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過酷なファンタジー世界と、再び手に入れた肉体を前にして――『Vermillion 朱き強弓のエトランジェ』

今回取り上げるライトノベルはこちら。
今月、宝島社より新巻(2巻)の献本を頂いたのでこの機に読んでみることにしました。献本感謝致します。

実は、1月発売の『まのわ』2巻の献本は頂かなかったので、既巻を頂いておらずシリーズ途中からになるものは来ないのかと思っていたのですが、先月の『スクールライブ・オンライン』5巻と『ユート 拉致から始まる異世界軍師』2巻を頂いてそうでもなさそうだと分かりました。その2作についてはまだ読めていないのですが、またの機会と致しましょう。

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本作も例によって(?)今流行りのWebサイト「小説家になろう」出身作品です。
Web版はこちら→ Vermillion;朱き強弓のエトランジェ
これを見ると、単行本2巻までで現時点でのWeb掲載分の半分くらいになるようです。

なお作者名は「ただの しんじん」ではなく「ただの にいと」と読む模様。

本作は、ひとまずヴァーチャルリアリティ(VR)技術を用いたMMORPG(大規模オンラインゲーム)「DEMONDAL」の世界を舞台として始まります。
この「DEMONDAL」は、「圧倒的なリアリティ」を売りにしており、パラメータの可視化や「プレイヤーの挙動を自動化するアビリティ」といったゲーム的要素を極力排除し、死亡時には死体と全ての所持品をその場に残すという仕様です。
行き過ぎのゆえかそこまで流行ってはいないこのゲームですが、弓使いのケイと「NINJA」(外国人による少し間違ったイメージのニンジャ)のアンドレイはこのゲーム世界に入り浸っているプレイヤーで、中でもケイは「いつログインしてもいる」と言われる程の「廃人」プレイヤーぶりでした(もちろん、「弓使い」「NINJA」というのはゲーム中でのキャラ設定です)。

そんな二人はある日、ゲーム世界内で奇妙な霧に飲まれ、そして気付いた時には「DEMONDAL」そっくりの異世界に転移していました。
元々が五感を再現するVR技術で、中でも現実を隅々までシミュレートしたリアリティが売りだったゲームだけに、「ゲーム世界からログアウトできなくなった」のか、「ゲームそっくりの現実」なのかは、容易に判断できないものがありますが、さすがに処理容量がいくらあっても追いつかないということで再現されていなかった地面や草の素材まで完璧であること等いくつかの理由から、彼らは「ここがゲームではない」と判断します。
さらに……アンドレイは現実での性別――女の「アイリーン」の身体に戻っていました。

さて何しろ、ゲーム的に派手なスキルは元々存在しない設定です。
多少の魔法はありますし、ケイは常人には引くこともできない弓で圧倒的精度と速度の射撃が可能というチート的な強さ(いわゆる「俺TUEE系」)の要素もあるにはありますが、総じて控え目。戦闘もどちらかというと地味で堅実なものになります。
さらに、ゲームではそこまで再現されていなかった「痛み」や「死」が切実な重みを持ってのしかかってくるのがポイント。
ポーションで傷を一瞬で回復すると痛みが物凄いとか、そういうところを丁寧に描いてくれます。
ゲームと違って死ねば生き返れませんから、緊迫感も段違い。タイトル通りの「エトランジェ(異邦人)」であるケイとアイリーンにはこの世界での伝手も信用もありませんし、村で宿を取ったり街道を旅したりするだけでも危険が伴い、注意と緊張を強いられます。
食事や環境などに関する丁寧な描写と相俟って、「現実の」ファンタジー世界で冒険するとはどういうことか、をじっくりを描いているのが、本作の見所でしょう。

1巻ではアイリーンが死にかけて、それを助けるべくケイが奔走するのですが、ケイは――殺気関知のスキルの高さに呼応するように――警戒心と猜疑心が強く、自分たちが助かるためには行きずりの村人は犠牲にしても……とすら考える人物(村人にも親切な善人がいる一方で、ロクでもないのがいたのも事実ですが)。
他方で2巻では、前向きな性格のアイリーンが交流を持った子供を助けるべく戦い、それがケイにも影響を与えます。
そんなわけで、2巻をかけて、この二人の人物と彼らがバランスを取り合っての旅という方向性を示した感じでしょうか。

ストーリーはと言うと、ここまではもっぱら盗賊やゴロツキとの小競り合いとスケールが小さかったのですが(それでも主人公たちにとって重大事となるところを丁寧に書いているのが特色でもありますが)、2巻の最後で敵組織の途方もない実態が判明、スケールが一気に大きくなるのを予示しています。

