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旧き習俗と怪異――『夢見村にて 妖怪ハンター 稗田の生徒たち 1』

今回はこちらの漫画を取り上げさせていただきます。
気が付けば発売から1年近く経っていたわけですが、まあ(巻数のナンバリングは1とあるものの)次がいつ出るとも知れない作品ですし……

夢見村にて 妖怪ハンター 稗田の生徒たち (1) (ヤングジャンプコミックス)夢見村にて 妖怪ハンター 稗田の生徒たち (1) (ヤングジャンプコミックス)
(2014/02/19)
諸星 大二郎

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本作は『妖怪ハンター』シリーズ久々の新巻ですが、前巻に相当する『魔障ヶ岳』が出てからこの『夢見村にて』まで8年余りが経っています。
私自身も Amazon で既刊を当たってみると「2006年にこの本を注文しました」等という自分の履歴を見て、これまた時の流れに驚きました。

妖怪ハンター 天の巻 (集英社文庫)妖怪ハンター 天の巻 (集英社文庫)
(2005/11/18)
諸星 大二郎

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妖怪ハンター 地の巻 (集英社文庫)妖怪ハンター 地の巻 (集英社文庫)
(2005/11/18)
諸星 大二郎

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妖怪ハンター 水の巻 (集英社文庫―コミック版)妖怪ハンター 水の巻 (集英社文庫―コミック版)
(2005/12/13)
諸星 大二郎

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さて、この『妖怪ハンター』シリーズは、実に1970年代に『週刊少年ジャンプ』で連載されて以来、媒体を移しながら40年間断続的に続いているシリーズです。
主人公は異端の考古学者(内容は民俗学寄りのことも多いのですが、あくまで専門は考古学です)の稗田礼二郎(ひえだ れいじろう)。彼がフィールドワークを行い、様々な神あるいは妖怪といった存在と出くわす物語です。
稗田礼二郎は名前からして『古事記』の稗田阿礼を元ネタにしているくらいで、基本的には語り手であり、自分や身近な人に危険が迫らない限りは積極的に怪異と戦ったりはしません。研究対象を破壊したりしないという意味で、非情に学者らしい態度とも言えましょう。
そして、民話や民俗学をモチーフにしていても、学的厳密さにはこだわらず、自由にして鮮やかなイマジネーションを見せてくれるのも、本シリーズの特徴です。
日本の隠れキリシタンの村に独自のキリストが降臨したり、「海はつながっとるけん」の一言により壇ノ浦で死んだ安徳天皇の霊が離れた島に現れたり、皿屋敷のお菊を『古事記』に一ヶ所だけ登場する菊理媛と結び付けたり……

さて、今回は「稗田の生徒たち」ということで、狂言回しの役もかつて稗田と出会い、影響を受けた少年少女にバトンタッチしています。稗田も登場はしますが、脇役です。
私も久しぶりなので、彼ら準レギュラーキャラのことはかなり忘れていましたが、名前を見るとその存在は朧気にでも思い出せるもので、何とも言えぬ懐かしさや感慨がありました。

まず前半「夢見村にて」の主役は、大学生になって民俗学を専攻している天木薫(あまぎ かおる)君。
彼はこの度、夢を売り買いする風習があるという山間の村、夢見村にフィールドワークにやって来ました。

夢見村より1

夢見村より2
 (諸星大二郎『夢見村にて 妖怪ハンター 稗田の生徒たち 1』、2014、集英社、pp. 6-7)

諸星氏の絵だとエロスは控え目ですが、この通りサービスもあります。
さて、夢が正夢であるとか、さらにはそれを人に売り買いしたという伝承が今にまで生きている田舎……なのはともかく、この夢見村の村人たちは異様なほどに夢のやり取りに執着していました。
やたらと夢売買を持ちかけてくる者、暴力で夢を奪おうとする者、さらには夢のことをしつこく聞いた挙げ句、凶夢だからその夢を人に移すべきだと勧めてくる者たち……

夢見村 長者どん
 (同書、p. 16)

夢見村より カンジ
 (同書、p. 22)

夢見村より3
 (同書、p. 26)

