スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

この貴重なる平和――『紅盾の皇女と剣の道化』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。

紅盾の皇女と剣の道化 (一迅社文庫)紅盾の皇女と剣の道化 (一迅社文庫)
(2015/01/20)
伽遠 蒔絵

商品詳細を見る

作者はプロフィールによれば「前世紀のシナリオライター」とのこと。
分かる限りだと、単行本として発表する小説はこれが初のようです。

なお、表紙絵は画面全体に対して人物の顔が小さいたけで、随分と今時のアニメ絵なライトノベルの表紙からは外れた印象いなっていますが、本を開いてみれば普通のアニメ絵の範囲内であることが分かります。

本作の舞台はヨーロッパの田舎の小国・レヴィンシュタイン公国の公都。
魔法の存在する世界観ですが、銃器も存在しており、時代はすでに近代の夜明けという感じです(詳しくは後述)。
レヴィンシュタイン大公家の皇女・オルタンシア殿下(18歳)は、長年眠ったままで忘れられていた国宝の魔法の盾に選ばれた人物で、皇族ながら公都を守護する近衛隊の副隊長までやっている武人なお姫様です。
とは言え、公都は平和で、近衛隊の隊員たちはだらけているのをオルテンシア殿下に叱責されるような日々。神話的な武具の持ち主がいるからといって、神話的な戦いなどはありません。

そんな公都をちょっとばかり騒がせているのが、「剣の道化(ジョーカー)です。
道化を模した衣装と仮面を身に付け、市井の人を助ける正体不明の怪傑で、市中では大いに人気を博しています。
ただ、その活躍のついでに王城に不法侵入し、皇女をからかうような置き手紙まで残していったことがあるので、オルテンシアは彼を敵視しているのですが……。


――まあ、これを言ってしまうとすでにネタバレになるのですが、道化の正体は早い内から比較的分かりやすく匂わされているので言うならば、本作は昼行灯系主人公のお話です。
普段は実力を見せず、しかも変身ヒーローのように肝心な時には正体を隠して活躍しているので、周囲からは「いつも肝心な時にいない」と思われている、という……
ただ、そうすることで、治安維持を担う近衛隊は緩いところを見せておき、同時にそれを正そうとする気高い皇族の姿をアピールしておくことが、都市の平和を維持するために必要なのだ、という設定はなかなかに興味深いものでした。

ちなみに、レヴィンシュタイン公国は「旧神聖帝国の東」とあります。「旧神聖帝国」は神聖ローマ帝国で、東欧どころかトルコ辺りと接している地方をイメージして良さそうです。
その他にも、

(「革命の嵐」が吹き荒れた)西王国 = フランス
覇王 = ナポレオン
(帝国の皇位を世襲していた)アプセルブルック家 = ハプスブルク家

なのは読んでいけば明らかで、とすれば時代設定のイメージは明らかにフランス革命とナポレオン戦争の爪痕去らぬ19世紀であることが分かります。
そんな世界だからこそ、この平和が実は非常に貴重である……のは分からないでもないのですが、しかしその辺の描写の弱さが難でもあります。
何しろ、舞台はずっと平和な公都で、そうした重い背景はさらっとしか語られませんし。
背負うものの重さに関する描写不足は、主人公が昼行灯系キャラとしてそこまで魅力的でもない一因であるように思われます。

そして、難とまでは言いませんが構成が少し気になります。
本書は二章構成で、第一章の最後で、つまり前半の内に道化の素性やこんなことをしている理由まで判明してしまいます。
その分、この一章で(一通りの設定解説まで完了しているわけですから)すでに独立した短編(あるいは中編と言うべきでしょうか?)作品になっている印象で、とすれば短~中編連作のような形式になるのか? と思いました。

しかし第二章は、他国の大物まで絡んできた騒動になります。
まあ、公都の拡張で生まれた新しい地区を守護する「国民隊」と近衛隊との確執、というのは前半から引き続き公都の平和というテーマに関わりますし、国外勢力の関与も話の要素として理解出来るます。
ただ、最後でさらなる激動に繋がりそうな引き。
続きがあればこの引きに関わる要素がシリーズを貫くことで長編としての軸になっていく……のかどうか、それ以前に一迅社文庫で続きが出る可能性がどれほどあるのか。
1巻は短~中編連作で綺麗に区切っておいた方が安心して読み終わることができた気もします。


それはそうと、一迅社文庫に紛らわしいタイトルが多いのはいつものことですが、本作の発売がタイトルの構造としてとりわけよく似た『千の魔剣と盾の乙女』の最終巻と同時になったのは何の因果か……

千の魔剣と盾の乙女15 (一迅社文庫)千の魔剣と盾の乙女15 (一迅社文庫)
(2015/01/20)
川口 士

商品詳細を見る

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。