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それは病気か、事件か――『天久鷹央の推理カルテII ファントムの病棟』

年度末には研究報告書と来年度からの計画書を提出せねばならないことをすっかり忘れていました。
まあ、本来の期日を過ぎていても受け取ってもらえましたが……

いくらWeb化でシステムが便利になっても、肝心なことの通知はさっぱりなくて、自分で学事歴を確認しないといけないんだから……と人のせいにするのは程々にしておきましょう。

 ~~~

今回取り上げる小説はこちら。現役医師兼作家によるキャラクターノベル(ライトノベル寄り)進出作品の第2巻です。

天久鷹央の推理カルテII: ファントムの病棟 (新潮文庫nex)天久鷹央の推理カルテII: ファントムの病棟 (新潮文庫nex)
(2015/02/28)
知念 実希人

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 (前巻の記事

本作は、並外れた知識と診断能力(それに女子高生に見紛う若作りの容姿)を持つ女医・天久鷹央を探偵役、その部下として振り回されている医師・小鳥遊優を語り手としたライトミステリ作品です。
今回は3本立て――運転中に急に身体が痙攣して意識を失ったトラック運転手が、「飲んだコーラの味が変だった、毒が入っていた」と主張する「甘い毒」、鷹央たちの務めるのとは別の病院の看護師が「病院に吸血鬼が出る」という相談を持ち込む「吸血鬼症候群」、そして難病の少年が「部屋に天使が出る」と言い、隣室に入院している少年たちの容態が急変する「天使の舞い降りる夜」という3つのエピソードが描かれます。

繰り返しますが、本作はミステリとして見ると、医学知識がないと真相を当てることは難しいので(医師である語り手が「医学的に疑問に思うべきポイント」に注目してくれることもあって、半端な知識でも半分くらいは読めることがありますが)、ミステリとしてフェアとは言えません。
ただ今回の三編を見比べると、「病気」による真相と「人為」による真相とがバランス良く混じっていることが分かります。
病気かと思うとそう見せかけた人為、自作自演かと思いきややはり病気……その辺のどんでん返しだけ見ても構成は実に上手く、ミステリの醍醐味「騙されること」はしっかり味わうことができます。

それから、医学知識とは別に今回印象的だったのは、「吸血鬼症候群」で描かれる、身寄りのない生活保護の老人を入院させて粗雑な扱いをしている療養病院の描写でした。
こういう事例が実際にあるのか、また成立するのか定かではありませんが、しかし実際質の悪い医者と病院は存在するわけで、本作で描かれたような事例もありそうな気がするのが怖いところです。

そして、今回も最後のエピソードは鷹央自身の身に関わるという構成も前巻と同じ。
今回は、彼女の人間的な弱さが際立つエピソードでした。
診断能力は高くてもコミュニケーション能力に難のある鷹央が医者としてぶつかる壁――患者との接し方の問題です。それも、彼女が患者に対して無礼だとかいう(いつもの)ことではなく、彼女自身がどう向き合うかということ――患者の「死」を前にしての受け止め方が問われます。

 医師をやっている限り、『死』は常に間近にある。たしかに統括診断部は診断をくだすことが主な業務で、治療にはあまりかかわらないため、患者の『死』に立ち会うことは多くはない。しかしそれでも、医師という仕事は常に患者の『死』とセッしていかなければならないのだ。それを避けていては、いくら最高の医学知識を持っていたとしても、鷹央は本当の『医師』にはなれないんじゃないか?
 (知念実希人『天久鷹央の推理カルテII ファントムの病棟』、新潮社、2015、pp. 211-212)


難病の少年とか、ベタな題材ではありますが、病院という舞台が舞台だけに、自然な風に扱って、感動的なエピソードとして見せてくれます。

 ―――

ちょっと余談気味ではありますが、本作のような「横暴なヒロインと振り回される主人公」という取り合わせは、『涼宮ハルヒ』を筆頭としてライトノベルでは定番となっており、あまりにも見慣れたものです。
ただ、この手のライトミステリ作品で、ヒロインが探偵役として、しばしば策も弄して事件解決に活躍する――という展開を見ていると、――本作の場合、鷹央たちが大人の社会人であることも相俟って――『ハルヒ』のさらに元ネタの一つである『百器徒然袋』を思い出します(ちょうどコミカライズもあって、私が最近『百器徒然袋』を読み返していたせいもありますが)。

ただ、やはり榎木津礼二郎のように天衣無縫、ただ暴れて痛快な活躍をするだけでかくも見せられるキャラクターは、やはり稀有なのかも知れません。
ことその役を「ヒロイン」に割り振るならば、その弱さをも見せるのがキャラクターの魅力という点でも効果的なのか、等と考えてみる次第です。
今回、鷹央の弱さを前にして(普段は振り回される側である)小鳥遊が彼女を促す場面も、割と自然に魅せていましたしね。

仮面病棟 (実業之日本社文庫)仮面病棟 (実業之日本社文庫)
(2014/12/05)
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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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