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闇の姉、光の妹――『義妹が勇者になりました。』

今回取り上げる小説はこちら。3巻まで出ている作品です。

義妹が勇者になりました。 (アリアンローズ)義妹が勇者になりました。 (アリアンローズ)
(2013/07/12)
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このアリアンローズという女性向けレーベルから取り上げるのは3作品目になるでしょうか。
「異世界で女の子が活躍する、女性のためのファンタジーノベル・レーベル」を標榜するアリアンローズは、もっぱらその条件に合致する「小説家になろう」作品の書籍化に専念しているレーベルです(本作のWeb版はこちら)。
個人的には、ちょっとひねくれた感じで行動的な女主人公は好みなので、後は「軽めのノリの一人称」の作品であれば、おおむね当たりでした。あくまで個人的にですが。

本作は異世界召喚物です。
主人公は女子高生の里桜(りお)。10年前に両親が死んで親戚に引き取られたため、天音(あまね)という義妹(現養父母の実娘)がいます。
この姉妹はある日、下校中にファンタジー世界に召喚されてしまいます。
「勇者さまは……?」と聞かれると、迷いなく天音を指差して「このひとです」と答える里桜。

「……え?」
 えらいものに祭り上げられたと、それでようやく気づいた天音が小さな声で避難した。
「お姉ちゃんひどい……!」
 なにがひどいものか。
 容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能。
 神に愛されまくった君以外の、誰が“勇者”?
 (縞白『義妹が勇者になりました。』、フロンティアワークス、2013、p. 16)


しかし、「目覚めの泉」で天音が確かに勇者としての光の力に覚醒すると同時に、里桜もその「裏側」にあった対をなすような泉で、「闇」の力に覚醒してしまいます。
そのことを伏せつつ、持ち前の行動力と闇の力を駆使し、封じられていた禁断の魔導書で強大すぎる魔法をも習得した里桜は、一人密かに、元の世界に帰る方法(が、まずあるかどうか)を探るべく旅に出ます。
当然のごとく、行く先々で騒動に巻き込まれ、政治的な抗争にまで関わることになるのですが……。
同時にこれは、闇の力を持っていた彼女の素性解明に関わる旅でもあります。

さて、上の引用箇所にも見えるように、何かと天音を「完璧超人」だと言う里桜ですが、しかし彼女自身もかなりのハイスペック。闇や魔法を抜きにしても、やたらと喧嘩が強いですし、人を見る眼力も並外れています。
しかも元の世界にいた時から、天然で人気がありすぎるせいで人が群がってきてトラブルの源になる天音の傍らにあって、解決役を引き受けていたことも語られます。天音の方も、「お姉ちゃんなら必ず何とかしてくれる」と絶対の信頼を抱いています。
どう見ても、ハイスペックで主役らしい頼り甲斐があるのは里桜の方です。
まあ、容姿と学校の成績、それに芸術や家事に関しては天音が優れていたのかも知れませんが……(イラストだと、肝心の容姿に差が見えないのですけれど)

そして異世界に来てからも、天音が「勇者」としてどこかへ向かう(かも知れない)と聞けば、先回りして危険や天音の苦手なものがないか確認し、可能なら潰しておこうとする過保護ぶりです(2巻はほぼ天音が登場しなかったりするので、義妹のことを心配しているシーンは量的にはそこまで多くないのですが)。
気が付けば、3巻かけて天音の方はようやく冒険に出発したとか最初の戦いを経験したとかいう段階なのに、里桜はずいぶんと自分の冒険を展開しています。

そして、「闇」らしいひねくれ具合を備えた性格も可愛いです。
嫌がらせをされたりすれば、天音には内緒で「闇討ち」して潰しておくという腹黒さ。自分たちの都合で一方的に召喚した連中のことは最初からまったく信用せず、後で王様も闇討ちするつもりでいます。
だから平然と「慰謝料」として王城の宝物庫の中身を失敬し、「罪悪感? なにそれおいしいの?」(同書、p. 58)という態度。
街に出てからは、この世界だと飲酒が20歳からでないことを知るとさっそく酒場で飲み、博打ではイカサマを振るって荒くれ男たちの金を巻き上げる荒み具合(一応、「最初にイカサマをしてきたのは向こう」という言い訳はありますし、酒についても自分の正体に疑念を抱いてからは自粛していますが)。

それでいて、「おかーさん」の教えに従い女子供と老人は助け、外道に対しては嫌悪感を抱きますし(だからといって悪を潰そうと正面から突っ走らないのが天音との違いのようですが)、親しくなった相手に自分の力を知られることで避けられるのを恐れるといった弱さもあります。
妹のことを「逆ハーレム」だ何だと言っていますが、里桜自身、道中で出会った多くの人々に愛され、複数の男性と悪くない雰囲気でもありますし。本人はこの性格なので、恋愛感情を見せているとまで言えるかは微妙ですが、一人からは求婚もされていたり。

