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ゴミが繋ぐ絆――『神のゴミ箱』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。

神のゴミ箱 (メディアワークス文庫)神のゴミ箱 (メディアワークス文庫)
(2015/02/25)
入間人間

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作者は入間人間氏。一時期月刊で単行本を刊行していた頃に比べると、昨年は5冊の刊行と近年ペースは落ちていますが、それでも並以上の刊行ペース。
さらに、今年はこの後4月に『おともだちロボ チョコ』の単行本化、5月にも新巻予定と、今年の前半は結構なペースの予定が決まっています。
本作は『電撃文庫MAGAZINE』Vol.33-34、及びVol.36に連載されたものを収録、それに後半3章を書き下ろしで加えたものです(初回の初出は実に1年版前!)。
通常イラストは口絵の1~2枚のみのメディアワークス文庫なので連載時のイラストはどうなることかと思いましたが、1枚は白黒になったものの全て口絵に収録されています。

神のゴミ箱 扉絵

他方、表紙は人物画を小さめにしてメディアワークス文庫の雰囲気に合わせるなど、今回は植田亮氏の仕事もなかなか良いものです。

さて、本作の主人公は安アパートに一人暮らしの大学生・神喜助(じん きすけ)です。去年の夏に彼女と別れてからは、大して意味もなく筋トレに没頭する生活を送っていました。
そんな彼の家にあるちょっとした非日常、それは何にでも名前を書く癖のある(別れた)彼女が「神」と彼の名前を書いていったゴミ箱でした。
このゴミ箱には、同じアパートの住人たちのゴミが転送されてきます。

他人のゴミなどあまり見たくも触れたくもないものですが、そこから隣人たちの生活が垣間見えることもあります。
ポエムを書く奴、毎週別の女を部屋に連れ込んではその髪を切っている奴……
そんな中、新たに転送されてきたポエムの中に自殺を仄めかすような内容のものがありました。
ただの表現なのか、本気で書き手の意志を表明しているのか分かりませんが、本気である可能性を考えたら放っておくこともできず、しかしそもそも作者は住人の内の誰なのか……

他方で、二つ隣の部屋に住む女子中学生(母と二人暮らし)とはそこそこ関係良好な付き合いですが、どういうわけかある時から、彼女はパンツを売ろうとか、果ては援助交際まで持ちかけてくるようになりました。そんなことに慣れている様子はないのですが、一体何のつもりなのか……

そんなわけで、大筋としては主人公が同じアパートの一癖も二癖もある住人たちと交流を築いていくという、伝統的なフォーマットのお話ですが、そこでゴミ箱を通して知る情報が物語を動かす、というのがポイントでしょう。
その結果としてはバカ騒ぎもあり、神が活躍してちょっといい話になることもありますが……

やはり作者らしい内省的な記述は至る所に見られますが、たとえ若干話題が真面目ぶっても、何しろ他人の使用済みティッシュなどが送られてくるゴミ箱という(嫌な)道具立て、ステキなポエム等のモチーフ、さらには神の隣室に住む悪友・西園や二階に住んでいる女・比内(ひうち)ら変人揃いの住人たちとの、いかにも暇な大学生らしいバカっぽいやり取りがいい感じに緊張感を削いでくれることもあって、氏の作品としては近年見なかった実にコミカルで楽しい作品になっています。
地の文自体もユーモア多め、詩の挿入による文体の多様化もこの場合は喜劇らしいのかも知れません。

 そうしてアホの一つ覚えのように筋トレを繰り返した結果、もやしのよういひょろひょろと頼りなかったノッポがつくしぐらいにはなった。次に目指すのは丸太のような手足といきたいが、五月の連休に実家に帰省した際、『そんなにムキムキになってどうするの?』と至極真っ当な問いを母親に投げかけられて以来、俺の中で筋肉に対する熱意は冷めつつもあった。そこで理屈じゃないと割り切って我が道を邁進する者だけが理想の肉体を得るのかもしれないが、俺にそこまでの情熱と資質はないようだ。というか、ふりかけご飯(のり玉)ばかり食べている生活ではこれが限界な気がしなくもない。
 (入間人間『神のゴミ箱』、KADOKAWA、2015、p. 7)


「どこで間違えたかなぁ」
 振り返っても、分岐点は少なかった。過去の見晴らしは良好である、なにもないから。
 だからすぐに、誤りを見つけることができた。
 やはり去年の夏に彼女と別れたことが、最たる間違いな気がしてならない。
 別れなければ、ふりかけご飯(たらこ)も味わえたかもしれないのだ。
 (同書、p.9)


『蒼天の沈む日

 夏の日は針 傷跡からあの日の血(いたみ)を見つけてしまう
 優しくない 大切じゃない 忘れたい 愛したい
 乾いた嘘(つよがり)が血(おもいで)に濡れる度 ひび割れていく
 夏の日はただ鋭利な現実(はり)
 溶けていく幻(わたし)に傷(かたち)を与えて
 夏の日は疲れた思い出をつなぐ鍵(はり)
 光(まっしろ)に包まれながら
 どうか紡いで 私の愛(いと)を』

