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主人公はそこを目指す、では物語は?――『異世界ラ皇の探求者』

今回取り上げるライトノベルはこちら。
新人作品――第6回GA文庫大賞奨励賞受賞作品です。

【Amazon.co.jp限定】異世界ラ皇の探求者 書き下ろし4PリーフレットSS付き (GA文庫)【Amazon.co.jp限定】異世界ラ皇の探求者 書き下ろし4PリーフレットSS付き (GA文庫)
(2015/01/14)
西表 洋

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帯は漫画『ラーメン大好き小泉さん』とコラボ。

異世界ラ皇の探求者 1巻帯

Amazon限定の特典は4ページのリーフレット。ヒロインの一人・アテナが主役のショートストーリーです。

異世界ラ皇の探求者 リーフレット

本作は一応、異世界ファンタジー、それも異世界転生物に当たります。
ただし、主人公・チャー極度のラーメンマニア。前世の記憶を取り戻すなり、まずはこの世界にラーメンがなさそうなことに絶望し、ついですぐさま、この世界でラーメンを発明して、ラーメン屋を開店することを目指すようになります。
ではラーメン屋としてのサスセスストーリー、あるいは店を巡る悲喜こもごもを描いた作品なのかというと……どうも、それとは少し雰囲気が違うようです。

チャーは凄腕の鍼灸師で、魔法の存在する世界に転生してもそれを活用し、気功の要領で魔力をも操って活躍します。
その技で強力な獲物もたやすく仕留め、奇病に冒された精霊の皇女をブラック・ジャックのごとく助け……と万能です。
元々、生まれ変わる時の描写など一切無く、本文が「おれは三歳の時、前世の記憶を取り戻した」の一文で始まると、わずか2ページ弱でこの世界で「ラーメンの創始者になる」という夢を固めてしまうハイペース展開。
その鍼の腕による活躍で、有力者でもあるヒロインたちの心も次々と射止め、彼女らの助けもあれば順風満帆に開店……かと言うと、一つ大きな問題がありました。

彼は、肝心の料理の腕にはかなり問題がある(しかも、味音痴なので全く無自覚)ことも、序盤から仄めかされていたからです。そもそも、前世で二六軒のラーメン屋を開店して、全て半年以内に潰れたという時点で不安は分かっていたことですが……
ただ、それが障害となり、それを克服する方向で話を盛り上げるのかというと、そうでもありません。
確かに、彼のラーメンは好評には程遠いのですが、さしあたってはヒロインたちも微妙な顔をすることはあれど、「ひどい」とまで思っている様子ではありません。
――かと思うと、後半になって彼が新メニューを開発したところで、その味のひどさも話題として再燃します。

ついでに言うと、冒険者のヒロインを味方に付けておけば貴重な肉も手に入る……と確かにチャー自身は考えているのですが、それは皮算用だけで実現はしません。その意味で、ヒロインたちの多くは、今ひとつ存在意義が不明瞭だったりします。
ヒロインに関して言うなら――もはや余談ながら――とりわけ、幼少時のチャーがヴァンパイアのハクパ(外見は美少女だが120歳)と山奥で二人暮らしていた事情も不明です。転生というからにはこの世界での親は別にいると思うのですが……ハクパが中盤以降ほぼ登場しないだけに、なおさらこの設定の意味は不明です。

というわけで、どうも本作は方向性が分かりません。
物語としての方向および到達点と主人公の目標が一致し、そこに向かって邁進していくストーリーなのかと言うと、そうとは言えないでしょう。そもそも主人公が自分で思うほど美味いラーメンを作ることができておらず、ましてやそれで評判を取るには程遠い時点でズレがあります。
異世界に行った主人公が、元の世界にあって異世界にないものを発明するべく奮闘する話なら、『パンツではじまる世界革命』という先例がありました。主人公の執念や展開のご都合主義的なハイペースさなどは共通していますが、ただあちらはストーリーの全体がパンツ作りという方向に突っ走り、パンツが完成すれば皆で盛り上がり、歴史が動くという展開でしたから、話の方向性は明瞭でした。対してこちらはそうではありません。

では逆に、主人公の意図とは異なる方向に話が転がってしまうのを楽しむ話なのかと言うと、これも微妙です。
主人公の作る料理の不味さ自体は伝わりますが、それがギャグとして楽しめるものになっているかというと、そこまででもないのです。
物語の大きな流れは主人公の目指すところ(王都に行ってラーメン屋を開く)からさほど外れてはいませんし、ラストも彼のラーメンのお陰でできた皆の絆を確認し、「つまりラーメンは、それだけ偉大ということだ」といったことを言って締めています。
あらぬ方向に話が転んで「どうしてこうなった」という感覚を楽しめるような突き抜け方は、していません。

あるいは、その微妙なズレを楽しむ作品、というのはあり得るかも知れません。
表向きは目指す通りに話が展開してハッピーエンド、しかし実態は少しズレている――という。
なるほど、実はヒロインたち(の多く)は「ラーメンの味が気に入って」とは別の理由で食べに来ているのですが、ラーメンバカの主人公はその辺に全く気付いていないというのも、ドン・キホーテ的な滑稽さを感じさせます。

しかし、だからといって楽しめるようになるかは、別問題です。ギャグならば考えて楽しむものではありませんから。
他方で、単にギャグでなく意味の多層性をじっくり味わうほどの作品になっているかと言うと、おそらく否でしょう。
やはり、作品の方向性と到達点というのははっきり絞った方がいい、と思うわけです。

上述のようなわけで、そもそも主人公が美味いラーメンを作っていないので、食の美味さを伝える描写はあまりありませんし、異世界の材料でいかに工夫してラーメンを作るかも主題にはなりません。
そう言えば、目次ページに食べ物の写真が載っているのを目にするのは、GA文庫だと『ごはん食べたい!』に続き2冊目ですが(本作は目次だけでなく、表紙にも載っていますけれど)、画像からの期待に反して美味そうな食べ物の描写は見られないのも相変わらずですか――


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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