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文明崩壊後の世界という設定は便利に使えるか――『ファング・オブ・アンダードッグ』

今回取り上げるライトノベルはこちら。
ダッシュエックス文庫は集英社スーパーダッシュ文庫がリニューアルしたもので、スーパーダッシュ文庫はアサウラ氏の代表作である『ベン・トー』を刊行していたレーベルですから、『ベン・トー』完結後の同レーベルでの新作ということになります。

ファング・オブ・アンダードッグ (ダッシュエックス文庫)ファング・オブ・アンダードッグ (ダッシュエックス文庫)
(2014/11/21)
アサウラ

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取り上げるのがちょっと遅くなってしまったので、気が付けば今月に次巻が発売予定ですが……

ファング・オブ・アンダードッグ2 烏の嘴 (ダッシュエックス文庫)ファング・オブ・アンダードッグ2 烏の嘴 (ダッシュエックス文庫)
(2015/01/23)
アサウラ

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本作の舞台は文明が崩壊して1000年後くらいの未来です。
文明が崩壊した原因は「陣」という異能を巡る戦争であり、そしてこの大戦で投入されたとされる生物兵器「鵺」は今でも世界に横行して、脅威となっています。
そして、「陣」を使う「陣士」たちは今も天変地異をも操るその力によって活躍していますが、恐れられ命を狙われる存在でもあります。

主人公は「陣士殺し」として恐れられた剣士の一族・府津羅(ふつら)の出身の少年ですが、剣の才能の無さゆえに蔑まれ、兄からも徹底して「負け犬」として育てられてきました。
そんな彼は、兄への意趣返しか剣以外の力を求めてか、彼は陣士を目指します。陣士は狙われることが多いから本名は書かないようにと勧められてのことですが、名も「アルク」と変えて(本名は不明)。

この1巻はアルクが歩み出すまでのプロローグという感じですね。
何しろ、彼が「漢字を身体に入れて」陣を使えるようになるまでで前半3分の1、それから残りは「最終試験」としての同期の陣士候補生との戦い――つまりほぼ丸一冊、全て陣士になるまでの試験です。次巻から、彼が陣士としての仕事のため旅立つことになりそうです。
内面的にも、1巻のアルクはずっと家と兄のことでうじうじと悩んでばかりで、相棒のユニの言葉もあって彼がそんな自分と向き合い、受け入れるところが山場になっています。
その分、兄への愛憎半ばする思い、自ら縛られてしまう心情の描写は見応えがあります。

基本的にはシリアスな作品ですが、気の抜けるようなギャグ要員もあり。
ギャグとシリアスの緩急を付けるのはいいのですが、主人公の抱える重い事情が主題であることもあって地の文が全体に重々しいので、途中までは「ここでシリアスな方に盛り上げないのか?」と盛り上げどころが摑みにくく感じることもありました。ただ、終盤の盛り上がりはさすがです。

バトル物としての特色は、「陣」は身体に漢字を入れて、その漢字を組み合わせることで使うのですが、漢字を入れることによって体力が低下するという設定です。
あとがきで述べられていますが、コンセプトは「特殊技を身に付けるに従い、基本能力が下がっていく」ゲームです。
そうした上述のような陣の設定と相棒の能力によるコンボで思わぬ力を発揮するという設定も、なかなかに練られたものです。(主人公の能力の使い勝手の悪さはまた別問題のように思われますが…)

ただ、本作を読んでいて引っ掛かるのは何かと言うと、まずは食事の描写です。
出てくる食事がハンバーガー、ざる蕎麦、カレー南蛮、串団子……と一から十まで現代日本です。
一応、陣は(そもそも漢字の力を扱う能力ですから)日本で開発され元々は日本人にのみ適正があると言われた能力で、陣士の総本山は文明崩壊以前の知識や技術を残している、という説明はあります。
むしろ、異世界でありつつ便利に現代の物や知識を出すための「文明崩壊後の遠未来」という設定なのでしょう。
ただ、あまりにも具体的なものが出過ぎですし、ましてライターの銘柄まで現代のものが復刻されて出てくるのはさすがにやり過ぎです。

そこまで知識が残っているなら、もっと文明の復興が進んでいないのが不思議ですし、物的資源がないのが原因だとしたらライターのオイルなどどこから出てくるのやら……

つまるところ、食事を筆頭とした生活感溢れる描写は、確かにアサウラ氏の持ち味です。しかし、それは異世界を舞台とするのには向いていなかったのではないでしょうか。

しかし、ここでさらに考えてみるととむしろ疑問なのは、文明が「一度は石器時代近くまで退行」し、その後「かつての中世と呼ばれた時代の水準にまで」(pp. 24-25)復興したという設定の意味です。生活感がこの設定に合っていないのです。
結局、「銃器を初めとする近代兵器が存在せず、剣で戦っている世界」という程度の意味で「中世」の語を使っているのではありますまいか。
この「中世」の用法はあまりにも広く流布しているので、本作と作者だけの責任ではありませんが、やはりいい加減に過ぎます。

本作に関しては、たとえば陣が「漢字」を用いるという設定の意味を疑問視する向きもあり得るでしょう。
実際、入れるのが漢字でなく英単語でも楔形文字でも、話の内容には影響しないでしょう。
アルクの兄は着物を着ており、府津羅はいかにも日本の剣術を思わせる様子ではありますが、この点に関しても然り。

しかし、私は別に「和のテイストをもっと出せ」等とは言いません。それはお門違いというものでしょう。
私は逆に、本作には(古典日本のではなく)現代日本の空気が出過ぎていると感じます。
この雰囲気でしか話が書けないというのなら、少なくとも「この世界の文明は中世並」などと言わないで、もう少し現代日本に近いラインで剣士や異能車の活躍を可能にする設定を練った方が良かったのではないでしょうか。


キャラ的にはアルクの相棒となるユニが狐の耳と尻尾を持っていて可愛いです。
パートナーは同性同士がいいと言う勧めのゆえか、男だと自称していますが、すでに実は女の子であることは十二分に仄めかされていますし、その点は楽しみです。

ファング・オブ・アンダードッグ目次

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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