スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

不本意ながら覇道へ――『吸血姫は薔薇色の夢をみる』

今回取り上げる小説はこちら。
判型を文庫より大きい単行本サイズですし、そもそもレーベル名がない(つまり、レーベルとして同一企画の小説を刊行し続けている出版社ではないらしい)ので扱いがよく分かりませんが、例によってWebサイト「小説家になろう」出身作品なので、今やライトノベル界を席巻する「なろう」系に属すると言ってもいいでしょう。

吸血姫は薔薇色の夢をみる 1 イノセント・ヴァンパイア吸血姫は薔薇色の夢をみる 1 イノセント・ヴァンパイア
(2014/08/08)
佐崎 一路

商品詳細を見る

吸血姫は薔薇色の夢をみる 2 ハウリング・ゾアン吸血姫は薔薇色の夢をみる 2 ハウリング・ゾアン
(2014/10/10)
佐崎 一路

商品詳細を見る

吸血姫は薔薇色の夢をみる 3 ケイオス・ジョーカー吸血姫は薔薇色の夢をみる 3 ケイオス・ジョーカー
(2014/12/15)
佐崎 一路

商品詳細を見る

Web 版はこちら

本作はTS異世界転生ものです。
主人公の少年(元の本名は不明)は事故で死んで、生前プレイしていたオンラインゲーム『エターナル・ホライゾン・オンライン』において自らが操作していたキャラ、「吸血姫」の美少女の緋雪(ひゆき)に転生してしまいます。
自分がゲームプレイで作った空中庭園、従魔として集めた数々のボス級モンスターたちもそのまま引き継がれていますが、ただゲーム内世界では主人公たちプレイヤーが消えてから百年が経過しており、世界の様子も大きく様変わりしている模様。
しかも、ゲーム中のボスモンスターは単独だとプレイヤーより遙かに強いのですが、味方にするとゲームバランス上、的だった時よりも遙かにパラメータが下がっています。ところが、緋雪配下のモンスターたちは敵だった時の本来を取り戻しており、緋雪よりもずっと強いという状況。それいて主君たる緋雪に対する忠誠心は変わらず、しかも主君が目覚めたからには下界を殲滅しようとか言い出す血の気の多い連中。
部下たちの喧嘩のとばっちりで死にかねない状況の中、部下のモンスターたちの暴走を諫めつつ、それでも気が付けば「真紅帝国(インペリアル・クリムゾン)の国主として覇権を拡大していってしまう緋雪……

こういう設定を見るとまず気になるのは、この世界が「ゲーム」である(あった)ことの意味は何なのか、ということです。

(1) ゲームの世界を主たる舞台にする
(2) 作中世界に存在するゲームとよく似た世界を舞台にする
(3) ゲーム的な世界観である

この三者の違いは何でしょうか。
(1)の場合、現実の世界との関係が問題になることもあります。たとえゲームの中での冒険がメインでも、現実の世界の方で同時に「このゲームは何なのか」を問題にしたり。ただ本作の場合、同時に「転生」という要素があり、これは(一度死んだからには)元の世界に戻ることはないことを象徴するような設定なので、この点は問題になり得ません。
しかも本作の場合、ゲームであった時とはかなり世界の様相が変わっているので、また設定上も「ゲームとは違う」ことがしばしば強調されます。そもそも『エターナル・ホライゾン・オンライン』はヴァーチャルリアリティ・ゲームではなく、生前はあくまでゲームの世界を「モニター越しに」見ていたわけで、そこに生身に降り立つとなれば状況はまるで違ってきます。他にも、HPにはまだ余裕があっても痛みで動きが止まることもあるなど、現実とゲームの違いが色々と描写されます。
その点では(2)に近いのかも知れませんが、ただ緋雪配下のモンスターたちはもちろん、地上でも「喪失世紀」としてプレイヤーたちが存在した時代のことが伝説的に伝えられているので、ゲームと似ているだけで別物、というわけでもありません。
当然、コンティニューなども不可能です(主人公は蘇生魔法が使えますが、それも自身が生きていてこそです)。それでもゲーム的世界観が残っている要素として、主人公は自分や他人のパラメータを見ることができる、というのがあります。Web版では本文中にHPやMPを表示することで、配下のモンスターたちが緋雪より文字通り桁違いに強いことが分かりやすく示されていました。書籍版ではそれは本文中からは消えて、巻末のキャラクター紹介に回されていますが、主人公は相手の強さを客観的に見ることができるという設定に変わりはありません。

