オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
親の夢を子に託し……――『暗殺教室 13』
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(前巻の記事)
前巻は丸一冊死神編でしたが、今巻は前半でいよいよ「死神」との決着になります。
死神と烏丸先生の人類最強決定戦、殺し屋としての功を求めるあまり裏切ったビッチ先生の処遇、そして生徒たちは一矢報いることができるのか……と全ての見所が収束します。
終わってみれば意外とあっけなかった感もある死神ですが、全てにおいて圧倒的スペックの彼に足りなかったものとは何か、ということを通して、「大人になるとはどういうことか」という問いを示している面もあり。
さらに死神が今後再登場しそうな気配もあり……と相変わらず伏線が多層的に効いています。

(松井優征『暗殺教室 13』、集英社、2015、p. 17)
厳しさばかりが人を育てるとは限らない。
そして、後半はいよいよ卒業を見据えて、生徒たちの進路相談になります。
ついに自分の才能に気付く渚。

(同書、p. 105)
そして、明かされる彼の家庭の事情。
父親と別居していることなど、いくつかのことは仄めかされていましたが、彼の女の子っぽい髪型も相手の虚を突く才能も、全ての背景が明らかになります。

(同書、p. 118)

(同書、p. 120)
何から何まで自分の思い通りの人生を息子に歩ませようとし(しかもそれは自分の果たせなかった夢)、刃向かわれると豹変する渚の母。
こうした豹変は、前作『ネウロ』で定番だった作者の得意分野ですが、今回は『ネウロ』ほどカリカチュアライズされていないのが、かえって現実的な恐ろしさを感じさせます。

(同書、p. 115)

(同書、p. 124)
しかも、こうしたおぞましい親のエゴは多くの場合、「自分の苦労を子供に味わわせたくないから」という美名と善意の皮を纏ってやって来るのです。
たとえこれほど激しい形を取らずとも、たとえば「自分も英語で苦労した、ろくに喋れないから」と子供に英語の早期教育を受けさせる親を見るたび、いつも思います。
最強の殺し屋「死神」という事例を前にして、その凄さも欠点もよく見た後で、自分の才能を「どう活かすか」に向き合う渚。
それは親の拘束を脱して自ら進む道を決めることでもある……と、この構成は見事の一言です。
とは言え、一つの主題が一度で終わるとは限りません。
E組の生徒の中で、「親の鎖」に縛られていたことは以前に描かれた例としては竹林君がいて、その時に神崎さんも同様であることを示唆する発言をしていました。
進学校の生徒たちが親の意向に縛られていることが多いのは、当然予想できることであって、この主題はまた別の生徒の身に反復されるのかも知れません。
「生きていてさえくれればいい」――これこそ親の子に対する最もラディカルな愛情表現ですが、それに留まらず贅沢を言えるようになったのは豊かさの証と言えばその通り。ただ、幸福かどうかはまた別の話で……
そして、今巻の最後は学園祭編に突入します。
椚ヶ丘の学園祭は本気の商戦を繰り広げることで有名で、成果を上げれば商業的実績としてアピールできるほど、とのこと。
E組は山の上という立地からして明らかに不利ですが、山中で取れる自然の幸を安くて美味しい原材料にして勝負。
またもA組との対決で、A組の浅野学秀(理事長の息子)としても自らの立場をかけた戦いになりそうです。
結果は次巻、乞うご期待。
―――
今月は公式キャラクターブックも同時発売。
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