実にシュールです。
そして夢か現実か、夢ばかりか命まで奪わんと襲ってくる怪物「夢盗り男」……

夢盗り男
 (同書、p. 14)

これは怖い。

現実で行動していたと思ったらいつの間にかこの世ならざるものの出現する世界に迷い込んで夢オチになり、夢と現実が判別し難く交錯する演出、そして夢が誰に奪われてどこに行ったのかを追いかけるミステリ的展開、いずれも実に見事です。

今回、薫は一人でフィールドワークに訪れていますが、妹の美加(みか)も途中から助けに現れます。
むしろ夢ならば、巫女的な超能力を持つ彼女の舞台。遠隔地から夢の中にも介入してきます。

夢見村より4

夢見村より5
 (同書、pp. 20-21)

夢見村より 薫&美加
 (同書、p. 98)


さて、ここで振り返ってみると、天木薫・美加の兄妹が初登場したのは「花咲爺論序説」(初出'85年)でした。

天木薫1
 (諸星大二郎『海竜祭の夜―妖怪ハンター』、集英社、1988、p. 180)

天木薫2
 (同書、p. 186)

飛行機の墜落事故に遭い、文字通り奇跡によって命を取り留めた兄妹
この時、命と共に神秘的な能力をも得てしまった天木兄妹は、その後も何度か「生命の木」を巡る怪事に巻き込まれ、薫は記紀神話をなぞって「天孫」として降臨までしました。

年齢は明言されませんが、初登場時点での薫君は12歳前後くらいでしょうか。妹の美加はどう見ても小学生でした。
作中時間にしてそれから4年後、「天孫降臨」(初出'90年)で再登場した時は高校生くらいに見えるので、大体計算は合います。

天木薫3
 (諸星大二郎『天孫降臨 稗田礼二郎のフィールド・ノートより』、集英社、1993、p. 112)

さて、薫は「天孫降臨」で超能力も失いましたが、美加はまだ力を残しており、その後もゲスト出演して稗田先生を助ける場面がありました。
「黄泉からの声」(初出'93年)では彼女も高校生に。

天木美加
 (諸星大二郎『黄泉からの声 稗田礼二郎のフィールド・ノートより』、集英社、1994、p. 227)

作中ではこれ以降、美加はそれほど変わっていないように思われますが、それでも初登場から10年近くは経っていることになるのでしょうか。
稗田礼二郎の外見は全く変わっていませんが、確実に時は経っているようです。
(シリーズ第一作の「黒い探求者」では作中で「一九七X年」という年代への言及があり、『魔障ヶ岳』では携帯電話が登場していたことを考えれば、稗田が重ねた歳月はもっと長いことになりますが、まあ作中の時系列が描かれた順とも限りませんし、天木兄妹の登場するエピソードが10年の範囲内に収まるとしても矛盾はないでしょう)

今回、薫がシスコンだとか言われていますが(見ての通り、美加の方も大概です)、何しろ彼らは兄妹二人だけで奇跡的に命を得た身。
両親も一応登場していますが(「花咲爺序説」での薫のイニシャルがAでなくKなので、この後に兄妹を引き取った「両親」かも知れません)、娘を「生き神」として祀り上げようとする新興宗教に嵌って娘を差し出してしまうなど、あまりいいイメージがないので、それを思えば兄妹相互依存の感が強いのも無理からぬことかも知れません。


そして今回、後半は海辺の町・粟木(あわぎ)に住む、大島潮(おおしま うしお)(なぎさ)のカップルが主役。
発端は、渚が中学時代の同級生・後藤カオリが倒れているのを拾ったことから。

悪魚の海
 (『夢見村にて 妖怪ハンター 稗田の生徒たち 1』、前掲書、p. 144)

カオリは海女が盛んな集落の出身で、中学出身後は海女になったのですが、過酷な環境に耐えかねて逃げ出してきたとのこと。
それだけならありそうな話ですが、彼女の集落の海女はどうも普通ではなく、しかも海からは不気味な「悪魚」の姿が……

悪魚の海 悪魚
 (同書、p. 154)


潮君と渚の初登場は「うつぼ舟の女」(初出'91年)。

潮&渚1
 (『黄泉からの声 稗田礼二郎のフィールド・ノートより』、p. 9)

