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アイデンティティを巡る多様な問い――『CtG ─ゼロから育てる電脳少女─ 2』

今回取り上げるライトノベルはこちら、ネットゲームと現実の間にまたがって子育てをする物語『CtG ―ゼロから育てる電脳少女―』の2巻です。

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(2015/01/31)
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 (前巻の記事

ネットゲームの世界で「結婚」したところ、子供ができた上、その子供が現実に出てきて(まさに「受肉した」と言うべきでしょうか)、高校生二人で同棲しつつその娘・春羽を育てることになった春日井遊と釘宮美遙の二人。
今巻から美遙も遊と同じ学校に転入。遊の幼馴染みである冬風との対決も描かれます。

そして、「両親」が学校に行っている間、監督役の甚目左(はじめ ひだり)に連れられてゲームセンターに行った春羽は、ゲーマー不良少女・神奈桜(かんな さくら)と友達になります。
家族意外の人と出会い、友達になるという春羽の成長の新たなステップ。

他方で、件のネットゲーム『クレイドル・トゥー・ザ・グレイブ』(通称『CtG』)の世界では、プレイヤーでもNPCでもない「幽霊(ゴースト)の出現が問題になっていました。
どうやら今回も、「ハダリーズ」――つまり春羽と同じくネットゲーム世界で生まれた人工人格が関わっているようですが……

今回も、起こる現象はなかなかに不気味で、そしてアイデンティティというものに深く関わるものです。
人間を「均化」して、個人間の対立や無理解を無くす――というのは、しばしば見たような話ですが、それがネットゲームの世界で行われながら、「均化」を受けた人物は現実世界でもすっかり人格が変わっている、しかもその人物のドッペルゲンガーのような「幽霊」が(本人とは別に)ゲーム世界内に出現するようになる…・・というのですから、これは相当に不気味です。

ただ、その掘り下げ方に関して、満足とまでは行かなかったのも事実です。
もし自分が複数化してしまったら、一体どちらが本物なのか、一方を「本物」として他方(「偽物」)が消されるとしたら、消される側の立場はどうなるのか……これは「自己」を巡る伝統的な思考実験の一つであり、二重化された人格である「幽霊」はまさしく「偽物」の立場にあります。
ただ、彼らのアイデンティティを巡る葛藤の扱いは意外に小さく、割と無難な解決で片付けられた感があります。
「無難な解決」があるという設定にしておかないと、本当に答えのない迷宮に踏み込みかねない問題なのは分かりますが、それを鑑みても、です。

それから、子育てという要素の方です。
元々、現実に「受肉」した春羽を育てることになるまで、遊と美遙はゲームの世界では結婚していても現実では会ったこともない関係でした。しかも美遙は元々男性が苦手。お互いにとって「娘の母親(父親)は他人」という独特な状況だったわけですが、それでも確実に美遙は遊を意識するようになっており、冬風との間に一筋縄ではいかない修羅場も展開しています。
と同時に、危険なことは自分で片付けようとする遊と、それで自分が「子供扱いされている」と感じる美遙の間の対立も、今回は問題になります。

しかし――前巻では、二人がケンカすることで春羽が不安になっている場面もありましたが、今回は春羽も「どうなろうと両親の仲は大丈夫」と落ち着いてしまっています。
これぞ子は鎹(かすがい)、と見ることもできましょう。
また、つねに自らのアイデンティティを問われる立場である春羽が他人を励まそうとする場面もありましたが、これも彼女の成長、と感慨を持って見ることもできましょう。
が、春羽がやけにいい子になることで、子育ての難しさや子供への気遣いが求められる場面を軽く流された感もなきにしもあらず。

また、春羽ができた子になっていることは、特殊な出生の子供がどうアイデンティティを築き、どう育つのか、という点の扱いをもずいぶん小さくしている印象があります。

さらに、春羽は日常生活ではいい子ですが、ゲーム世界では(元々この世界の生まれだけに)いかなるプレイヤーをも遙かに超える性能を持ち、そして自分の大切なものや人たちを傷付ける相手は殺すことを何ら躊躇いません。
彼女はゲーム世界での「死」がコンティニューできることを理解している様子ではありますし、日常生活での様々な常識から外れた言動と相俟って、この戦いでの怖さも彼女の人ならざる素性を物語る特徴であり魅力ではあります。
ついでに言えば、「コンティニューできるから大丈夫」という発想を彼女が反省する場面もありました。
ただ――未だどこまで道徳観を備えているかも疑問な子供に対して、「この子をどう教育するのか」という問い(方針があったところで思い通りに育つとは限らないという悩みも含めて)があるのとないのとでは、全く違うでしょう。

これは、結局話のクライマックスがゲーム世界のバトルになることとも関係しています。
遊と美遙は「両親」として、子供を矢面に立たせて自分たちが後で見ているわけにはいかない、という意志を固めはしましたが、ゲーム中とはいえ子供が人を殺すことに関する葛藤はさほど話題になっていないように見えます(殺される相手に警告はしていますけれど)。

恋愛の修羅場を描くのもいい。バトルを山場にするのもいい。
両者に絡んで、前巻から遊のことを探るべく『CtG』のプレイを始めていた冬風の使い方も巧みでした。中々ゲームの方では関わってこないと思いきや――
十分に向き合えぬまま母を喪ったことを後悔しつつ、母の置き土産となったゲーム『CtG』を桑メルべく没頭している遊と、その心情を十二分に察しながら見守っていた幼馴染みの冬風、その絆の深さはよく伝わり、すでにしてここに大きなドラマがあることが分かります。

その上で、です。
人の親と言えど恋愛で揉めることもあるでしょう。それは止めようと思って簡単に止められるものではありません。
しかしさらに、子供ができたという設定から始めるならば、揉めないわけにはいかないながらも同時に、「こんな修羅場をやっていていいのか」という葛藤も、重ねることができたのではありますまいか。
「この子を育てる上で、どうすればいいのか」という苦しみ、そしてそれを乗り越えて子供が育ってくれた時の喜び――そういう子育ての醍醐味という期待からすると、満足とは言えませんでした。

まあこれは、この設定から「特殊な出生の子供のアイデンティティを巡るSF的考察と、子育ての悲喜こもごもを絡めた者がtり」を期待したかどうか次第――つまりはこちらの勝手な期待のせいという部分が大きいのかと思いますが。
どうも、ラブコメを期待する向きの方が主流のような気もしますし。


「ハダリーズ」の名称はリラダン『未来のイヴ』の女性型ロボット・ハダリーからでしょうし、今回は「ベン=イェフダーは古語を新造することで国をまとめた」(p. 202)といった言及も、前巻の「量子脳」に続き大変渋くて好みなのですが……

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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