3巻にしてこの世界の成り立ちや里桜の正体に関しても多くのことが明かされ、敵組織も本格的に登場してきましたが、されどうなるでしょうか。

そもそも、この世界では必ずしも「闇=悪」というわけではありません。里桜自身、闇の力のことはあまり明かさない方がいいことは直感していましたけれど、闇を敵視する勢力のことを知ったのは後になってからですし。
ただ、3巻になって「闇の力」を使うことのリスクも明示されてきました。
基本的に無敵のスペックを備えている里桜ですが(初期に習得した魔法は強力すぎて未だに全然使っていなかったりしますけれど)、ダークサイドを内に抱えたヒーローのようなもので、自らの内なる存在が最大の難関ということになりそうです。この辺も悪くない感じですね。


文章は上に見た通り、比較的軽いノリの里桜による一人称。
密かに闇の力に目覚めた後、天音に「お姉ちゃんも(目覚めの泉に)入ってみればいいのに」と言われても、

 いや、お姉ちゃんはもういいから。
 なんか黒いの使えるようになっちゃったから。
 表側の目覚めの泉に入って、もしそれがバレちゃったら困ったことになりそうだしね?
 もちろん正直にそう言うことなどできず、石造りの神殿を出て回廊で結ばれた先にある、豪奢な城へ向かう。
 (同書、p. 31)


闇の力も「なんか黒いの」というこの言いよう。
内容的にはそこそこハードな要素もありながら、主要キャラがそれほど厳しい目に遭うこともないストーリー展開と相俟って、程々に緩い雰囲気を醸し出しています。

ただ、不満が残るのは状況説明の文章でしょうか。あまりにも淡々と、ただ物事を列挙しているだけの感があります。
3巻の(一応にも)ボス級の敵との戦いも、事前の話し合いで敵のスペックを解説して、その通りの「作業」を実行していくという、まさしくゲームのプレイをそのまま綴られているような感覚でした(本作の世界観がRPG的であることは作中でも――里桜の語りにより――さんざん言及されているとは言え)。
まあ、本作は割と戦闘シーンが少ないですし、主人公が無敵で、そもそも戦闘で盛り上げようという意志があまりないようなので、そこはまだいいのかも知れません。

しかし、世界観や過去の出来事について語る時に、淡泊な説明が続くのはいただけません。
説明者との会話にメリハリを付けるとか、可能ならば臨場感ある場面を見せるとか、工夫が欲しいところです。


なお、書籍化に当たってはそれなりの加筆がある模様(私がチェックしたのは序盤に限りますが、姉妹の密着度を示す場面とか、天音の従者であるヴィンセントと里桜の会話とか、キャラ同士の関係に関わる部分がメインだったでしょうか)。
ただ、本としての体裁にはかなりの疑問はあります。
なにしろ、章の見出しがページの最後に来るようなことを平気でやります。

義妹が勇者になりました。1

上はまだ見開きの真ん中ですが、左ページの最後に来ていることすらありました。

義妹が勇者になりました。2

そもそもアリアンローズ作品は本作に限らず、目次に「本編」と「番外編(書き下ろし)」の二項目が載っているだけです。

義妹が勇者になりました。 目次

各章のタイトルとページ数くらい入れられないものか、と思うのですが……どうも、編集作業には疑問が生じます。

それに本作の場合、上でも言いましたが、イラストです。
里桜と天音の描き分けができていないとか、里桜の衣装が文中で言われているような「男物」には見えないとか、2巻で登場するケルベロスが丸っこくて子犬みたいに見えるとか、色々ありますが、さらに何箇所かでラフ画並の密度の絵を見た時にはがっくり来ました。

 ~~~

以下は本作には直接関係ない余談ですが。

ライトノベルはその小説上、ヴィジュアルイメージはイラストに委ねて文章はあまり視覚的な物事について語らない……かと言うと、そうでもありません。そこまで意識して書いていない作家も多い、と言うべきでしょうか。
まあ、たとえ作家がヴィジュアルをイラストに委ねるつもりでいても、長髪だとか小柄だとか最低限のことを文章に書くだけで、本文の記述とイラストが食い違う可能性も常に生じてくるのですが(そういう場合、イラストレーターにはもう少し「文章と共同で“一つの作品”を作る」というプロ意識を持ってほしい、と思ってしまいますが)。
ついでに言うと、作家がどういうつもりで書いているかという自己申告はさらに当てにならないもので、京極夏彦氏が「できるだけビジュアルイメージを持たないように心がけて」と言っていたりします(『ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔』でのインタビューより)。京極氏の作品はイメージの鮮やかさが特色の一つだと感じているのですが……

ただ、管見に入った限りでの「小説家になろう」作品で、具体的で強いヴィジュアルイメージを与えてくれる作品はほとんど記憶にありません。
おそらく、それが文章だけ読んでいると味気なく感じる理由の一つになっていると感じます(あくまで私の感覚では、ですが)。
いくら文章で具体的な記述をされても、そこから抱くイメージは読者によってそれぞれ異なるでしょうが、具体的な記述があまりに欠けていると、自由にイメージするにも手がかりがないのです。

しかし、ではイラストが付けばその分が満足させられるかというとそうではなくて、やはり本文とのギャップに違和感を感じたりするのですから、イラストに期待すればいいというものでもなく。
この手の作品にそういう方向を求めすぎないのが一番なのでしょうか。

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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