二人は、周辺の町にも足を伸ばしつつ、もっぱら海から来る怪異と遭遇します。
稗田礼二郎はどちらかというと山中に調査に行くことが多いので、上手く担当を分けた感じでしょうか。
しかも渚はしばしば幽体離脱して魂のみが向こう側の世界に行ってしまうという能力を持っており、そのたびに大島君は彼女を連れ戻すのに一苦労することになります。

潮&渚2
 (同書、p. 42)

稗田礼二郎が登場せず、二人の体験を稗田が聞いた話、という形で綴られるエピソードが続いたこともありました。
ちなみにこの二人も、作中で年齢に触れられることは少ないのですが、初登場時には中学生だったのが「それは時には少女となりて」(初出'04年、『妖怪ハンター』シリーズ以外も含む短編集『闇の鶯』収録)では高校生になっていました。
別の高校に進学したものの、関係は続いている模様。


さて、「稗田の生徒たち」の主役は、いずれもまず足を運ぶ男の子と、巫女的な能力を持つ女の子という組み合わせ。
女の子の能力を加えることで怪異に対し多角的に関わることができますし、何かと便利なのかも知れません(他方、稗田先生が登場しないと蘊蓄に関しては不足しますが)。
いずれ天木兄妹と潮・渚の出会いも描かれないものでしょうか。

そして、今回の2編はいずれも、古い因習の残る村とその末路を描いています。
そもそも神話や伝承をモチーフにしている以上、そうした習俗の残る田舎が舞台になるのは当然のことです(その他、考古学者である稗田が主人公の場合、もはや伝承を伝えるもののいない遺跡とそのに宿る怪異が描かれることもありましたが)。
ただ、ここでの「古い因習」の抱える問題とは、近代的な観点から見て旧弊的であるということでもなければ、逆に近代化によって損なわれ機能しなくなったというのでもありません。
この世ならざるモノの力や恵みを、時には理の裏をかき神を欺いてまでも手に入れるというやり方は、いずれ破綻するに決まっていたのです。

このような人間の神霊の関係の描き方は、『妖怪ハンター』シリーズの全てとは言わないものの、かなり多くのエピソードに見られるものです。
そこには、人間の浅ましさや空しさは強く印象付けられる一方、「時代が変わった」という印象は希薄です。

時代は変わっても、怪異は生き続けます。ただ、人間の浅ましさもまた、いつの世も変わらないのです。
――そんなトーンで描けるところに、お伽噺作家としての諸星氏の味があります。


なお、先月『妖怪ハンター』シリーズの既刊を一通り再読したので、各巻の感想を読書メーターから転載して追記に載せておきます。
海竜祭の夜―妖怪ハンター (Jump super ace)海竜祭の夜―妖怪ハンター (Jump super ace)
(1988/07)
諸星 大二郎

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新作を読んだこともあり何年ぶりかで再読。開始から40年経つ「妖怪ハンター」シリーズ第1弾(収録順が初出順と違っているが)。やはり印象が強いのは表題作の「あんとく様」と「生命の木」の「おらといっしょにぱらいそさいくだ」。他の話は結構忘れてて驚く。「花咲爺論序説」は準レギュラーとなる天木薫・美加の初登場でもあり(初登場時にはイニシャル違うけど)。最初から奇跡の兄妹だったな…とその後の成長を思い感慨に耽る。この話と「幻の木」は結構未解決要素も多いが、当初から続きを書く気があったのだろうか?



天孫降臨 (ヤングジャンプコミックス ワイド版)天孫降臨 (ヤングジャンプコミックス ワイド版)
(1993/02)
諸星 大二郎

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引き続き再読。最初の「闇の客人」と最後の「天神さま」は異界から来る鬼(?)にまつわる話。その間に再登場の天木兄妹が活躍する話が挟まれた格好か。「川上より来たりて」は加えて「幻の木」の続編でもあり。話として回収されたような、何とも不気味さが残るような…。奇跡で命と力を得た兄妹の神話的冒険もこれで終わり…かと言うとまだ出番が続く布石も打ってあったり。生命の木を追い続けた橘さんの出番もこれにて終了。しかしこうして見ると、別のエピソードであるものも含めて「生命の木」を巡る緩やかな連作が結構続いたという感じ。



