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命を費やした絆――『百獣殺のナインデッド』

今回取り上げるライトノベルはこちら、一昨年末に一迅社文庫の新人賞から『引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている』で大賞を受賞してデビューした棺悠介氏の新作です。

百獣殺のナインデッド (一迅社文庫)百獣殺のナインデッド (一迅社文庫)
(2015/04/18)
棺 悠介

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 (前作『引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている』の記事

本作の舞台は現代日本ですが、江戸時代末期に「終わりの獣」と呼ばれる怪物との大規模な戦争があった世界で、それゆえに全国民が帯刀を続けています。
と言っても、後述のようにそんな日本の中でもさらに特異な学園が舞台となっており、学園の外のことはあまり描かれないので、日本全体に関する設定はさほど問題ではないとも言えますが、とにかく、異能や怪物の存在が一般にも認知されている世界です。

中でも、私立七星学園生徒たちが互いに刀で戦い、力で全てを勝ち取る特異な学園です。
この学園内には特殊な結界が作用しており、死んでも生き返ります。ただし、10回死ねば退学というシステムです。

主人公の久慈宮薙人(くじみや なぎと)は、七星学園内で失踪した姉を捜すため入学してきましたが、過去の事情から刀が抜けず、逃げ回って戦いを避ける日々を過ごしていました。それゆえに死んだこともないという、この学園においては不名誉な事態です。
そんな彼の前にある日、2年生の学年トップ10「十勇星」の一人である少女・黒ヶ瀬七緒(くろがせ ななお)が現れます。彼女は薙人を高く買っており、彼と一緒にこの学園そのものに戦いを挑みたい、と言うのですが……

さて本作、ドラマもバトルも結構な密度です。
薙人が刀を抜けなくなった理由は序盤にすぐ明かされ、中盤にはその問題を解決してくれる彼の専用武器が登場しますが、それがまた予想外の異変を引き起こし、そして後半には薙人と七緒の出会いが描かれ、と後半まで引っ張るのかと思ったことをどんどん明かしつつ、さらに描くことがまだまだありますし、バトルの面でも前半から後半まで山場が何度もあります。
詰め込みすぎるのは作者の短所にもなる部分ですが、それでも一つ一つをちゃんと盛り上げ、メリハリも付けてちゃんと読ませるものに仕立てているのは流石の手腕と言うべきでしょう。

ちなみにタイトルの「ナインデッド」過去に9回死んでいるということで、つまり後1回死ねば退学。「死んでも生き返れる」世界にあって、死ぬわけにはいかないという緊張感をもたらす縛りになります。
七緒がナインデッドであることは序盤に(というか口絵で)明かされますが、このタイトルの真の意味が分かるのは後半。その辺もよく出来ています。

ただ、主人公とメインヒロインの互いに救い救われる一筋縄ではいかない関係とそれゆえの強い絆が物語の軸になっており、中盤から登場する二番手の辻堂小蒔(つじどう こまき)のストーリー上の存在意義がやや弱く見える印象も前作と共通するものがあります。
本作は異能バトル物であり、ストーリーや人間ドラマへの関わりはさておいてもバトルでの活躍がある分、その印象がいくぶん緩和されている面もありますが……(ただ、よく見るとバトルでも小蒔の活躍はそれほど多くありません)

1巻で主人公とヒロインの基本問題を解決していた前作と大きく異なるのは、姉捜しという主人公の目標はこの1冊では全く片付いていないことでしょう(最後に重要な示唆はありましたが)。
その分かえって、毎巻「次回への引き」となる要素(次でスポットの当たるキャラ)をかなりのウェイトで随所に組み込んでいたような前作よりも、長編として流れをブレさせずにサブキャラのことも描ける可能性があるようにも思われますが……どうなるでしょうか(そんなことを言っても、そもそも一迅社文庫で2巻以降が出るかどうか分かりませんが)。

