スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

被併合国の屈折した宿命――『戦うパン屋と機械じかけの看板娘』

今回取り上げるライトノベルはこちら、HJ文庫の新作です。

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 (HJ文庫)戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 (HJ文庫)
(2015/03/30)
SOW

商品詳細を見る

作者のSOW氏は『るろうに剣心』映画版のノベライズなどを手がけていた作家のようですが、私としては初めて読む作家です。

本作の舞台はヨーロッパ風の世界ですが、古代文明の遺産に基づき「猟兵機」という搭乗型ロボット兵器のようなものを開発したワイルティア公国を中心とする同盟軍が先の大戦を制して間もない時代です。
物語が展開されるのは、そんな世界で大戦でワイルティアに併合された新境ペルフェ地区の鉱山町オーガンベルツ。主人公のルート・ランガートは大戦後にワイルティア軍人を退役し、この町でパン屋を開店していました。
彼は仕事熱心で美味しいパンを作るのですが、強面の元軍人であるせいで人々が恐れて寄りつかず、店は経営危機に晒されていました。
そこでウェイトレス募集の広告を出したところ、やって来たのはスヴェンという美少女。熱心な彼女が町の男たちを虜にしたことで、たちまち店は繁盛を始めます。

まあ、ルートがスヴェンの正体を知るのは終盤ですが(よく見ると明言するシーンは最後までありません)、タイトルとプロローグから読者には明白です。
スヴェンは、かつてルートが乗っていた猟兵機「アーヴェイ」のAIが、人型のボディに生まれ変わったアンドロイドでした。

ただ、本作の物語は、ルートとスヴェンによるパン屋繁盛記……という面もあるのですが、むしろ併合された小国の何とも難しく緊張を孕んだ政治情勢が大きな見所になっています。

ワイルティアのモデルはドイツらしく、労働者革命が起きて後に軍事独裁政権に転じた隣国オーガスト連邦は明らかにソ蓮ですから、この世界はさしずめ第一次世界大戦でドイツが勝利した世界で、ペルフェはドイツとソ蓮に挟まれた東欧の国という感じでしょうか。
元々ペルフェは民族的・文化的にワイルティアと近く、生き延びるために自ら併合を望んだのですから、併合自体は合意の上です。
しかし、個々の市民の感情はそれだけで済むものではなく、様々な形でワイルティアに悪感情を持っている者もいます。
しかも、ワイルティア政府も新たな領土となった辺境の復興は後回しにして、貧困を生み出し、さらには裏切り同然の扱いをしたケースもありました。

さらに、ワイルティアへの憎しみや不満から反政府テロリストに荷担する者も……終盤の山場は当然と言うか、敵工作員との対決です。

ルート自身、軍人としてえげつない工作活動に参加してきた過去があり、それに負い目を感じればこそ退役してパン屋になったのでした。
様々なところで悪意を向けられながら、怒るのではなくただパンを食べて貰えないことを悲しむルート、対して「主さま」たるルートが貶されると激怒するスヴェン。
そんなやりとりにも悲痛さが伝わってきます。

マクロな政治情勢と、個々人の感情は別、「民族の誇りを守る」とはどういうことか……一概に答えの出せない難しい問題を、しっかり描いてくれている良作です。

 ワイルティアはペルフェ統治府の上層部にも多くのペルフェ人を採用した、自分たちで統治させることが、被支配者としての反抗を産ませないなによりの方法だと考えたからだ。
 民衆のゲリラ化を恐れての措置だったが、それが裏目に出た。
 ペルフェ人は「ワイルティアに尻尾を振れば、甘い汁が吸える」と思ってしまった。
 あからさまな賄賂が横行し、自分の妻や娘を差し出す者も現れた。
 (SOW『戦うパン屋と機械じかけの看板娘』、ホビージャパン、2015、pp. 157-158)



ちょっと気になるのは、世界観とその説明でしょうか。
自動車が走っていて飛行機も存在する世界観、それに上述のような政治情勢から、20世紀前半~半ば頃をイメージしていることは、読み進めば徐々に分かってきます。
ただ、冒頭がまず「猟兵器」というオーバーテクノロジーの説明から始まる一方、そうした(オーバーテクノロジーでない)基礎的な文明レベルの説明は後回しで、おまけに作中年代が「大陸暦920年」、さらにはかつて大陸全土を支配した超帝国エウロペア(猟兵器の元となったものを初め、現代よりも高度な文明を築いていたとのこと)が消滅してから1000年、といった設定から、最初はむしろ前近代的な世界観のファンタジーをイメージしてしまいました(ファンタジーで巨大ロボットというのは、割と多い事例なのです)。
そう思ったもう一つの要因として、パンは各家庭で焼いていて町にはルートの店以外にパン屋はなく、また行商人の売るパンは質が悪い、という設定もあります。ただこれは後から見れば、文明水準の問題ではなく文化・習慣や経済上の問題だったのかと思いますが……。

いずれにせよ、そうした世界観やその雰囲気をどれだけすんなりと伝えられるか、という問題です。
ただ、読んでいる内に分かってくるので、描写力に大きな問題があるというわけではありません。


キャラ的には、スヴェンは割と感情豊かでリアクションも激しく、通例の「ロボット少女」のイメージは希薄です。
ただ、ウェイトレスとして経営者として優秀で、「主さま」と慕うルートへの愛は深く、悪くないキャラです。
彼女しばしばガラの悪い振る舞いを見せるのも、軍隊仕込みという解説をあとがきで見て納得。ただ、彼女の正体は読者には最初から明らかという仕様を考えると、この辺も作中でもう少し分かりやすく伝えてる手はなかったか、とも思いますが。

総じて、細部の伝え方に関してはあれこれ言いましたが、十分にお勧めできる作品です。


るろうに剣心 (JUMP j BOOKS)るろうに剣心 (JUMP j BOOKS)
(2014/07/04)
和月 伸宏、SOW 他

商品詳細を見る

るろうに剣心 京都大火編 (JUMP j BOOKS)るろうに剣心 京都大火編 (JUMP j BOOKS)
(2014/08/04)
和月 伸宏、SOW 他

商品詳細を見る

るろうに剣心 伝説の最期編 (JUMP j BOOKS)るろうに剣心 伝説の最期編 (JUMP j BOOKS)
(2014/09/16)
和月 伸宏、SOW 他

商品詳細を見る

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

No title

他国の勝ち馬に乗って上手い汁吸ったくせに
ぐだぐだ戦勝国の軍人相手にいちゃもんつけてるの見ると
韓国人乙
とか客に言われそうな設定で馬鹿なことしてるなとは思う
がちの敗戦国なら同情も出来るがな

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

戦争の影で市井の人々に――『戦うパン屋と機械じかけの看板娘 2』

今回取り上げるライトノベルはこちら、『戦うパン屋と機械じかけの看板娘(オートマタンウェイトレス)』の2巻です。  (前巻の記事) 先の大戦でワイルティア共和国に併合された新境ペルフェ地区の鉱山街オーガンベルツでパン屋「トッカーブロート」を営む元ワイルティア兵士のルート・ランガードと、ウェイトレスとして彼の元で働く美少女スヴェン(その正体は人造人間にしてかつてルートの愛機であっ...
プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。