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そこに友たり得る他者はいるか?――『おともだちロボ チョコ』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。

おともだちロボ チョコ (電撃文庫)おともだちロボ チョコ (電撃文庫)
(2015/04/10)
入間人間

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本作は『電撃文庫MAGAZINE』に4度に渡って連載された作品です(雑誌掲載時の記事:  )。
ただし、いつものように雑誌連載分に描き下ろしを追加するかと思いきや、章単位での追加はなく、その代わり連載時には「第三話、後編 チョコ、友情を育む」と題していた回が「第四話 チョコ、喜ぶ」に改題、内容もクライマックス部分が大幅に書き換えられていました。
しかもよく見ると、巻末には『電撃文庫MAGAZINE』連載のことに触れず「本書は書き下ろしです」とあります。初出のはぐらかしそのものが何かの仕掛けか? と疑ってしまいました。
連載時には「第三話、後編」の最後に「つづく」とあったことと相俟って、何らかの予定変更があった可能性が高く、それが内容にも影響している節はありますが、まあその点に関しては後述します。

さて、本作は――連載時の扉絵と違って表紙絵ではそれと分かりませんが――巨大ロボット物です。
宇宙からやって来たらしき怪獣に人類が脅かされている世界が舞台で、怪獣に対抗するため、巨大な人型の搭乗型兵器が運用されています。
ちなみに主人公が最初に乗っていた汎用型の機体は頭部に2本のアンテナ、背中にタンクを搭載した外見から「カタツムリ」と呼ばれています(タンクを内蔵型にした機体は「ナメクジ」ですが、こちらはあまり言われません)。この身も蓋もカッコ良さもない名称が、現場で使われている俗称らしさを感じさせたりも。

主人公の永森友香(ながもり ともか)は人型兵器のパイロット養成学校に在籍している候補生の少女。
この学校ではこの度、変形・飛行機能を持つ新型機が配属される、しかもその新型機は負担が大きくて人間には操縦できないのでロボットがパイロットを務める、という話になっていました。
友香はその新型機パイロットを務める少女型ロボット、チョコと出会い、その初陣に参加させられ、そしてチョコの「お友達」に指名されます。

その後、友香はチョコと一緒に「お出かけ」したところで怪獣の出現に遭遇し、本来はチョコが操縦するはずの新型機「カァールディス」を駆って怪獣を倒した結果、カァールディスの専属パイロットに任命され、大作戦の主力を担うことになり……とロボット物の主人公らしい道を歩むのですが、それで怪獣を駆逐して人々を救うことができるかというと、結果はなかなかに過酷です。

そもそも、友香がチョコの「お友達」に指名された事情というのがかなりえげつないもので、チョコの制作者である緒方賢介(おがた けんすけ)博士はチョコの友達を選定するべく、「敵意を持つものを排除する」プログラムをチョコとカァールディスに搭載しており、成績順位争いに熱心な優秀者たちはチョコに手柄を取られて反感や敵意を抱いた結果、一人を除いて殺されました。
敵意を抱くどころでなかった友香だけが「選定」に「合格」した格好です。
チョコがなぜ「友達」を求めるのか(そもそも、それが何か分かってもいないのに!)、緒方博士が設定したのかチョコが自発的に求めたのか分かりませんが、緒方博士はそのために人を何人殺しても平気な外道です。

ただし、命懸けの戦いを「将来のキャリアのための点取り」と考えている生徒たちと、そんな価値観を歯牙にもかけず、それどころか怪獣討伐も人類の命運もどうでもよくて、ただチョコのことを最優先にしている緒方博士、命を手段のように見ているのは実はどちらも似たり寄ったりです。
どちらが狂っているのか、何を言うことができましょうか。

 演習での成績は、この学校内での序列を左右する絶対的なものだった。
 上位を目指して血眼となる人は珍しくない。なにしろ将来の進路がかかっているのだから。
 学校を卒業すれば、配属されるのは西か東か中央の吉、もしくは空の上。宙間戦闘の成績次第では宇宙ステーションへの配属もあり得る。後は海底シェルターが完成すれば、そこの防衛担当に回される可能性も出てくる。おちらにしても、その二つには選ばれた大事な人命とやらを守るために成績上位者が優先されることだろう。
 (入間人間『おともだちロボ チョコ』、KADOKAWA、2015、p. 45)


