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間違ってデビューした漫画家の卵、あるいは適材適所でなかった兄妹の話――『でぃす×こみ』

読書会にて、この1年近く読んできたテキストをついに読了。
しかし、その後どうするかあまり考えておらず、これきりというのも何なので、とりあえず見付けていた関連文献を読むことにしていたり。

 ~~~

今回取り上げる漫画はこちらです。

でぃす×こみ 1 (ビッグコミックススペシャル)でぃす×こみ 1 (ビッグコミックススペシャル)
(2015/01/09)
ゆうき まさみ

商品詳細を見る

本作は『白暮のクロニクル』と同時期に連載開始したゆうきまさみ氏の新作ですが、媒体が月刊誌、しかも3ヶ月~半年に一度の掲載なので、だいぶ遅れての単行本1巻となりました。

本作の主人公・渡瀬(わたせ)かおるは少年漫画家志望の女子高校生。
ついに投稿作品が新人賞の大賞を受賞した……と思いきや、受賞したのは彼女の描いたものとは全く異なるBL(ボーイズラブ)漫画でした(そもそも、媒体からして彼女の投稿先の少年誌ではなく少女漫画誌でしたし)。

それもそのはず、受賞したのは彼女の兄・弦太郎(げんたろう)妹の名前で投稿してしまった作品でした(しかも本名は書き忘れた模様)。

でぃす×こみ2
 (ゆうきまさみ『でぃす×こみ 1』、小学館、2015、p. 14)

かおるは自分が受賞したと勘違いして授賞式にまで出席して、すっかりもてはやされてしまっており、しかもモノが女の世界とされるBLということもあり、真相を明かすに明かせず……
かくして、担当編集との打ち合わせも取材もマネージャーと称した兄と一緒に出向き、兄と相談しながら慣れないBL漫画を描くべく苦闘し、ストーリー展開の技法等についても徐々に成長していくかおる。

普通に考えれば、弦太郎がゴーストライターとして描けば良さそうなものですが、何しろ漫画家志望だったのはかおるの方で、弦太郎は妹に触発されて「そんなに楽しいことなら俺も大学卒業前にひとつやってみようと」思って描いてみただけのこと。
かおるも――たとえ間違いであっても――これを機に漫画家になりたいと思ったがゆえの兄妹コンビ漫画家誕生です。

もちろん、二人の画風の違いといった問題はあるのですが、

でぃす×こみ3
 (同書、p. 75)

そもそも弦太郎の画風自体、妹の原稿を手伝う中で形成されたものなので、まあ真似られる範囲のようで。

その他、学校で、さらには級友の親に知られた時の反応、大物漫画家のところでアシスタント体験など、「主人公・漫画家」ならではのイベントもしっかりと一通り押さえています。
ただ、編集部の内情などはそれらしさを感じさせ、漫画家の仕事場もぶっ飛んでいながら真実の一端くらいは感じさせるものがないではありませんでしたが、あくまで描かれているのは個々の仕事場風景であって、全体としては(今のところ)業界話は控え目かも知れません。

それにしても、渡瀬家は母子家庭の三人家族なのですが、弦太郎は就職活動全敗中の大学4年生。他方でかおるはまだ学業も忙しい高校生ですが、小学生の頃から漫画を投稿し続けて未だかすりもせず。
本来、弦太郎が漫画家として職を得られれば渡りに舟だったはずですが、そうならない辺り、天はこの兄妹を適材適所に配置しなかったようで……

ちなみに、各話の冒頭には作中作が来て、しかも作者本来の絵との差異化のため、他の漫画家諸氏に彩色を担当してもらうという豪華仕様。
単行本でもカラーページはフルカラーで収録されています。

でぃす×こみ1
 (同書、p. 1)

 ~~~

『白暮のクロニクル』4巻も同時発売。

白暮のクロニクル 4 (ビッグコミックス)白暮のクロニクル 4 (ビッグコミックス)
(2015/01/09)
ゆうき まさみ

商品詳細を見る

 (前巻の記事

本作は1巻ごとにエピソードの区切りが付く構成になっており、今回も同様です。
今回の事件は、まるで吸血鬼の仕業のようなデリヘル嬢殺し。

白暮のクロニクル4巻1
 (ゆうきまさみ『白暮のクロニクル 4』、小学館、2015、p. 22)

というわけで、今回は今まで以上に「吸血鬼探偵」というコンセプトに忠実で、またオキナガの「吸血鬼」という面が前面に出た内容となっています。
本作においては、オキナガが世に言う「吸血鬼」であることも、3巻になってようやく作中で明言されました。主人公の伏木あかりも、厚労省のオキナガを担当する部署にいながら、それまで気付いていなかったくらいです。
つまり、オキナガ=吸血鬼という存在が当たり前のようにいる世界を描きつつ、「当たり前の存在であるがゆえに、かえってよく知らない(知ろうともしていない)存在に、改めて徐々に目を向けていく」という作中人物の視点を追っていくところに、本作の構成上の特徴があります。

かくて、ようやく「吸血」に焦点が当たることになりましたが、もちろん血を吸わないと生きられないとか、血を吸われた者もオキナガになるとかいったことはありません(それではすぐにオキナガばかりになってしまいます)。
そこまでは前巻で言われていたことですが、では実際に血を吸いたい者はどうするのか? どのようにして吸血するのか?
「実際にいたらどうなるのか」という地に足の着いた考察、それに実態と一般人が抱く通念とのズレが実に巧みに描かれます。
デリヘル嬢という現代社会の要素を絡めてくるのもさすが。

それから、今回は幕末から民権運動、そして昭和の学生運動と、ずっと革命のために戦い続けてきたオキナガも登場します。
今は過激なやり方をしてはいませんが、しかしそれは革命そのものを諦めたのではありません。
何百年も生きて世の変化を見ることが叶うなら、政治運動についての考え方も変わるのでしょうか――

そんなオキナガも、あくまで一見普通の人として、普通に市井の中で暮らしている、そんな雰囲気もまた本作の魅力です。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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