オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
今年も母校の卒業・修了制作展
群馬県警巡査、少女性描写漫画も 「恋愛の電子書籍で感化」
記事によって漫画だと書いていたりいなかったり、なぜかわざわざ「電子書籍」と特定していたりと、何とも変な記事ですが、しかしこの手の「フィクションに触発されて」という供述は、もうすっかり聞き慣れた類のものです。
そもそもこうした事件自体が多いわけではありませんが、たまに起こると紋切り型の供述を聞くというのが、もう20年近く前から続いている気がします。
・「誰でもよかった」
・(殺人事件の場合に限り)「人を殺してみたかった」
・「〔アニメ・漫画・ゲーム等〕フィクションに感化されてやってみたくなった」
etc...
皆して似たような供述を繰り返すことから感じられるのは、「これらが言い訳として通用する」という通念が共有されていることであり、そして「皆と同じような動機で動く人間でありたい」という同化欲求です。
犯罪という一生を左右する行為に踏み切る時くらい、自分の理由で動き自分の言葉で語りたいと思わないのか。思わないようです。
「自分の理由で」犯罪を行ったりすれば、「理解できない」すなわち「異常」というレッテルを貼られるのがオチでしょう。犯人たちもそんなことは望んでいない、いやむしろ恐れているように思えます。
逆に言いましょう。
「疎外されて苦しみ、“誰でもいい”という自暴自棄な気持ちになったら人は凶行に走るものだ」「人はフィクションに感化されて犯罪に走るものだ」――こういう言説が説得力あるものとしてまかり通るほどに、犯罪者に言い訳を与えているのではないでしょうか。
いや、実はこうした趣旨のことを言っていたのは斎藤環氏ですが、私も概ね同意見です。
たとえそれで法的に免罪されるわけではなくとも、人間、言い訳があるのとないのとでは、行動しやすさが全く違うのですから。
「人はそういう理由で犯罪をなすものだ」というのが通念として成立すれば、今度は犯人がそれに沿った紋切り型の言い訳をすれば、結果的に世間は「そうそう、皆そういうものだよな」と犯人に対して理解と共感を示したという格好になってしまいます。
しかも上述のような言い訳は、外的環境に関係なく、ほとんど誰でも使えるものです。
犯罪者を異常者として排斥するのが良いとは思いませんが、犯罪者に安直な言い訳を準備してアシストするのも、もう十分なはずです。
まず、そういうのが言い訳になるという考えを改めましょう。
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さて、今年も帰省して、母校である愛知県立芸術大学の卒業・修了制作展に行ってきました。
ただ、卒業して3年も経つと、さすがに知った名前も少なくなります。
同期の連中(専攻は違いますが)が修士課程を修了したのが去年ですし……
例年通りなら、専攻の後輩たちはレビューのため来ていたと思われますが、それは多分初日でしょう。
今年は私の方が予定を立て損ねて、卒展の終わり近くになってから行くことになってしまいましたので(開催期間は明日3月1日まで)。
ただ、一人は知った相手に直接会えました。一学年下で今年修了する人です。
例によって、入口から順番通りに巡ればまずは日本画です。

日本画の修士課程では、技法研究を専門として、古典作品の模写を発表する人が何人かいるのも例年通り。
技法研究の場として、愛知県立芸術大学が一定の存在感を発揮し続けてくれることを願います。


それから油画、彫刻と続きますが、油画にも立体作品は多く、この辺は本当に何でもありという印象が強いですね。

↓比較的印象に残った作品としては以下のものでしょうか。


それからデザイン。
ここでは実用性に優れたものが見られる一方で、ファインアートに近いものも多く、評価基準に悩む理由の一つであったりします。
↓坂口安吾『堕落論』のテキストに割と可愛い感じのイラストを添えたものとか。いや個人的には割と好きですが。

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一室、映像系作品のために暗い部屋が用意されているのも恒例です。

そして陶磁。
皿や壺の善し悪しを判断するのは私の手に余りますけれど、その中でちょっと面白いと思ったのはこれ。
カタツムリをモチーフにした作品群です。

急須もカタツムリ型(カタツムリの頭が注ぎ口になっています)、

皿もカタツムリのいる葉、

そしてカップも目が……

発想としては好きですが、実用性の問題(この急須は持ちやすいのかどうかとか、こういう出っ張ったものがくっついている皿は大丈夫なのかとか)は若干気になるところです。
順路としてはまだこの後に、デザインの部屋がもう二部屋あります。デザインが一番学生数の多いところですからね。
中で割と印象的だったのはこれ。

後にページを開いた状態のものがあるのを見てください。
片方のページが鏡のような銀色になっていて、こうやって開くと、鏡像まで含めて絵が成立するという楽しい絵本です。
ただ、これはすでに福音館から出版されている作品↓。
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![]() | ふしぎな にじ かがみのえほん (福音館の単行本) (2014/10/09) わたなべ ちなつ 商品詳細を見る |
今回、この作者氏が「修了制作」として発表したのは別の新作で、人間サイズの本です。
これまた頁が鏡になっている……ということで、『かがみのえほん』はあくまで参考です。

等身大となると自分が映るわけで、ミラーハウスにも似た感覚、なおかつ鏡面の上に絵柄も描かれているのですが、『かがみのえほん』の凝り方の前には若干インパクトが薄れた気も……大きすぎて手軽に扱うことも量産することもできないという面もありますし。
ちなみに、私の出身である芸術学の展示場所は年により違うのですが、今年は何の因果でこうなったか卒業生が一人だけであったせいか、最後の部屋の片隅のスペースをひっそりと使用する形になっていました。

今年卒業する彼女のことはもちろん覚えていますが(一年間は一緒にいたわけですから)、そろそろ誰がどの学年だったかの記憶は急激に怪しくなっています。
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