さらに、この世界はかなり絶望的です。
人類の一部はすでに火星への移住計画を進めており、友香の家族も今は火星行きの宇宙船の中です。
地球に居残った人類の役目は、怪獣が火星に向かわないよう引きつける囮に過ぎません。
ちなみに、怪獣ははっきりと人間を狙っており、(大きさに関わりなく)人型兵器も「人間」と誤認するから――というのが兵器が人型である理由です。
なかなか珍しいことに、搭乗型兵器が人型でなければならない理由をきちんと設定しているのですが、そうしたSF的なこだわりが話の軸かというと微妙なところです。ここでも兵器の第一目標は攻撃を避けることではなく、受ける囮となることである、という点に注目しておけば十分でしょう。

 十年、生き残れるとは思っていない。五年か、いやこの調子なら三年か。
 あと三年もあれば、火星の大地に住宅ぐらいは建設されるだろうか。
 その様子を、火星の静けさ漂う砂の上に想像しながら喧噪に意識を委ねる。
 少なくともそれぐらいは生き残って、役目を果たしたい。
 私は囮でいいと思う。楽園の人柱で構わないと思っている。
 その楽園に、家族の笑顔が花と咲くのなら。
 (同書、p. 39)


もっとも、友香は単に健気にも地球に残った、というわけではありません。
家族の中で彼女だけが移民ロケット搭乗の選抜試験に落ちた、という事情があります。彼女はそんな境遇を恨まず、そして地球で生きるなら、比較的安全な海上都市に生きるよりも戦う力を持つことを欲しています。

 いざとなったとき、戦う力が手元にない方が、戦うことよりも恐ろしい。
 山百合はそういう人間なんだろう。認めたくないが、私と同じ考えだった。
 (同書、p. 156)


ここからも分かる通り、地の文も台詞も口調は淡々としていて、実際「消極的な性格に思われがち」(同書、p. 165)という友香ですが、内面はなかなかに闘争的で、喧嘩を積極的に買うような面も持っています。

他方でチョコは、無表情で機械的で杓子定規なのは確かにロボット少女らしいのですが、そこに感情が芽生えるとかいった定番の展開はなく、そもそもいきなり候補生たちを殺すくらいですから本当にいわゆる「人間味」はありません

「トモカの友達の定義は理解可能な範疇にあります。しかしトモカ、私に心はありません」
「ん、あぁ、うん……そうなの」
 受け答えができるから、そんな印象がない。本当に、無愛想な人間みたいで。
 そもそも、『心がない』と自覚していることが、既に心の在り方ではないのかとすら思う。
 (同書、p. 237)


そもそも緒方博士も、チョコに人間らしくなってほしいとは思わないと明言しています。

そんな友香とチョコの関係は、何とも形容しがたいものです。
チョコは心があるかどうかからしてボーダーラインのようで、友香としてもすぐさまチョコと「友達」になどはなれません。
それどころか、無表情なチョコの顔に感情を見て取る時、それが自分の投影である可能性が高いことも、友香はある程度まで自覚しています。
ただ、もはや家族と会うことはなく、学校内でもあまり友達のいない(描かれる同級生は彼女を敵視してつっかかってくるような連中ばかりです)孤独な友香が、さらに過酷な展開もあってチョコより他に寄り添う相手もなく、その存在に情を刺激される様は、名状しがたくも心に響くものがあります。

目の前の相手に「他者」を求めることができるのか、それほど定かでない、しかし寄る辺なき身にとって――
チョコの無機質な挙動が荒廃した世界と呼応して映えます。

ここにあるのは究極的には、(本文中のそこかしこで問うている通り)「生きる意味」の問いです。戦って、勝って、自分一人生き残る「強さ」があればいいのか、生きるとは他者と共にあることと不可離ではないのか、しかしこの相手は他者たり得るのか――

それが友情なのか、百合なのかは判断にお任せしますが、この点に関して、学校生活の風景に女子校的な雰囲気が強いのも指摘しておいて良かろうと思います。
友香の同級生である程度個性と存在感があるのはもっぱら女子学生で、男子学生はその取り巻きとか見るからにモブのような扱いです。そもそも、緒方博士以外の男性キャラの存在感はきわめて乏しいものです。
他方で、陰湿ないじめなどこそありませんが、友香を敵視し、何度も突っかかってくる同級生の言動は、どことなく嫌らしさも含めた女子コミュニティの空気を感じさせます。
中でも何度もしぶとく搭乗する優等生の山百合が、「お蝶夫人みたいな髪型」(同書、p. 59)だったと表現されているのも、女子の世界を示唆するような。


