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どこまで行っても青い海の上で、何を展開する――『ひとつ海のパラスアテナ』

今回取り上げるライトノベルはこちら。
第21回電撃小説大賞の「大賞」受賞作です。
近年の電撃大賞は大賞が2本、それぞれ電撃文庫とメディアワークス文庫から刊行というのが通例になっており、本作は今年の「電撃文庫枠」大賞作品ということになります。

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)
(2015/02/10)
鳩見すた

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さて本作、装丁面でもライトノベルとしてはやや珍しいことに、表紙絵が裏表紙とカバー折り返しにまで繋がっています。

ひとつ海のパラスアテナ カバー

ただし、店頭に並ぶ際には肝心の海と船の絵は帯に隠れ、いささか微妙な人物画が残るという残念な仕様ですが。

ひとつ海のパラスアテナ 表紙

ちなみ本の中身を見ても、カラー口絵はありますが、本文イラストは賞の区切り目などのみ、しかも人物画が少ないという形になっています。


さて、本作の舞台は地球上の全ての陸地が海に沈んだ遠未来です。
この世界において、人類は浮島に住み、海底からサルベージした旧文明の遺産で細々と暮らしています。

主人公のアキは、一人(正確にはオウムガエルのキーちゃんと共に。ただし、このオウムガエルはオウムのように人間の言葉を真似ることができるだけです)ヨットを駆り、島から島を渡るメッセンジャーとして生きている少女です。
この世界――世界が海に沈む以前=「ビフォア」と対比して「アフター」と呼ばれています――では、ビフォアの文化に対するある誤解から「船は男のもの」であり、(表紙絵のような)スカートのセイラー服が「海の男」の服装と見なされています。
それゆえ、両親を失って一人生きねばならないアキはセイラー服を着て男装し、「少年」として仕事をしているのです。

しかし、序盤でアキはいきなり苦難に見舞われます。
急な嵐に遭い、さらにはヨットのパラス号まで失って、小さな無人島に取り残される漂流生活
そんな生命の危機に晒された生活の末に、彼女は別のヨット・アテナ号で漂流していた金髪の美少女・タカと出会います。
水商売で、多くの男たちから聞いた豊富な知識を持つタカと、操船技術を持つアキ、二人で船上の共同生活を始めます。

まず本作の特徴は、(人類にとってはなかなかに絶望的な)世界観、そして漂流や海上生活の描写に力が入っていることでしょうか。
序盤からこの世界の独自用語を結構説明なく並べ立て、「それが当然の世界」を印象付けつつ、それは変容した現代の遺物を示している――たとえばビフォアの大型建造物=ビルディングが海上に飛び出しているのが「ビルデン礁」だったり――というセンスも悪くありません。
そしてサバイバルのハードさ、これは本当に印象的です。
作者は『電撃文庫MAGAZINE』のインタビューでも「実際に海上で暮らす民族や単独航海者たちの本」を読んで調べたことを語っていますが、その辺は確かに反映されているでしょう。

もちろん、架空の世界を舞台にした作品ならではで、この世界独自の静物が割と都合良く使われている場面もありますが、この過酷な世界で人類が生きられるようにする仕様と思えば理解出来る範囲内です。


ただし――前半の漂流生活で最大の山場を消化してしまった印象もありました。
前半3分の1くらいでタカが登場して以降は、アキの旅の仲間も――新たな仲間が加わった、と言うよりも――入れ替えという感じで、ほとんど別の話になっている感があります。
タカの乗っていたアテナ号は食料生産も含めハイスペックなので、生活の困難は急激に減少、アキとタカのラブコメ的なやり取りも緊張感を薄れさせます。もちろん、「苦しい中でも気軽なやり取りを交わせる仲間がいる」貴重さを描くというのなら理解出来ますが、この場合そうではなく、本当に「苦しさ」は退いたという印象が強いのです。

終盤の海賊(シーロバー)相手のアクションはさらにショボいもので、トントン拍子に上手く行っていると言っていいくらいのものです。

『電撃文庫MAGAZINE』掲載の読み切りも、時系列的には本編より前のエピソードでやはりサバイバルを描いたものだったのを見ているだけに、なおさら乖離が目に付いたのかも知れません。
とにかく、別れを含む前半の過酷な展開が冒険の幕開けにすぎない扱いで、後半の山場がこの盛り上がらなさでは、構成には疑問を感じざるを得ません。

