オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
ライトノベルとホラー・アクション映画の結節点で――『絶深海のソラリス II』
1巻発売からちょうど1年と間が空いており、その間に『このライトノベルがすごい!』6位ランクインなどいろいろありましたが、『絶深海のソラリス』の2巻です。
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(前巻の記事)
まず、本作について語ろうと思えばどうしても1巻についてのネタバレを含まざるを得ないので、そこはご承知を。
本作はモンスターパニックホラー、と言える内容でした。
ただ、これがハリウッド映画ならば1巻の前半部はずっと短縮されるか、少なくともその形を変えていたことでしょう。
そしてその場合、これはB級ホラーとしてもさほど褒められた出来とは言えません。
しかし、本作1巻はまず前半でライトノベルらしいラブコメを描き、後半で一転、ヒロインの美少女たちを次々と殺すという展開を見せました。
ライトノベルのフォーマットに映画的なホラーを取り込み、しかもそれが単なる「ズレによる新しさ」等というレベルを超えて、お互いを引き立てる構成を生み出した作品だったと言っていいでしょう。
しかも、それが全て無駄だったと明らかになり、「生存」によりいっそう絶望を強めるオチも効いていました。
して、この2巻は1巻から作中時間で2年後の物語になります。
編集部公式ブログに1巻と2巻の間の時期を描いたWeb短編『絶深海のソラリス1.5』が掲載されているので、そちらを先に読んでおくのも良いでしょう。
【特別SS】絶深海のソラリス1.5【第1話】
【特別SS】絶深海のソラリス1.5【第2話】
【特別SS】絶深海のソラリス1.5【第3話】
【特別SS】絶深海のソラリス1.5【第4話】
【特別SS】絶深海のソラリス1.5【第5話】
前巻において主人公たちが海底の研究施設で人知れず遭遇した怪物「アンダー」たちはあれから1年後に上陸し、ただでさえ住むべき陸地の多くを失っていた人類はその脅威に晒されていました。
今回の物語は、前巻で死んだヒロインの一人クロエ・ナイトレイの姉、シャロン・ナイトレイ視点で始まります。
やはり「水使い」であり、オリエント連邦海軍特殊部隊の少尉を務めていた彼女ですが、妹が死んでからは生きる気力を無くしていました。
しかしそんな彼女の前に、「マザーグース」という組織のエージェントを名乗る連中が現れます。そのチームを指揮するコマキという女性の曰く、彼女たちはクロエの死の真相を知っている、さらにアンダーは生物兵器であり、コマキたちはアンダーを投入した巨大な陰謀と戦っていて、シャロンをスカウトに来た――とのこと。
これでアンダーは「間違って作られ、逃げ出した怪物」ではなく「国家レベルの陰謀により生み出され投入されている兵器」だったことが明らかに。
物語はスパイアクション的な方向に転がっていきます。
シャロンを加えたコマキ率いるチームは、いよいよ主人公の山城ミナトに接触します。
ミナトとアイシュワリンは、教官でありながら教え子を全滅させて自分たちだけ生き延びたということで免職されただけでなく、世間からさんざん攻撃を受けていました。シャロンもミナトのことを恨んでいました。
けれどミナト自身は、教え子やアイシュワリンに軽口を叩いていた当時の様子は見る陰もなく荒んで、ただアンダーと戦い仇を取るために牙を磨いていました。
陰謀により、生徒たちの死が怪物によるものであること自体が隠蔽されていたせいもありますが、こうした世間の残酷さを描いている辺りも見所の一つですね。
ともあれ、シャロンとミナトと加えた「マザーグース」のチームは、新たなアンダーを生み出す母体である「ファースト」を殺すため、海底にある敵の研究施設に向かうのですが……
前巻のような悲劇再びなのか、それとも……とハラハラさせ、そして1巻との対比でも魅せる展開は大した出来です。
ただ、今回のオチはかなりの部分予想できてしまったのも事実ですが……(それでも読み終わった時にひとしおの感慨はありましたけれど)
今回は主人公が荒んでいるので、前半は当然ながら、ラブコメと言えるほど平和な要素はないのですが、しかしだからこそ彼の軽口が復活するのは感慨深くもあり……ダウナー系のヒロイン・シャロンも可愛いですし、単にライトノベルに異他的な要素を接ぎ木しただけでなく、「ライトノベルならでは」の部分もしっかり活きている作品です。
ただ、相変わらず「海中」という要素はあまり活きていない印象ですが。
そもそも水中での活動は「水使い」全てに共通の能力で、それゆえ窒息や水圧による脅威は彼らには無縁ですし、他方で各人固有の能力はたいてい、あまり水に関係ありませんし、それを使った異能バトルは多くの場合、(海底の施設内であっても)空気と足場のある場所で行われています。
今回の新キャラの一人に、「水中でも陸上と同じように銃器の性能を発揮させられる」能力者(厳密に言えば銃器限定の能力ではありませんが、主な使い方はそれなので)がいて、これは確かに水中でこそ意味を持つものでした(それどころか、反動の関係で水中の方が自由に大型のものを扱えるとか)。水中で怪物を大口径ライフルで蹴散らすというのもなかなか面白い光景ではありました。しかし、いずれにせよクライマックスは空気のある施設内ですし……
今回は、敵アンダーの姿も水中生物モチーフでないものがほとんどなので、余計にそう感じるという面もあります。
海底の施設が舞台になっている理由の一つに、その隠蔽性(アンダーが人工的に生み出された生物兵器であること自体、世間には隠されているのですから)と密閉性があるのでしょうが、これらの要素は海底以外でも可能ですし、とりわけ後者に関しては「水使い」の設定を考えるとどうなのでしょう。「海底に閉じ込められたらお手上げだろうから」という台詞には、少なからず疑問を感じました。結局の問題は周囲を囲まれていることなら、それは地上でも成り立つわけで……
私の中ではこの一点が――致命的とは言わないものの――評価を下げた要因なので、返す返すも惜しい。
―――
1巻の時には海洋モンスターホラーということで『ソリトンの悪魔』の名を挙げましたが、今回、「施設内で人工的に生まれた怪物と戦うホラー」から「怪物と人類の戦争」に話が発展するのは、同じく梅原克文氏の『二重螺旋の悪魔』を思い出してしまいました。
『二重螺旋の悪魔』は非常に思い出深く大好きな作品です。
『二重螺旋の悪魔』は、敵の怪物の存在理由として生命誕生そのものに関わる稀有壮大な真相を披露してくれた設定の吹っ掛けぶりも素晴らしいSFでしたが、『絶深海のソラリス』は今のところ、国家規模の巨大さとは言え人間の陰謀との対決がメインになりそうです。
ただ、謎の鉱物ソラリスの正体に関わる展開の可能性もないではありません。
この2巻で見えた路線をそのまま行くのか、また展開があるのかは、割とカギになってきそうな気がします。
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