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手段は間違っていても今ここで居場所を――『路地裏バトルプリンセス』

今回取り上げるライトノベルはこちら、第6回GA文庫大賞「優秀賞」受賞作品です。

路地裏バトルプリンセス (GA文庫)路地裏バトルプリンセス (GA文庫)
(2015/02/13)
空上 タツタ

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本作の舞台は現代日本、題材は路地裏で行われている、「血闘(ストラグル)と呼ばれるストリートファイトです。

主人公の日月朋昌(たちもり ともあき)はコスプレが趣味ながら護身術の心得があるという男子高校生ですが、アニメ『魔王少女☆フィジカルぱとら』のコスプレ(つまり女装)をしている時に「血闘」に巻き込まれ、「魔王少女」として勇名を馳せてしまったという過去を持っています。
ある日そんな彼が出会ったのは、やはり魔王少女のコスプレ(しかも日月のより出来のいい)を纏い、「二代目魔王少女」を名乗って「血闘」で戦う少女・久留宮來未(くるみや くるみ)でした。
日月が初代「魔王少女」とは知らないまま、その武術の腕に惚れ込み、弟子入りしたいと言ってくる來未。
師匠との約束により、これはあくまで護身のための技で、自分から闘いに行く者に教えるわけには行かないと拒否していた日月ですが、「血闘」の場の熱気やそこに居場所を求める彼女の必死さ、それに(かつての自分と違って)彼女が際限なく承認を求めて暴走したりしない可能性を見て取って、師匠の教えを拡大解釈し、弟子入りを認めることにします。

正直なところ、中盤まではいささか退屈に感じました。
戦いの場面は少なく、とりわけ主人公が戦わないこともあって、戦いの熱さや爽快さ、あるいは弟子の成長を見る楽しみといったものは、あまり感じられませんでしたし。中盤に主人公が「血闘」を観戦してその熱気を知る場面はありますが、それを含めても、です。
武術の技術描写を含め、文章は丁寧できっちりしているのですが、それも地味さに拍車を掛けていたというか、キャラクターや会話などもどこか印象が控え目でした。

さらに気になるのは、主人公が実際に女装する場面なかなか描かれず、まだ普段の行動や言動にそれを思わせる要素も見られないことです。
ヒロインたちにとって「血闘」が「そこでなければならない場」である大きな理由は、「魔王少女」として活躍していた日月への憧れです。
しかし、「魔王少女としての」彼の魅力が読者には分からない。
これは、とりわけ日月が弟子入りを認める方向に心を変えるに展開に当たって、どうも乗り切れない大きな原因となります。

ただ、來未の抱えるハードな事情が明らかになり、彼女と、そしてもう一人のヒロインをも救うために闘うことになる終盤はなかなか熱いものでした。
何と言ってもポイントは、「血闘」という非合法な闘いの場に居場所を求めるという、手段としては「間違った」形で自己肯定を求めることの問題です。
非合法なことに参与し、バレたら拙い立場になると、それをネタに脅されても警察を頼るわけにもいきません。
「血闘」を否定する友人の一野と日月との衝突という要素も入って、この問題が追究されます。
正しさというのは内心の問題ではなく、外向きの「正しさ」を維持しておかねば社会の庇護を得られない、「世間は正しい者にしか優しくない」という言葉は、なかなかにポイントです。
しかし他方で、今までずっと世間の「正しい力」に救われずにいた少女が、唯一自己肯定を得られる場として見出したものを否定することから始めるべきなのか――

敵は外道なだけでさほど強くなかったり、(闘いの強さ以外で)やたらとハイスペックな協力者の力を得られる展開にするご都合主義感があったりという面もありましたが、上述のようなテーマを考えて、戦いの強さ以外のポントがあると思えば、これも一つの魅せ方でしょうか。

だからこそ、この方向で魅せるのなら、前半からもう少しこの感覚を匂わせて魅せてくれていたら……と思うのですが。

そして――
以下はいささかネタバレになりますが、終盤の展開に関しても、引っ掛かるものがないではありません。

來未はずっと暴力を受け続け、それが受け入れることが常態になっていました。
そして、本人が被害を否定しているから、それは警察沙汰にもならず、彼女は「世間の正しい力」に救われない立場に置かれていたのです。
そんな彼女が自己肯定を得られることがいかに貴重か、それは分かります。

しかし、「正しくないところに居場所を得ている」こと自体が、自分の正当さを主張し、「世間の正しい力」に訴えることを疎外するという面も、ないでしょうか。

言っておくと、作中で「血闘」に参加していることをバラすと脅されたのは來未ではなく別人の事例です。
來未の場合は、ずっと以前から自分を認められないでいたのが最近になって「血闘」に参加し、居場所を得たのですから、非合法な場に参加していることが彼女の負い目となっている様子はありません。

ただ、彼女が最終的に立ち上がるきっかけとなったのは、「血闘」の戦いそのものではなく、別の要因があったのも事実。
そこまで考えた時、やはり正しくない場に居場所を求めることへの疑問は残ります。
「正しくないことに参与する」のは「世間に対する体裁」の問題に留まらず、自分自身の正しさを主張するのを妨げる負い目にもなり得るということは、本作でどれだけ問われているのか――

ただ日月、弱さを自覚し、過ちを正すのは「いまじゃない」「未来(あと)にしてくれ」と言いました。
正しくないということが後々大きな問題に繋がり得るとしても、正すのが最優先するとは限らない、自己肯定を得るのが先だと――
人生はだいたい間違いだらけ、つねに弥縫策の連続です。そんな中で今優先すべきは何か――そういう次元まで見て取るならば、本作はなかなか味わいがあるでしょう。

 ―――

ストリートファイトを題材としてライトノベルで思い出したのがこちらの作品↓ですが、これはパンチラを描くために制服姿の美少女がカポエラをやらせる、というバカバカしいコンセプトが全てに優先する作品でした。
ほとんどのイラストがパンツを描いているのは期待に違いませんし、作中で披露される格闘技の知識なども悪くはありませんでしたが……
いや、別にこういう意味でのサービスをしろとは言いませんが。

トルネード! (HJ文庫)トルネード! (HJ文庫)
(2009/04/01)
伊吹 秀明

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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