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これは作者の所為(楽屋オチ)か、それとも…――『勇者が魔王を倒してくれない』

今回取り上げるライトノベルはこちら、逢空万太氏の新作であり、『ヴァルキリーワークス』4巻以来7ヶ月ぶりの氏の新刊でもあります。

勇者が魔王を倒してくれない (GA文庫)勇者が魔王を倒してくれない (GA文庫)
(2015/02/13)
逢空 万太

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ちなみにタイトルは「勇者」に「かのじょ」、「魔王」に「ぼく」とルビを振ります。

本作は異世界召喚物で、男子高校生の宗方閑也(むなかた しずや)が異世界「ラ・マンタ」に召喚されます。魔王の役割を果たすために無理矢理……
しかも、彼を召喚したのは「ラ・マンタ」を創造した神とのことですが、どう見ても白いエイのようなナマモノ、顔文字で表現するとこう……

 ~<*`・ω・´>

どう見ても作者の自画像です。世界の名前からして「万太」に由来していますし……
(本作の作者プロフィールでは、この顔文字を使っていませんけれど、この白いナマモノは作者の他作品にもゲスト出演、『ニャル子さん』のアニメにも出演しました)

何でも閑也の世界を作った神はヒットメーカーなので、(サブカルチャーの)流行りに則って「魔王と勇者のファンタジー」の世界を作り、さらに閑也を連れてくることでヒットの秘訣を取り込みたいとのこと。
「魔王ものブーム、もう過ぎてるぞ」としっかり突っ込まれますけれど。
さらに世界が魅力的になって魂が集まれば「重界(リプリント)がかかり、他方で低水準で停滞すれば「絶界(アウト)になると……どう見ても作家の事情です。
「今まで創った四つの世界」とか言って、明らかに作者の(本作を含む)作品群を差している発言も見られました。

つまるところ、「神=作者」のいい加減な設定作りと流行遅れの二番煎じぶりに作中でツッコミを入れつつ展開する楽屋オチコメディ、とでも言いましょうか。
主人公がナマモノをボコボコにし、設定のいい加減さや矛盾にツッコミを入れるノリも『ニャル子さん』と変わらず(ニャル子と違って、閑也は本当にこの神に迷惑をかけられているだけなので、いっそう容赦がありません)。

ただ、本当に作中人物がメタな目線を取り込んで設定や伏線を云々していた『ニャル子さん』と異なり、本作のナマモノが「作者キャラ」と見なせるのはあくまで作品外の情報を知っている読者にとってのみのこと。
一つの世界の創造者である「神」という作中人物の一人に対して、その世界の作り方のいい加減さをツッコむ、という構図を見る限り、本作の場合はメタも作品内の事柄に還元されてしまうのです。
さらに、ナマモノが「神としてデビューした当初は私も苦労しました」とか(わざわざ「デビュー」なんて言葉を使って)言い出すので、作者の体験談でも出てくるかと思いきやまったく違っていて、あくまでこの「神」が過去に別の「世界」を作った時の話を始めたりと、一筋縄では行きません。

さらに、本作のみの設定に限らず、サブカルチャー作品定番の「お約束」の類に対するツッコミも含まれているのも相変わらず。(魔王物のブームが過ぎたかどうかはともかく)異世界召喚物、とりわけゲーム的世界観(パラメータが数値で表示される等)のファンタジーは依然として隆盛なので、「剣と魔法のファンタジー」を俎上に乗せるのは完全に外れているわけでもなく、しかもところどころに慧眼が見られます。

 建築様式や生活水準とかはよく分からないが、見た感じはなかなか洗練されている。ファンタジーと聞くと閑也は安易に中世ヨーロッパの暗黒時代的なものを思い浮かべるのだが、ひょっとしたら近代辺りに食い込んでいそうだ。
 (逢空万太『勇者が魔王を倒してくれない』、ソフトバンククリエイティブ、2015、p. 115)


「魔法ってどこに使われてんの、この世界」
“あ、弱い魔法なら人々の生活に根差していますよ。魔宝石という鉱物の形で、照明とか水を引く動力とかにも用いられています”
「電気がそのまま魔法に置き換わったような安直な世界観だな……」
 そこら辺、詳しく突っ込むといくらでもボロが出そうだからあえてスルーしよう。
 (同書、p. 123)