(3)「ゲーム的な世界観」を採用しつつ、その意義が「パラメータを数値化して表示できる」という便利さ程度のことに留まっているような作例もあり、そういうものは安易の感を禁じ得ません。
ただ本作の場合、生前にプレイしていたゲームと繋がっている、というのがミソでしょう。
凝り症からボス級モンスターを配下に集め、ギルドの本拠地として空中庭園まで作ってしまった時には、まさかその世界に生身で入ることになるとは思わず。モニター越しに見ているのとは段違いの存在感のモンスターたち、しかも意志を持っていて血の気が多く抑えるのも一苦労、まさかこんなことになるとは思っていなかった――このギャップは、確かに「外」からプレイしていたゲームの「中」に転生したという設定なればこそ、でしょう。

他方で、美少女の吸血姫に転生したことによるTSの要素は薄め。
自分の身体に戸惑うシーンも少なく、せいぜい緋雪の「~だねぇ」という少年的な口調がユニセックスな魅力を醸し出しているくらいでしょうか。お忍びで地上に降りてきていた緋雪と出会い魅了された駆け出し冒険者の少年・ジョーイ視点のパートも結構ありますが、そこを見ても緋雪がそこまで「中身が少年」ならではの魅力を持って見えるかというと、そうでもないように思われます。「男の気持ちをよく分かってくれる」なんて場面があればまた話は変わったかも知れませんが、それには緋雪のキャラは浮き世離れしすぎています。

そもそも当初は、緋雪のキャラも摑みにくい部分があります。
自分より圧倒的に強い部下のモンスターたちに脅えている普通の人間かと思いきや、かなり冷静で達観しているところもあって、この世界の人間たちから助力を求められても情では動かず、相手が相応の条件を出して交渉できないと見ると冷ややかです。

 ハッキリ言ってボクには関係ない話だよね。今日にもこの街を出立する予定だったんだから。
 (佐崎一路『吸血姫は薔薇色の夢をみる 1 イノセント・ヴァンパイア』、新紀元社、2014、p. 126)


危険があることを知っていて開拓村を作るような連中には怒りを見せつつ、だからといってその犠牲になる人を救おうとするわけではなくて、高見の見物をしながら「外来種であるボクらが余計な手出しをすべきことではないと思う」(同書、p. 141)と言ってしまうくらいには非情。
彼(女)がそんな人物である背景も描かれてはいますが、当初はなかなか摑めないのは事実。
Web 連載作品ならではの、情報の出し方が計画的とは言えない面が、出ているのかも知れません。
ストーリーの流れを見ていても、突然場面を転換しておいて、そうなった事情を後で遡って描いたり、急に過去の挿話的なエピソードを描いたりする時系列の入れ替えに、あまり構成上の必然性を感じないことがままありました。
単行本の切れ目とストーリーの切れ目が合致していないことと相俟って、連載ならではの事態を感じます。

それはそうと、「平和的」なやり方を望みつつ、「真紅帝国」の圧倒的な力ゆえに何か交渉すれば武力威圧を様相を呈し、またそれを恐れる余りに勝手に敵視してくる勢力も後を絶たず、覇権を拡大することになる緋雪。
そういう意味では、戦記での「俺TUEE系」とも言えます。
ただ、2巻から緋雪以外の「プレイヤー」も登場、互角以上の敵が現れることで、徐々に様子が変わり、3巻では「真紅帝国」の総力を挙げてなお苦戦する強敵も登場します。
どうやら物語はこの世界誕生の謎を巡るものになり、そして他のプレイヤーを束ね、「この世界の神のような存在」とも言われる「蒼神」との対決に収斂していくようですが……ただ、3巻では「蒼神」の方も底が見えた印象も、なきにしてもあらず。

主人公の人格は上述の通りなので、彼(女)に関してはあまり成長の要素はないのですが、サブキャラに関してはいささか物悲しい悲劇や、それなりにカタルシスのある成長物語もあります。
他方、愚かで下衆な悪役も多く、彼らはもちろん、多くの場合無残な最期を遂げる……のですが、彼らの末路の憐れさもさほど強調されず、ほとんど描写すらなく消えることもありました。どうも作者は、悪役の末路を描写することには、あまり関心がなさそうに見えます。

いずれにせよ、どうやら今年2月発売予定の4巻で完結のようなので、楽しみにしておきましょう。

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。