタはキレを欠くような。
「前世からの宿縁」という、とりわけ深い結び付きを感じさせる設定を、もっぱら二人をイチャイチャさせるために使うという発想は評価したいと思います。
ただ、そこで描かれているのは結局エロです。
無論、ずっと求め合いながら離ればなれだった二人、体を求める気持ちは分かります。
ただ、敵に陵辱されるシーンでもエロシーンの描き方は基本同じであるのを見ると、エロと恋愛感情は別物であることを本作の語りそのものがはしなくも証し立てしてしまっているように思えるのです。
だから、二人のイチャイチャを描くという点でも不満は残ります。
理奈の元に勇者リーナの使っていた聖剣エリオティート(意志を持ち、美少女の姿に変身できる)も戻ってきて大智を敵視しているという設定もあり、人間よりもずっと長い時を生きて持ち主のことを想っている彼女の「道具としての立場」を絡めた修羅場なども、面白くなり得た気がするのですが、これまたエロで有耶無耶にされた感がなきにしもああらず。
全体として、「後半で強敵が現れ、それを乗り越えるのがクライマックスになる」というストーリーのフォーマットとエロを描く意志に引きずられている感の強い作品でしたが、それが本当にネタを活かすやり方なのかどうか、作者には今一度考えてほしいと思います。
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