前近代的な世界観(少なくとも銃器はない)を標榜しつつ、「魔法により」という便利な言い訳によって現代的な道具立てが登場するのはもはや最近の異世界物の定番ですが、「それがあるならなぜあれはないのか」という疑問は当然、いくらでも湧きます。
が、そもそもそれが「中世風世界観」なのかどうかを疑問視した事例は、作者はもちろん設定にツッコミを入れる読者にさえ少ないように思われます。
まあ、その世界の人間が「今は中世」と言うはずがありませんし、現代世界からやって来た人間が「この世界は中世風」と評したところでその人物の知識が正確とも限りませんから、作中でさして問題にならないのは当然とも言えますが、そこを読者が「中世風世界観」と勝手に判断した上で「中世にこんなものはなかったはず」とツッコミを入れているマッチポンプが時に見られたりするのが、実情なのです。
それを思えば上述の記述の注意深さが分かるでしょう。

設定の話が長くなりましたが、まだ肝心なこと――「勇者」のことを語っていませんでした。
閑也は「魔王」として召喚されたので、勇者に倒されないと元の世界に帰れません。
しかし、その「勇者」はと言うとこの世界生まれの少女ですが、初期パラメータは一般人以下、弱いだけならまだしもバカで(知性のパラメータは1)で、おまけに閑也と出会うなり早速好感度は限界オーバーまで高まって迫ってくる色ボケ娘でした。
簡単に主人公に惚れる(俗語で言う「チョロい」)ヒロインは非常に多く、残念だったり頭が悪かったりするヒロインも珍しくありませんが、「チョロすぎて残念」とは独特の感覚です。何しろ、パンツを穿いてないことをアピールして行為を迫ってきますし……「痴的」という表現が(頭が悪いのと痴女というのと)二重の意味で言い得て妙です。
いや、ニャル子もそれに近いものはありましたが、最初から真尋を狙って地球にやって来たニャル子と異なり、出会って惚れるところからあっという間なのが描かれている分いっそうチョロい印象が増しますし、何より狡知を駆使して狙ってボケていたニャル子と違って完全に天然なのが本作の勇者の特徴でしょう。これはツッコまれる役をナマモノに割り振った結果です。
その分、彼女が純真で可愛いのも事実。放っておけない危なっかしさと相俟って、閑也が惹かれるのもよく分かります。ニャル子に対する真尋の場合と違って、掲載して好意を持つのを避けたくなるような裏もありませんし。

ともあれ、自分を倒せる強さにまで勇者を育てるべく、見守ることになる閑也(ちなみに、閑也は倒されたくても不可能な最強スペック。強すぎて目標が果たせないとはこれも一種の「俺TUEE系」の裏返しでしょうか)。
まあしかし、このいい加減な神の作った世界で冒険が普通に進むはずはなく……

『ヴァルキリーワークス』の場合、戦闘そのものはヒーロー番組風にまともに決めつつ、初期は戦闘中にギャグ的な描写も交えていて、テンポが今ひとつでしたが(巻を追うにつれバランスは良くなっていますけれど)、本作の場合はシリアスなバトルと見せての落としも堂に入った感がありました。

設定から日常会話までパロディの渦なのも相変わらず。
今作も仮面ライダーネタが多いのですが、中でも『ウィザード』ネタとファンタジーの相性の良さが際立ちます。

本作はガンガンONLINE等で連載されていた作品で、Web連載がきっちり「最終回」と銘打たれていたので全1巻かと思いましたが、続きも可能そうな終わり方。続いたらどう転ぶのか分かりませんが(まあ、「神がいい加減なせい」と言えばどんなトラブルが襲ってきてもおかしくない世界観ではありますが)、楽しい作品ではあるので続きがあるならば楽しみです。
『ヴァルキリーワークス』の続きも早めに読みたいところですが……


イラストは nauribon 氏。
何だか画風はやけにブリキ氏に似ていますが、ゲーム風のステータス画面とか、ページをめくると文章に絵でオチが付くとか、イラストの使い方はなかなか巧みです。

勇者が魔王を倒してくれない ステータス画面

文中に裸とかパンツとかの描写が多い割に、イラストに反映されている箇所が少ない気はしないでもありませんが。


ところで「ラ・マンタ」はドン・キホーテの出身地「ラ・マンチャ」と掛けているのでしょうね……

ドン・キホーテ (岩波少年文庫 (506))ドン・キホーテ (岩波少年文庫 (506))
(2000/06/16)
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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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