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始まりを振り返り、後日譚で締める――『B.A.D. チョコレートデイズ 4』

そう言えば、元旦に言ってきた穂高神社では能面展というのをやっていました。
現役の方々による創作ですが、なかなか面白いものでしたよ。

能面展

 ~~~

今回取り上げるライトノベルはこちらです。

B.A.D.チョコレートデイズ(4) (ファミ通文庫)B.A.D.チョコレートデイズ(4) (ファミ通文庫)
(2014/12/26)
綾里 けいし

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 (前巻――本編最終巻――の記事

この『B.A.D.』シリーズ、本編は全13巻で完結した作品です。
この『チョコレートデイズ』は本編に平行して刊行されてきた番外編的な短編集で、この短編集4巻をもって正真正銘最後の『B.A.D.』となります。
本編が全13巻、番外編が全4巻とは、やはり「不吉な数字」をイメージしてのことでしょうか(前者はヨーロッパ、後者は日本のものなので、一緒くたにするのも妙な話ですが、これまたゴシックロリータに唐傘という和洋混合の繭墨のスタイルに相応しいのかも知れません)。

B.A.D. チョコレートデイズ(1) (ファミ通文庫)B.A.D. チョコレートデイズ(1) (ファミ通文庫)
(2011/01/29)
綾里 けいし

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B.A.D. チョコレートデイズ(2) (ファミ通文庫)B.A.D. チョコレートデイズ(2) (ファミ通文庫)
(2011/10/29)
綾里 けいし

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B.A.D. チョコレートデイズ(3) (ファミ通文庫)B.A.D. チョコレートデイズ(3) (ファミ通文庫)
(2012/07/30)
綾里けいし

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さて、今回の『チョコレートデイズ』4巻は5本のエピソードを収録していますが、内4本は以前に「FBonline」に掲載されたもので、本編の後日譚となる最後のエピソードのみが書き下ろしです。
しかも――あとがきに詳しい説明がありますが――初出は2010~2012年と、結構以前のもの。最初の「小田桐は今日も理不尽と戦う」に至っては、本編1巻の発売前に Web 掲載されています。
1巻発売前に(1巻の内容の先行掲載ではなく、別の)短編を先行掲載し、単行本収録が後になるというのは『涼宮ハルヒ』等にもあったことですが、単行本化が最終巻になるとはいささか異例。
作中の時系列的にも――書かれたのが早い時期なので、あまり後の内容を踏まえていないのは当然として――、5本の内、小田桐視点で描かれる3本は全て本編1巻より前の内容。
それゆえ、本編が終わった後でここまでの長い旅路の初期を振り返るという色彩の強い1冊となりました。

まだ小田桐が腹の子に名前を付ける以前、自らの孕んだものを忌まわしく思い、繭墨あざかに対しても――合わないのは最後まで変わらないとしても――独特の思い入れを抱く前の時期。
その意味で初期の雰囲気を思い出させる話もでありますが、他方で本編1巻の頃の内容とは明確な違いもあります。
『B.A.D.』本編は、「怪異」よりも「異能」に軸のある話でした。
霊や鬼が怪奇現象を起こし人を苦しめるとしても、その背後には異能者――1巻であれば宿敵の「狐」こと繭墨あさと――の存在がありました。
人間の浅ましさ醜さも、救いのない悲劇も描かれましたが、しかしそれを通して最終的に浮かび上がるのは、人をそのように導く黒幕のあくどさでした。

それに対し、『チョコレートデイズ』は異能者も登場するものの、むしろ自然発生的な怪異が主体です。
そこでは人間の愚かさ、不幸な過ち、はたまた異能者でも怨霊でもないという意味では「普通の」人間の腹黒さや恐ろしさが際立ちます。

だからでしょうか、今回2編では「一般人」でありながら、もしかするとレギュラーキャラの中でも一番怖い存在であった七瀬七海(ななせ ななみ)――小田桐の住むアパート「メゾン・ド・ナナセ」の大家の孫娘で、恐ろしく現実的で腹黒い小学生――がメインに近い活躍をします。
もっともそんな彼女が、本編後半では「人の尊厳を認め、別れを悲しむ」方面で活躍を見せたのですから意外と言うか、当初はもっと裏がありそうにも見えたのですが……