キャラの魅力、とりわけヒロインの濃さに関しては作者の持ち味がしっかり出ています。
七緒は恥じらいや嫉妬を見せないさっぱりした性格のヒロインで、先輩(薙人は1年生なのに対して2年生)で最初は主人公を導きに現れることもあり頼れる印象ですが、実はかなり常識知らずのズレたところがあり、そして薙人への愛着と依存が並大抵でないことも、またその理由となる生い立ちも徐々に分かってきます。
小蒔はそれと対照的に、薙人の親戚にして幼馴染み、薙人にとっては妹のような存在ながら、彼のことを強烈に慕ってアピールを繰り返し、七緒をライバル視して罵声を浴びせるキャラで、その点で釣り合いはよく取れています。

しかし何と言っても、駄菓子屋店主の仙波絢子(せんなみ あやこ)の存在感が圧倒的です。主人公とヒロインにとってしばしば導き手となる年上の女性キャラという点でも、またそのふざけた言動や挙動の点でも前作の犬養先生そっくりなのですが、コメディ中心だった前作だと犬養先生は――時にメタネタまで担当し――「何でそんなに凄いんだ」ということ自体がギャグになるキャラだったのに対し、本作の設定だと仙波は「今は前線から離れているがかつては達人だったのだろう」と自然に想像できてしまうので、上手く嵌っているというべきかも知れません。彼女の背景が描かれる予定があるのかどうか知りませんが。

構成については前作との比較で今後の可能性の話まで色々としましたが、現段階で大きな難は感じられず、確かな技量を感じる作品です。

若干気にかかる点は、むしろバトル関係の設定説明でしょうか。
「終わりの獣」の体の一部を使用したという刀「百獣殺」の設定で、「刀の名前を呼ぶと形状変化して独自の性能を発揮する」という設定が『BLEACH』の斬魄刀に見えるとかいうのは、別にこの際いいでしょう。「刀が様々な形状の武器に変化する」という点で『BLEACH』を連想したと言えば『侍戦隊シンケンジャー』もそうでしたが、本作の場合は「刀の名前を呼ぶ」という点まで共通しているのがなおさら……というのはあるものの、それは構いません。
ただ、そもそも「百獣殺」が具体的にどんな性能を備えているのか十分な説明がないまま、キャラが技名の付いた固有スキルを発動したりするのには、戸惑いを感じました。そのためにはまず前提として、「百獣殺は単に強力な刀だというだけでなく、それによって固有のスキルを使えるようになる」という説明が必要なのではありますまいか。
この辺は、異能バトル物は初めてゆえの慣れの問題でしょうか。

それから、妙に丁寧な風景描写と懐かしの駄菓子・玩具ネタです。

 猫の子一匹いない通りをとぼとぼと歩く薙人の足元を、生温かい風に運ばれたスポーツ紙がかさかさと吹き抜けていく。
 ここ「骨宿銀座」はその名のとおり骨宿にある商店街である。名前は大層だが実際はまともに営業している店などほとんどない、いわゆるシャッター商店街だ。薙人が歩くメインストリートも石畳が所々欠け、隙間からドクダミが顔を出している。
 まばらに設置された街灯には羽蟻とカナブンがガツガツと体当たりを繰り返し、切れかけて明滅する電球は寒々しい街の廃墟を煽るのに一役買っている。
 (棺悠介『百獣殺のナインデッド』、一迅社、2015、pp. 16-17)


どちらかというとドラマで見かける、いささかカリカチュア化されたイメージに依拠していますが、それにしても昭和の匂いのする寂れた街の様子をよく伝えていること。
懐かしの駄菓子・玩具ネタは前作から作者の得意分野の一つで、「大鍋のねるねるねるね」はほぼそのまま同じネタを前も見ました。まあ一つ一つのネタは楽しいですし、今回はそれが常識知らずなヒロインの性格描写と上手く絡んでいますから、やった甲斐がないわけではありませんが……
こういうところを見ていると、異能バトルが作者に向いているのかどうか、かえって考えてしまいます。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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