「……きつぅい」
 胸焼けしてしまう。声に出して読むと、悶え転がりそうになる。
 このルビがキツイ。ここだけはどうしても慣れて乗り越えられない。
 (……)
「とりあえず、あれだよな……タイトルと中身、あんまり関係なかった」
 テンションのおもむくままに綴った結果、一人で遠くに行っちゃったのだろう。
 夏の日の執拗な針押しはなんなのだろうか。
 (pp. 14-15)


 盲目的に筋肉を鍛えていたあの冬、一日でも筋トレを休むことになったときの不安と焦燥にそれは似ていた。俺の生き方は建設的なのか? という疑問だ。今やっていることが次に繋がる行動でないと無意味に、ムダに感じてしまう。とっくに遊び終わったゲームのレベル挙げを延々繰り返すよりは、新作を攻略した方が次に繋がっていくような、そんな感覚だろうか。
 極論を言ってしまえば最後は誰もが死ぬのだから、何を建設しようとどうにもならない部分はあるのだがそれでも、俺は次を求める。前向きって、そういうことじゃないかと思う。
 (同書、pp. 128-129)


ただ本作、こうして単行本化されたものを見てみると、連載時の印象よりもだいぶ恋愛色が強めでした。
比内というかなり困った性格の女と、女子中学生の木鳥(きとり)という二人のヒロインの存在感と、神と彼女らとの関係のウェイトが大きくなった、と言いましょうか。

連載の2回目と3回目をそれぞれ第2章の前編と後編と銘打ちつつ、第2章後編のサブタイトルが『実は三章でもよかったと思う』になっている辺り、本来は一章につき住人一人にスポットを当てていく予定だったのではないか、とも思われます。
ただ結果的には、第1~2章でスポットの当たった二人のヒロインとの(そう言って良ければ)三角関係が第3~5章でも引き続き主題となりました。
木鳥視点でその乙女心を描く第4章など、さすがの出来です。

実は――本当に意外なことに――本作はこの1冊で完結せず2巻に続いているのですが、これもそこからの予定外の帰結のようにも思えます。
ただ、続きも当然恋愛事情を引っ張りそうですが、残る住人にスポットが当たる時はあるのでしょうか。西園は普段から出ていますし、髪切り男の柳生もその変態振りをしっかり見せてくれたとして、ワカメのような髪型の男・三四郎は話には絡んでいませんし。

それにしても――比内は相当に傍迷惑で困った人ですし(漫画やライトノベルでは傍若無人で性格の悪いヒロインはよくいますが、入間氏が描くと何とも定型を超えた生々しさがあります)、木鳥に関しては、将来のあるまともな女子中学生が自分のような男に憧れていては拙いと神もよく分かっています。
そして神自身はと言うと、前の彼女と別れたことに関してまだ引きずっているものがあります。
色々な意味で、いずれと恋愛成就しても宜しくないように思えるこの関係、そう思うと事はなかなか繊細なのですが――どうなるでしょうか。

 ―――

以下は若干、本作そのものの内容からは離れますが、昨年の入間氏は立て続けに『砂漠のボーイズライフ』『安達としまむら』3巻を刊行、男子校と(舞台は一応共学ですが)女子高生の両方を描く手腕を印象付けたことがありました(「ボーイズライフ」が「ボーイズラブ」と誤読しやすいので、百合作品である『安達としまむら』と対比するとなおさら)。
ただ私としては、『砂漠のボーイズライフ』とそのほんの5ヶ月前に刊行された『エウロパの底から』の対比の方が印象に残っています。

『エウロパ』の主人公は作者をオーバーラップさせるべくして描かれているので、そこに見られる心情描写も作者の個人的な事柄だと、読者としては思ってしまいがちですが、話の射程はそれだけに留まりません。
三十路に差し掛かり、自分の「将来」の可能性がどれだけ限定されているかがはっきり見えるようになってきた――それだけ、ポジティブな可能性を夢想し辛くなった――時、これから先自分はどうなるのかという不安、これは『エウロパ』の主人公のように若くして持て囃されたことのない身でも、その歳になってみるとよく分かります。
そして他方で、『ボーイズライフ』の主人公の、こちらは大人の視点で振り返ると「小さなことで一生の終わりのように悩んでいたなあ」と笑い飛ばせそうな不安。
見比べると、三十路の不安と思春期の不安の質的な違いを明晰に描き分ける作者の手腕は大したものです。

そして『神のゴミ箱』に戻ると、神喜助は20歳の大学生。
モラトリアムの時期ですが、中学生から見ると「大人」であり、そして未だ将来が開かれていると言える年齢でありながら、自分の可能性をすでに限定した視点から「将来ある中学生が自分のような男に憧れていてはいけない」と言い得る立場。
この感覚はまったく絶妙です。
作者には大学生主人公の作品はたくさんありますが、こうした下の世代との対比はあまり先例のない題材で、しかしそれを見事に描いていることにまたしても感心します。


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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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