ちなみに、今回は長い間その実在が疑われてきた七海さんのお祖母ちゃんについても、最後で真相が明らかになりました。むしろ実在しないとかすでに死んでいるとかいう真相でなかったことに驚きですね。いや厳密に言えば、今回も証拠が提示されたわけではありませんが……

それはそうと、今回は小田桐視点の話が5編中3編、というわけで、残りの内1編は水無瀬白雪視点で、本編5巻頃のエピソード。
本編の後日譚となる最後の1編はたまたま小田桐たちに出会うことになった新キャラ視点です。
それぞれの幸せそうな姿を見られて良かったですね。長い苦難の果てにここまで辿り着いたのだと思うとなおさら……
小田桐はあくまで自分を「普通」だと信じ続けているようで、あれほどに特異な体験をし、異常な状況に置かれればこそ普通であろうとしていた欲望は全く変わっていないようですが。
アフターストーリーとしては十二分な満足を与えてくれました。

『部活アンソロジー 青』収録の「宵下様探索部」に登場する八軒坂藍(はっけんざか あい)の名前がさらっと出てくるといったクロスオーバーも嬉しいサービスでしたね。

 ―――

過去にも言った覚えのあることでしつこくはありますが、本作は京極夏彦の影響が顕著です。
怪異を巡るモチーフに共通するのはもちろん、繭墨あざかの口調や愚かな語り手に対する小馬鹿にした言い方、さらには論理的思考も、怪異が実在する世界に京極堂がいたらこんな感じかな、と思わせるものがあります。

「神社の前の道には、幽霊が出る……その幽霊を見ると、神隠しにあう」
 よく考えてみたまえ、この時点で噂の内容は食い違っているじゃないか。

 ひらりと繭墨は起き上がった。革張りのソファーに、彼女は両足を揃えて腰掛ける。
 繭墨は再び机に指を伸ばした。彼女は、白い婦人像を象ったチョコレートをつまむ。

「幽霊は人だ。今回の怪異は、幽霊を見ることによって、発生するという。それならば、全ては幽霊………即ち、死者の仕業のはずだよ。神に隠される? 馬鹿馬鹿しい。まぁ、ただ単に、突然失踪することを、『神隠し』と、称しているだけかもしれないけどね」
 (綾里けいし『B.A.D. チョコレートデイズ 4』、KADOKAWA、2014、pp. 88-89)


ただし、京極堂が「憑物落とし」を行う拝み屋であるのに対し、繭墨は霊能探偵、しかも退屈凌ぎを求めているだけで、誰をも救いません。
怪異もそれを祓う異能者も実在する世界にあって、繭墨は「祓う」のが本業ではないしその気もないのです。

繭墨は探偵――つまり、真実を暴く者です。
それを象徴するのが、彼女が唐傘を開くと、その場に死者の怨念が残っていれば最期の光景を再現できる、という能力です(繭墨あざか本来の異能は「異界を渡る」ことであって、死の光景の再現はその一端ですし、その異能で怪異を消し去ることが可能な場合もありますが、ただどちらかというと彼女の異能は具体的な使いどころの難しいものです)。
そして、真実を示した上で、救うための助力も助言もすることなく、どうするかは当事者に委ねるのです。
結果、人は往々にして助かる可能性もあったのに自ら救いの道を放棄して破滅に至るわけで、そんな時にはとりわけ人間の浅ましさが強く印象付けられます。今回もそんなエピソードがありました。

むしろ、怪異が客観的な実在だからこそ、「祓わない霊能者」が存在し得る、とも言えるかも知れませんが。

 ―――

なお、本作については9巻くらいまで出ていた時点でまとめてシリーズとしての紹介文を書いただけだったので、完結を機に、9巻までの各巻の簡単なレビューを追記に書いておこうと思います。

B.A.D. 1 繭墨は今日もチョコレートを食べる (ファミ通文庫)B.A.D. 1 繭墨は今日もチョコレートを食べる (ファミ通文庫)
(2010/01/30)
綾里 けいし

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繭墨霊能探偵事務所の助手である小田桐勤が、事務所に持ち込まれる様々な怪異と出会う……という話ですが、上述の通り、各事件の背後には「狐」という黒幕の存在があり、それと繭墨家の事情と小田桐が腹に鬼を孕むことになった事情とが最後に収束する物語でした。
だから、事件関係者にはそれぞれの妄念やら何やらがあるものの、つまるところそうした「人間の闇」が第一の地位を占める作品という印象ではありませんでした。
ただ、演出や叙述トリックを巧みに使った構成力は当初から並外れていましたが。

B.A.D. 2 繭墨はけっして神に祈らない (ファミ通文庫)B.A.D. 2 繭墨はけっして神に祈らない (ファミ通文庫)
(2010/03/29)
綾里 けいし

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2巻は文字を書くことで生物を具現化できる異能の一族「水無瀬」を巡る物語。
