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オリジナルの神に蹂躙される街――『僕らはみんな逝きている』

気が付けば写真の日付が3月31日なので2週間も前のことである上、あまり近付けなかったので写りもよくないのですが……

カモ

用水路にカモがいました。
ちょっとこの水路を進んで川に行けばカモはよくいるのですが、用水路にまで入り込んでいるのはあまり見ませんでした。
逆立ちして採餌の動作もしていましたが、コンクリートで固められた水路にカモの餌はないと思われます。

 ~~~

さて、今回取り上げるライトノベルはこちらです。

僕らはみんな逝きている (角川スニーカー文庫)僕らはみんな逝きている (角川スニーカー文庫)
(2015/03/31)
黒清 餡凪

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プロフィールによると作者はゲームシナリオライターで、本作が小説デビュー作の模様。

本作は武蔵野市を舞台にしたパニックホラー系群像劇です。
世間に対する呪いを残して死んだある人物の怨念により、クリスマス前夜の武蔵野市に、鼻が2本で目が4つある象頭の神が現れ、幸せな人々を爆死させて回ります。
惨状に陥った街で、呪いの仕掛けに興味を持っていた高校生たち、生き残った比較的まともな人、暴走して暴徒になる人物……等々の絡む群像劇が展開されます。

「神様を作る」ことに関する心理学的・人類学的考察――そこに校門の前に生首を置いた事件(かの「酒鬼薔薇聖斗」事件)をも結び付けてきます――、それに象神が出現した街の惨状描写、ささやかな幸せを摑んで生きていた人があっさり死ぬホラーらしい「落とし」の演出などはなかなかに好みではあります。

「あると思った場所にない。変だなあ、とあきらめかけたとき、散々探したはずの場所から不意に出てくるのです」
 そういいながら水鶏は、灰時の手をどかし、その下のノートの表紙をゆっくりめくった。そこには、灰時のシャープペンシルが転がっていた。
「手品だ!」
「その通り。これは手品ですが、手品を知らない人や探したと思っていたのは気のせい、と思ってる人はどう考えるでしょうか?」
「……何か、不思議な力が働いた」
「それが神様です。なんだ神様のせいだったのか、と考えることによって、人は不思議なことに、無理矢理説明をつけて納得するのです。その人の中では、そのシャーペンを隠すオリジナルの神様は存在していて、その神様がいる、意味もある。妖怪なんかも同じですね」
 水鶏は『妖怪の理 妖怪の檻』と書かれた本の表紙を指でなぞりながら言った。
「無宗教の人でさえ、親しい人物が事故にあったと聞いたときや、自分の運命がくじ等に委ねられたときは、知らず知らず、神に祈りを捧げます。その瞬間、その人の中には、神様がいるのです」
「じゃあ、オリジナルの神様を祀るのに意味はあるとして」
 灰時はノートにメモを書きつけながら言う。
「それでも、それはその人の中だけですよね? 周りの人には影響を及ぼさない。だから例えば、ええと、子供が、自分だけの神様を作って、積み木か何かで神殿を作って、祀っていたところで、家族がそれを信じるわけではない、みたいな」
「子供が積み木、のレベルであればそうでしょうね」
 水鶏は腕を組んで、椅子の背もたれに思い切り体重を預けて言った。
 ――この子、思っていたより、お嬢様お嬢様していないのかもしれない。灰時は綺麗なプロポーションに思わず見とれながらそんなことを考えた。
「もし社会的に影響力があったり経済力や求心力のある大人が、それをしたら――話は変わってきます」
「――新興宗教か」
 (黒清餡凪『僕らはみんな逝きている』、KADOKAWA、2015、pp. 53-55)


ここでの『妖怪の理 妖怪の檻』に留まらず、実在するのタイトルを引用するのも悪くありません。
もちろん、本作においては「神様」の存在はこうした心理学的な話に留まらず、それが実効性を以て顕現し活動するところがミソなのですが、オリジナルの神様を立てた呪詛が力を発揮する展開への引き込みとしては良い味を出しているでしょう。

ただ――
終盤、主人公たちが異能を得た挙げ句に敵をあっさり倒してしまう展開には唖然としました。
その後の黒幕の正体だのどんでん返しだのもあまり魅力的なものには見えません。

これは物語の収束のさせ方として常識的な道具立てしか思い付かなかったのか、それとも(あとがきを見ると)当初の構想では全く方向性が異なっていた名残りなのか……

人物に関しても、群像劇で色々な人間模様を描こうとしている割には、いずれも薄味で魅力に乏しいものです。
とりわけ、この呪いを生み出した張本人や、(パニックホラーでは定番の)パニック状況に乗じて暴走する人物などに関してはあまりにも必要な描写に乏しく、狂気を描く手腕は欠けていると思わざるを得ません。

そもそも、本作の本文は「リア充爆発しろ」という定例のネットスラングから始まっており、それを大真面目かつ文字通りに実現してしまうのが本作の基本コンセプトでしょう。
それはいいのですが、そもそも対象が「幸せな人全般」になっている時点でスラングの「リア充」からはすでにズレている感がなきにしもあらず。まあこれは些細なことかも知れませんが、しかし「馬鹿を真面目にやる」時こそ些細な点へのこだわりが大事だったりもします。


ところで、「怪物(しかも神あるいはそのような存在)が出現して惨状に陥る街」というB級テイスト溢れる話をハードボイルドな群像劇で描いている、ということで思い出したのは漫画『ザ・ワールド・イズ・マイン』でした。
(「神様」が象頭という動物の姿で、しかもイラストがそれを大変写実的に描いている影響もあるかも知れませんが)

実際、本作が新井英樹氏くらい描写力のある漫画として描かれていれば、「何だか分からないけれど面白い」ものになっていたかも知れません(ただしやはり終盤の異能バトルで敵をあっさり倒すのは無しで)。
今のクオリティでは、エンターテインメントとして少々厳しいと感じます。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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