ただ――
本作のような設定を見ていると、元のゲームが「圧倒的なリアリティ」を売りにしているだけになおさら、「ゲームと“ゲームそっくりの現実”の差異の意義は何か」と考えてしまいます。
本作の場合、大きなポイントは、ゲームと違って蘇生のアイテムや魔法は存在せず「死んだら終わり」ということ――もっと広く言うならば、彼らが「傷付き、痛み、死ぬ肉体を有していること」があります。
しかし、あくまで「ゲーム」を舞台とした話であっても、「ゲームオーバーになれば現実でも死、もしくはそれに類する危機が訪れる」という設定は少なくありません。
さらに言えば、「これはもはやゲームではない」というゲームと現実とのギャップを描くならば、元々のゲームがあまりにも「現実そっくり」でない方が、話は明瞭なはずです。
元のゲームが――ゲームとしては凝りすぎの域で――現実の再現を売りにしており、なおかつ「ゲームではない」世界に転移するのはなぜか、ということです。

そもそも、「小説家になろう」系作品において、オンラインゲーム物と異世界召喚/転生物は圧倒的に流行りのジャンルです。
パラメータの可視化などのゲーム的な要素は、そこから派生して今や当然のように用いられるようになったギミックです。
本作は、「小説家になろう」のゲーム的異世界ファンタジーでありながら、あえてそうしたゲーム的要素を排して、現実的な冒険を硬派に描いているのが売りです。

だからと言って本作は流行りのジャンルの「パロディ」や「単なる反転」ではありません。パロディとして笑えるような代物でなく至極真面目ですし、そうした先行作品の流行りを念頭に置かなくとも単独に楽しめるだけの質を備えているかと思います。
ただその上で、本作はやはり「近年のなろう系作品」の文脈においてこそその設定の意味がフルに理解出来る作品なのではないか、とも思います。
もちろん、全てのものは多かれ少なかれそうした歴史的文脈に負っているのですから、これはマイナスの意味では全くないのですが。

こうした作品を取り巻く文脈に依存する事柄、およびそれに関する註釈の問題に関しては、可能ならばいずれまた機を改めて論じたいと思います。

その上で、本作内部の論理に則りもう少し設定の意味を見ていくのであれば、ケイとアイリーンの二人とも、元の世界では病気や怪我による身体障碍を抱えており、それゆえに――ヴァーチャルながら五体満足で動ける――ゲーム「DEMONDAL」に入り浸っていたらしい、ということです(アイリーンに関してはまだ本人の口から語られてはいませんが、十分な情報は仄めかされています)。
それがゲームでなく現実になったのです。つまり、「アンドレイ」が本来の性別である「アイリーン」になっているように、彼らの姿はゲーム中のアバターではなく現実の姿に準拠しているのですが、完全に「元の姿」でもありません。

もちろん、身体障碍を抱えてもそれを受け入れて幸福になることは可能でしょうが、彼らの場合はそうでもなかったようで。
仮に「元の世界に戻る」方法があった場合どうするか、に関しても二人に温度差はありますが、ケイはすでに戻らないことを明言しており、アイリーンも迷ってはいるものの戻ることに乗り気とは言えない模様。
たとえ物騒な世界で異邦人であっても、失われた肉体を得てしまったということは彼らにとってそれだけの意義がある――ここがポイントでしょう。

もし「ゲームの世界に閉じ込められた」ならば、「脱出」が目標にならざるを得ません。
もし「異世界召喚」ならば、元の世界に帰ろうとすることもありますが、異世界に定住してしまう可能性もあります。
もし「異世界転生」ならば、死んで転生した以上「帰る」持ちは最初から閉ざされています。

本作の場合、ゲームのプレイ中にこの世界に飛ばされたので、元の世界での自分がどうなったのかは不明なままです。
まあ、そもそもまったくこの世界に飛ばされた理由は不明である以上、そもそも「帰るかどうか」などという選択をする場面が来るかどうかもそれほど定かではありませんが……
この「召喚」と「転生」の中間のような状況にあって、元の世界とこの世界で得たものの間で何を思うか――それがこの設定を活かす味噌となるでしょうね。


ヒロインのアイリーンはずっと男のアバター「アンドレイ」だったためか一人称が「オレ」の少女です。
もっとも、「DEMONDAL」はヨーロッパ発のオンラインゲーム(ケイは日本人ですが、アイリーンはロシア系)でゲーム中の公用語は英語という設定なので、本当は一人称の区別などないのでしょうけれど(もちろん、プレイヤー同士は通じれば何語で喋ってもいいのですが、NPCも使っているのは英語で、それはゲームそっくりの異世界でも変わりません)。
ちなみに、人間の公用語は英語ですが精霊語はエスペラントで、魔法を使うためにはそれにより精霊に頼まねばならなかったりします。この辺の設定もチョイスも渋い反面、やはり現代のゲーム的とも言えます。

 ―――

ところで、「元々高いリアリティが売りのヴァーチャルゲーム」「プレイ中にそのゲームそっくりの世界に転移」「それでもヴァーチャルでは再現されていなかった部分からこれは現実だと判断する描写」などの点では本作と近さを感じたのは(これもなろう系作品ですが)『賢者の弟子を名乗る賢者』でしょうか。
まあ、こちらはアバターを美少女に作り替えたところでその美少女の姿で異世界に来てしまい……というTS物で、話の雰囲気と方向性はまるで異なるのですが、ゲームのアバターという媒介を経て別様な肉体を手に入れてしまう、という流れにも共通するものがありますし。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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