ここで登場する水無瀬家の当主・白雪はその後重要なレギュラーキャラになります。
2巻から登場し、本編の単行本表紙に登場しないヒロインが最終的に主人公と結ばれる相手になる、というのも当初は全く予想もしない事態でした。

ただ、この巻は他と比べても抜きん出てホラーよりも異能バトル色が強めで、少し毛色が違うと思えるほど。
その後の展開を見ても、異能者たちの中で白雪はとりわけ戦闘向きの能力者という印象です。

B.A.D. 3 繭墨はおとぎ話の結末を知っている (ファミ通文庫)B.A.D. 3 繭墨はおとぎ話の結末を知っている (ファミ通文庫)
(2010/07/30)
綾里 けいし

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いくつかの事件が起こりますが、全てにおいて小田桐の正義感の類がことごとく裏目に出て、相手を救うどころか滅ぼしてしまう話。ある意味では、小田桐が空回りするというフォーマットが出来上がった巻でもあります。
ただ、ここでもやはり黒幕がいるのですが……

B.A.D. 4 繭墨はさしだされた手を握らない (ファミ通文庫)B.A.D. 4 繭墨はさしだされた手を握らない (ファミ通文庫)
(2010/11/29)
綾里 けいし

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2巻を除きここまで毎回の事件の黒幕であった「狐」――あさととの(ひとまずの)決着巻。
前巻で全てが裏目に出たことで精神的にほとんど壊れていた小田桐が再起して挑む――という辺り、王道とも言えます。

B.A.D. 5 繭墨は猫の狂言を笑う (ファミ通文庫)B.A.D. 5 繭墨は猫の狂言を笑う (ファミ通文庫)
(2011/04/30)
綾里 けいし

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あさとに恋し、あさとの起こす怪事を模倣する「猫」こと神宮ゆうりが登場、山奥の女子校を舞台に事件を起こします。
ただ、ゆうりはあさとと異なり、必ずしも人を陥れるために遠大な計画を練っていたわけではないので、外道としての印象はいくぶん控え目。
その分、彼女の蒔いた種によって破滅していく周囲の少女たちの愛憎劇が際立ちました。
人間の闇を描くという点で、この辺りが一つの転機だったのかも知れません。

B.A.D. 6 繭墨はいつまでも退屈に眠る (ファミ通文庫)B.A.D. 6 繭墨はいつまでも退屈に眠る (ファミ通文庫)
(2011/07/30)
綾里 けいし

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長編としての繋がりはやや弱め。その分、何があっても変わらないように思われる繭墨と小田桐の関係を改めて強調した巻でしょうか。
ちなみに、目潰し殺人鬼が登場、そして一時的に視力を失った小田桐が変わりにいつもより見えないものが見えるようになる、という内容はことさらに京極夏彦の影響を強く感じました(目潰し魔は『絡新婦の理』、失明の件は『陰摩羅鬼の瑕』)。

B.A.D. 7 繭墨は人形の悲しみをかえりみない (ファミ通文庫)B.A.D. 7 繭墨は人形の悲しみをかえりみない (ファミ通文庫)
(2012/01/30)
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B.A.D. 8 繭墨は髑髏に花を手向けない (ファミ通文庫)B.A.D. 8 繭墨は髑髏に花を手向けない (ファミ通文庫)
(2012/04/28)
綾里けいし

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B.A.D. 9 繭墨は人間の慟哭をただ眺める (ファミ通文庫)B.A.D. 9 繭墨は人間の慟哭をただ眺める (ファミ通文庫)
(2012/10/29)
綾里けいし

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7~9巻は、1巻以来のレギュラーであった嵯峨雄介(さが ゆうすけ)がメインとなる巻。その他、1巻で登場したきりの久々津(くぐつ)も再登場して随分と美味しい役を担います。
さらに、ラスボスの「紅い女」も登場。
過去の事件関係者は必ずしも救われてはおらず、それゆえに彼らにとって事件は終わらないまま、再び闇を抱えて事件の中心になることもあり得る……という本作の遠大な構成を見せてくれた話でした。

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
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