黄泉からの声―妖怪ハンター (ヤングジャンプ・コミックス)黄泉からの声―妖怪ハンター (ヤングジャンプ・コミックス)
(1994/07)
諸星 大二郎

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引き続き再読。海辺の町・粟木を舞台に活躍する大島君・渚のカップルが初登場の「うつぼ舟」、願いを叶える遺跡を巡る「蟻地獄」、そして皿屋敷を題材にした表題作の3編。表題作の後編は珍しく東京が舞台になり、高校生になった天木美加も出演。年齢が明言されないことが多かったが、そうか…これ以降、美加は最新作までそれほど変わってないような。ともあれ、皿屋敷のお菊を古事記の菊理媛と結びつける大胆な解釈が魅力的。大島君・渚に関しては、いつも話が海に関わるだけにオチは似たような傾向になりがちなんだろうか。



六福神―妖怪ハンター (ヤングジャンプ・コミックスUJ)六福神―妖怪ハンター (ヤングジャンプ・コミックスUJ)
(1998/12)
諸星 大二郎

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引き続き再読。今回は大島潮君・渚のカップルが主役の4本に、雪国が舞台の「産女が来る夜」と河童を題材にした「淵の女」の2本。潮・渚のシリーズは海から漂着するエビスと海難・亡者を巡る話が主。七福神の数合わせを題材にして禍々しく描いた「六福神」は割と自分の思考に合ってて好み。現実と鏡像、生者と死者の入れ替わりを描いた「鏡島」も実にいい感じ。しかし絵的なインパクトな雪囲いの中をやって来る産女。神を欺いて利用しようとする人間の妄念……と言うべきだろうか?



稗田のモノ語り 魔障ヶ岳 妖怪ハンター (KCデラックス )稗田のモノ語り 魔障ヶ岳 妖怪ハンター (KCデラックス )
(2005/11/04)
諸星 大二郎

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再読。『妖怪ハンター』シリーズ随一の長編。例によって筋はかなり忘れてた。魔障ヶ岳の遺跡で稗田達は名前のない「モノ」と出会う。それに名付けた者達の数奇な運命。魔に取り憑かれたゴッドハンド考古学者、神を使役するようになった行者、死んだ男を追い求めた女…。モヒカンにサングラスのパンクな新興宗教教祖・岩田狂天がいい感じ。モノと出会った者の弟子の一人がこれ程の活躍とは。この軽さが得体の知れないものに捕らわれない秘訣だろうか。妖異の女性陣は正体不明だったり生き残ったりしたのも多いが、この得体の知れなさも味の内、か。



闇の鶯 (KCデラックス )闇の鶯 (KCデラックス )
(2009/04/23)
諸星 大二郎

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再読。『妖怪ハンター』スピンオフと言うか大島潮君・渚が主役の「それは時には少女となりて」と、やはり海の怪異を描いた「人魚の記憶」、元は『京極堂トリビュート』に収録された短編(ここでも稗田先生が登場)、山を開発する企業と山姥の奇妙な多血を描いた表題作に、不思議な砂漠の旅を描く「涸れ川」を収録。大島君達は高校生になったか…それ程変わってないけど。他が2000年代の作品なのに対して表題作は'89年の作で、パソコンのレトロさにそれが現れている。しかし海の恐怖とか原発とか、今見るとまた色々思うものがあったり。


なお、表題作「闇の鶯」には稗田礼二郎こそ登場しませんが、と名乗る美女――実は山姥――は、『魔障ヶ岳』に登場した謎の美女と同一人物のようです。
外見だけなら空似の可能性もありますが、設定を加味しても辻褄は合いますし、そう考えると『魔障ヶ岳』の中では正体不明だった彼女のことまで上手く解決が付きますから。

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コメント

俺はヤンデレ寄贈魔!!

京都国際マンガミュージアム三階のマンガの壁に置いてある漫画「妖怪ハンター稗田の生徒たち(1)夢見村にて」は俺が寄贈したものだ!!。すごいだろう?。

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
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