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絶滅危惧動物の報恩譚――『ニートの恩返し』

真冬も真冬、正月だというのに桜(八重)が咲いていました。
まだ蕾のままのものが多いとは言え……

冬桜

 ~~~

それはそうと、気が付けば発売から2ヶ月経ってしまっていますが、今回取り上げるライトノベルはこちらです。

ニートの恩返し (電撃文庫)ニートの恩返し (電撃文庫)
(2014/11/08)
丸山 英人

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主人公の葛城大和(かつらぎ やまと)は高校生。両親はおらず、保護者である姉も仕事で出張していて不在です。
彼はある日、(不自然にも)公園で罠(トラバサミ)に掛かっている鶴を助けます。するとその晩、一人の美少女が彼の家を訪ねてきたのでした。
たとえ正体を明かされずとも、これは鶴の恩返し? と期待せざるを得ない状況――と言うか、彼女の正体が鶴なのまでは事実でしたが、さて蓋を開けてみると彼女、摩耶(まや)ニートのダメ人間(鶴)でした。
人間に恩返しをしようとする動物たちの組織「日本報恩協会」からツシマヤマネコの西峯由良(にしみね ゆら)が派遣されてきて連れ戻そうとするものの、「これから恩返しをするつもりだったんだから」といった言い訳をして居座る始末。

さて、本作にはかなり色々な要素が詰め込まれています。

・動物報恩譚
現代の街中で動物を助け、それが恩返しにやって来たら……という発想こそ、本作の原点と言ってもいいものです。

・絶滅危惧種の保護
現在、タンチョウヅルも絶滅危惧種です。
作中における「日本報恩協会」は、人間に保護を促すべくアピールするという目標のもとに恩返しを行っています。
しかし、人間に化けられる「擬人」と呼ばれる動物はごく少数。彼らが手の届く範囲内で人助けをしても動物を絶滅から救うには程遠いわけで、だから協会にも綺麗ではない裏があったりします。

・動物の側の問題
擬人は動物の中でも特殊な存在であって、同種動物の中でも苦労があります。
さらに、擬人の中でも人間に媚を売る報恩協会のやり方を良しとしない者たちもいます。

・ラブコメ
当然ながら、この要素はあります。

結局、最後までこれらの要素がいささかとっちらかったままの印象がありました。
たとえば――

「ではもし、捕まっていたのが鶴ではなく他の鳥――そうですね、例えばダチョウだったら、どうしていましたか?」
「だっ、ダチョウ!?」
「はい。ダチョウです」
 どうしてそんな仮定を持ち出してきたのか分からないが、由良さんはやはり真面目な顔のまま、頷く。
「それは……たぶん、助けなかったんじゃないか、と、思います、よ?」
 街中にダチョウがいる光景は、鶴以上にイメージしにくい。そもそもトラバサミで捕らえられる気がしないし。
 それでも頑張って頭を働かせ、かなりの角度で頸を傾げながら答えると、
「そうでしょう」
 由良さんはまるで子供が自慢するように、ふふんと胸を反らした。
「これこそが、動物報恩譚の効果なんです。恩返しをするイメージのある鶴と、そうでないダチョウ。同じ鳥類でありながら、たったそれだけの差で、致命的なまでに対応が変わってくるわけですね」
「…………えっ? それはちょっと違わないですか?」
「? 何が違うと?」
「えっと……、……いや、何でもないです」
 主にサイズが全然違うし、僕の判断基準はそこだったんだけど、本気でそう信じているらしい由良さんに伝えるのは少し気が引けた。
 (丸山英人『ニートの恩返し』、KADOKAWA、2014、pp. 74-75)


ここでの「動物報恩譚の効果」なるものはツッコミを入れて笑うべきネタ扱いです。
しかし、いつの間にやらこの「効果」が前提されて、絶滅危惧動物の保護という深刻な話題に接続されています。

もちろん、この話が大いに疑問ありで、「恩返しをするイメージ」があるだけではさしたる効果が望めないからこそ、綺麗なばかりではない報恩協会の実態の話に繋がる…・・と考えれば、筋は通っています。
ただ、やはりギャグからシリアスへの接続が甘い、あるいは接続というよりも一貫して「真面目にバカバカしいことをする」のが方針ならば、もっと突き抜けることが求められるように思います。

そもそも、動物保護にせよ報恩協会の実態にせよ擬人側の生き方の問題にせよ、様々な問題を抱えていることだけが提示されて後はほとんど放置されているように思えます。
もちろん、絶滅危惧動物の保護というのは現実の重い問題で、安易な解決が存在しないのは分かります。
しかし、ファンタジーの形で描くからこそ――見事な「答えを提示する」のではなくとも――現実には不可能なところまで突き抜けて、その分だけ問題を掘り下げることもできるのではありますまいか。
本作はその点に関して物足りなさを感じます。

こうしたトーンの問題はラブコメ面に関しても言えます。
例えば、主人公の大和はほとんど姉に心酔していると言ってもいいシスコンです。

 構うとか構わないとか、そういう次元の話ではない。
 いついかなる時でも、姉さんこそが常に正しいのだから。
 (同書、p. 236)


他のことはともかく、姉が絡むと地の文で一切疑問を抱かずこの調子です。
これは普通ならば、読者はツッコミを入れて笑うことが期待されるトーンであって、ここから彼が姉を優先しすぎるがゆえに起こるケンカを真面目に描かれても、戸惑ってしまいます。
姉に育てられてきた大和にとって姉さんがいかに大切な人であるか、また(終盤で電話の向こうに登場するだけですが)客観的に見て姉がいい人であるらしいことも理解できます。
しかし、それと「どう読まれることを期待するノリか」は別問題です。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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