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この設定だけで軸になるのなら…――『コートボニー教授の永続魔石』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。
新人作品――第1回オーバーラップ文庫大賞金賞受賞作です。
(どうも、1年前に受賞作――『きんいろカルテット!』など――の発売された「キックオフ賞」は第1回の新人賞として数えないようです)

コートボニー教授の永続魔石 (オーバーラップ文庫)コートボニー教授の永続魔石 (オーバーラップ文庫)
(2015/01/22)
桜山うす

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本作の舞台は魔法の技術が発達した世界。全てが現実と足並みを揃えているわけではありませんが、ラジオや冷蔵庫が実用化されており、技術水準や暮らしぶりは19世紀後半~20世紀前半くらいに見えます。
この世界の魔法工学を大きく発展させたのは、海の向こうからやって来た「セノ」という小人族でした。土魔法により労力をかけずに物を作り出すことができる彼らは高度な科学技術を発達させており、多くのものをもたらしたのでした。
そしてこの度、実に10年ぶりにセノの調査団がやって来ることになります。

主人公は大学生で魔工機職人スージ・キュージット
彼の家にセノのコートボニー教授が訪れたことが転機をもたらします。スージが設計図だけ描いて放置していた魔工機を土魔法で簡単に作ってしまう教授。魔工機コンテストを控えていたスージも、教授の力を借りようとして、教授の夢「永続魔石」(使っても力が減衰しないという、まさに永久機関のようなもの)に協力する、と宣言します。
かくして、発明家としての道を歩み始めるスージ。

セノは人間の子供のような姿の妖精なので、コートボニー教授も外見は人間だと10歳にも満たない可愛らしい幼女ですが、実際には100歳以上です(オタク用語で言うところの「ロリババア」)。
仕草も子供っぽいのですが、一人称は「オレ」の「である」口調で学究のためなら他のことは見えない学者肌、おまけに既婚者です。
元々オタク系コンテンツでは「ヒロインは処女であるべき」という前提が強いせいか、ヒロインが人妻というのは珍しく、さらにこうした一連の設定を盛り込んでいるのはかなりの新機軸でした。
そして実際、この教授の可愛さは存分に描かれています。未知の生物(コウモリ)を怖がったり、露店で色々なものに興味を示し、風船を買っていたり、途中で眠ってしまったり……
かと思うと、自分とは身体の構造のまるで違う人間の女性を描いたエロ本に興味を示したり……

「教授は人間のエロ本の何がそんなに気に入ったんですか?」
「うむ、強いて言うならあれだ。人間特有の発達した乳房を使って、男性のアレを挟み込むやつだ」
「ははあ、俺らの隠語でロールアンドって呼ばれてるアレですね」
「セノには乳房がないからよくわからんのだ……。しかし、まさかあれをあんな用途に使うとはな。ふっふ、オレにその発想はなかった。笑いすぎて、腹が痛くなったのである」
「笑うなよッ! すべての男の夢を、笑うなよッ!」
「くしし、男の夢か。夢野割にはおまえの恋人は痩せているようだが、それは関係あるのか?」
「ちょ、なに勝手に俺のアルバム覗いてるんすか! いいんですよフェイは痩せてて! ていうかもう別れちゃったし! 未練なんてないし!」
「やれやれ、まだ写真が捨てられんのは未練とはいわんのか。若い奴はいいのだ。よしオレもサーナサウルに帰ったら、一度旦那にロールサンドを試してみよう」
「無理っす! ぜったいに無理です、やめてあげて!」
 教授はこんなに可愛い顔をして、100歳オーバーでおまけに旦那とラブラブの既婚者だった。世の中はあまりに残酷だ。
  (桜山うす『コートボニー教授の永続魔石』、オーバーラップ、2015、pp. 90-91)



ただ、疑問なのは話の方向性です。
中盤、教授と組んでからスージが急激に発明家として成功し、販売を担うギルドが類似のライバル商品と激しい商戦を繰り広げたりする辺りまでは、いかにも発明家伝風の展開で楽しく読めました。
しかし同時に、この辺りで教授がトレードに出されて出番が激減します。
そして後半は、別のキャラクターによりスージが騒動に巻き込まれ、また別のキャラクターとの協力で問題解決。
他のキャラとの関係についても、子供時代の想い出が急に出てきてすぐに回収されるなど何もかもが唐突でした。
(ちなみに上の引用で言われているスージの「恋人」フェイも、序盤に喧嘩別れして終盤に再登場。存在意義がよく分かりません)

終盤の山場の常識的な形として戦いくらいしか思い付かなかったのかも知れませんが、その戦いの立ち回りも腰砕けに終了。

それから、ファンタジーとしての本作にはダンジョンという要素もあります。
素材探しのため、スージも教授特製のハイテク装備でダンジョンに潜る場面があります。
また、スージは冒険者の装備品の強化も引き受けているのですが、このシステムがゲーム『不思議のダンジョン』を思わせます。
ダンジョン内で倒れると持ち物を失は失われる、というのはローグ系のシステムですが、そこで魔物が地上に運び出してくれる、というのも『トルネコの大冒険』でももんじゃによってダンジョンから蹴り出されていたのを思い出します。

RPG的世界観のファンタジーで、主人公は冒険者を支える裏方の職業……という設定なら、これも追究すれば面白そうですが、どうも結果は中途半端です。
そもそもダンジョンはストーリー上どれほど重要だったのか、と思ってしまうほどに。

結局は、作者が何をメインにしたかったのかに懸かっていますが、基本設定から考えるなら、発明家としてのスージのサクセスストーリーとそれにまつわる騒動、それに教授の魅力を軸にしたところに絞り込んで良かったのではないでしょうか。
その意味では、話に色々盛り込んでいる一方、スージの教授の関係に意外と発展性が無かったのも残念な点ですね。

本文が「いまでこそ大発明家と呼ばれる俺も、学生時代はただの魔工機マニアだった」から始まり、ところどころに後年のスージが回想して語っている風な記述が入るのも、あまり活きていないように思われます。
その後の顛末を知っている立場から語ることは、リアルタイムのみの視点とは異なる意味やトーンを物語に負わせ得るのですが(最たる例として先日取り上げた『二度めの夏、二度と会えない君』があります)、本作はそういう作品にはなっていないのです。
「バーコードなんて便利な物は当時あんまり普及していなかった」(同書、p. 81)なんて記述を見ると、ほとんど現代に近い時代を生きている人が戦前くらいの時代を回想している雰囲気があって、それだけで色々と考えたくもなるのですが。

とかく結論としては、魅力的な素材――ヒロインのキャラ造形と魔法工学の発明というモチーフ――がありながら、活用されておらずまことに勿体ない、と。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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