ただ、本作の締めは消化不良です。
怪獣を駆逐して人類を救うからは程遠い、過酷なオチはそれで良いとして(帯に「少女と“機械”少女のささやかな交流が、世界を救う」とあるのは信じていませんでした)、途中で思わせぶりに匂わせながら回収されていないことが多いのです。
いや、いくつかは明言こそされなくともほとんど答えは示唆されているようなところもあるのですが、緒方博士が着目した友香の成績の目立った点などは本当に不明です(「地上では意味がない」という記述と回想シーンから見て、空戦シミュレーターの成績かも知れませんが、いずれにせよ特にストーリーには関わってきませんでした)。
それでも、「次巻に続く」であってこの1冊中では未回収の事柄があるというのなら、まあそれでも良かったのですが(それでもこの単行本内で回収しないことをやけに思わせぶりに書くにはあまり作者らしくありませんけれど)、どこにもその辺の記述はなく、また大きな目標を追いかけるような話でもないので、大筋においてストーリーがこれで切れているのか続いているのかも判然としません。
加えて連載時には「つづく」となっていた話が締めの話に書き換えられているのを思うと、なおさらモヤモヤします。


イラストはloundraw氏。
相変わらず作品に合わせて雰囲気を変えられる器用な人で、カラーイラスト(雑誌連載時の扉絵に)は非常によく合っていますが、モノクロイラストは淡くて儚い印象が強すぎる感もあります。『ふわふわさんがふる』の時は、これでよく合っていたんですけどね。
それと、緒方博士が意外に穏和そうに見えます。

チョコと緒方博士
 (同書、p. 53)

ついでに、追記でもう少しネタバレに関わることを書いておきます。

思わせぶりながら未消化の伏線と言えそうなのは、やはり友香周辺に多く、上述の成績のことに加え、山百合がやたらと彼女を敵視している理由も不明でした。
友香の父親が火星移民船の船長であり、山百合が火星に「逃げる」ことをよく思っていないことに関わっていそうですが、山百合自身は火星に行く選択肢もある中で自ら地球に残ることを選んだ身であって、どうもそれだけでは弱く、もうちょっと複雑な事情があるはずなような。

他方で、カァールディスの動力源が怪獣のコアと同じであることは明言されており、とすればチョコの動力に関しても同じであることは示唆されたも同然でしょう。
もう一つ繰り返し触れられていることとして、この世界では「火星が青い」ことがあります。
しかしこれも、「怪獣のコアの青い光」を強調していることを考えれば、答えは示されたも同然なのかも知れません。

こういうことに明言を求めたかどうかは難しい問題ですが、それはともかく、このことはさらなる恐ろしい推測を導きます。
怪獣から逃げ出したはずの移民船の向かう先は、実は怪獣の根城かも知れないという――

友香は家族のために地球で一人人柱になることを選んだはずが、実は家族の行く先にも絶望しか残されていないとしたら――そう思うと最後で彼女の置かれた状況は、いっそう凄惨なものに思えてきます。

 ―――

ちなみに、以前にも指摘しましたが、

・正体不明の敵と戦うに当たって、負担が大きく人間には扱えない新型機を操縦するための、いわばアンドロイドの美少女パイロット。
・にもかかわらず、人間の身でその新型機に乗り込むことになる主人公
・その美少女は敵と同じ素材から作られているという設定(まあこれは定番ですが)

という本作は設定は見事に夏海公司氏の『ガーリー・エアフォース』と被っています(『ガーリー・エアフォース』のアニマたちはパイロットと言うより「機体と一体」であることを強調しており、「戦闘機の擬人化」という枠で読まれているせいか、そもそも読者層が被っていないせいか、あまり誰も何も言っているのを見ませんが)。
しかも、本作の連載開始は『ガーリー・エアフォース』1巻の刊行より前で、単行本化はだいぶ後というこの絶妙な同時性。

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
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