淡々とした文体も、前半は客観的な筆致と見ることもできましたが、人間関係や活劇を描くとなると物足りなさは否めません。

雑誌掲載短編のことも考え合わせると、サバイバルだけでは長編の題材としては足りないというのが、こうした事態の一因としてあるのでしょうか。
しかしその結果がこれでは、「そもそも長編とは何か」と問わねばならないでしょう。
4月にはすでに2巻発売予定ですが、2巻ではまた主人公以外のメンバーを一新しそうな様子で、これまた長編としての本作のポテンシャルに不安を感じるところです。

それから、世界観ですね。
「文明滅亡後の世界」というのは、真面目に考えると「なぜあれが残っていてこれがないのか」という疑問が尽きないものですし、何で全人類の共通語が日本語になってるのか――むしろ通信・流通手段が失われた分、言語が細分化しないのか――とか、ビルが海面から出ているのに山岳地帯だったところも含めて陸地がないとかいうのも疑問です。しかし、そうした細かい粗探しはしますまい。
むしろ引っ掛かるのは、タカがあまりにも当然のように現代日本の常識を語ることです。

「他にもこのセイラー服。スカートが海の男の正装なんてのはアフターだけの話よ。ビフォアではスカートは女の子のもの。男がはいてたらヘンタイよ、ヘンタイ」
 (鳩見すた『ひとつ海のパラスアテナ』、KADOKAWA、2015、pp. 105-106)


もちろん、広い世界には昔の知識を伝えたり発掘したりしている人もいる、それは分かります。そしてタカは様々な男たちの話で多くの知識に通じています。
しかし、タカ自身に遠い世界のことであるはずのそうした知識を、まさに現代人が現代の常識を語るような口調で語るタカは、それに馴染みすぎています(アキに比べて「役割語」の印象が強いタカの口調――いわゆる女言葉――もその印象に拍車をかけます)。しかも、そこでの「ビフォア」は、もっぱら現代日本に限られています。
結果、アキにとって未知の世界のことを伝えるはずの知識が、読者にとってはむしろ世界を狭くしたように感じられてしまうのです。

主な移動手段がヨットであるこの世界では、人間の行動範囲は随分と限られるはずですし、「ビフォアの世界」「アフターの世界」と言っているのも局地的なことに過ぎなかったのか――という疑問も湧いてきます。
実際、本作の地の文は三人称で、アキの主観よりもずっとビフォア人たる読者向けであるように思われますし、雑誌掲載短編でははっきりとアフターの常識をビフォアに対する「勘違い」と明言している箇所もありました。
しかし他方で、本作はこの世界の海は「一つ」であり、「アフター」の世界はその全体のことであると、強調してもいるのです。

月並みな事例ですが、現代においてもスコットランドではスカートは男の服装です。

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そういうことを踏まえて、読者が馴染んでいる文化とは全く異なる「常識」を持つ世界を当然のように提示する意図だったのか、さらには現代日本において女のものだるスカートが男のものとされる世界でスカートを纏い男装する少女というジェンダーの捩れはどんな意味を持ち得るのか――と色々考えましたが、読み終えると結局、作者自身がそこまでの広い視座を持っていたのかどうか、疑問に思ってしまいます。

ラストで明かされる、全ての登場人物を随分と狭い範囲で結びつけるような真相も、そうした狭さの延長上にあるのではないでしょうか。

それら全てに関係していることですが、つまるところ問題は、「この設定でこの話を書く意義は何か」です。
言っては何ですが、漂流生活の話なら、実話でも面白いものがあります。
定住者でさえ浮島暮らしで、海上生活から逃れられないというある意味で閉塞した過酷な世界観、少女の一人あるいは二人旅というモチーフ、異世界が舞台ならではのあるものないもの――そうしたフィクションとしての要素を活用できているかどうか、本作に対してはそこを問わざるを得ないのです。

ロビンソン・クルーソー (集英社文庫)ロビンソン・クルーソー (集英社文庫)
(1995/03)
ダニエル デフォー

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ちなみに、本作のようなストーリーの前半と後半、はたまた諸要素の乖離している感の強い作品の場合、どこに着目するかで評価が分かれがちです。
本作の場合、「海洋サバイバル物」として見るか、あるいは百合小説として見るかが、第一のポイントでしょうか。
私は、百合小説としても必ずしも満足してはいません。
理由はやはり上述の通りで、心情描写に関して物足りないのと、現代に引きつけたタカというキャラクターの造形さに凡庸さを感じるから、と言わせていただきます。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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