オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
競争と調和――『暗殺教室 14』
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(前巻の記事)
今巻の前半はまず、前巻の最後で突入した学園祭編です。
E組後者のある山で採れた天然素材を活かして飲食店を開催するE組。
客として、今までの様々なゲストキャラも再登場します。

(松井優征『暗殺教室 14』、集英社、2015、p. 9)
修学旅行編で出会ったこの不良たちとか、はたまた南の島で出会って女装した渚に惚れた少年・ユウジ君↓とか、再登場して新たな動きや活躍があるとは思わなかったので、割と驚きました。

(同書、p. 26)
今まで関わった人たち……ということで、作者らしい小ネタで、特別共演した他作品キャラ(合作漫画の斉木楠雄や7巻おまけカードのゴルゴ)の姿も。

(同書、p. 50)
この学園祭は収益でA組との勝負だったので、当然生徒たちの熱も入りますが、真のポイントは勝敗よりも大事なことにありました。

(同書、p. 52)
様々な「自分以外のもの」との「縁」――自分一人の力で正面からぶつかるのではない戦い方を一つの主題とする『暗殺教室』におけるキーの一つです。
今巻の後半は、2学期期末テストでA組との最後の対決が山場になるように、本作においても決して勝ち負けを競うことが奨励されないわけではありません。そもそも「暗殺」も、暗殺者と標的との一つの勝負には違いないのです。
しかし、「勝とうとする」ことは、周りを全て敵と見なして蹴落とそうとすることとイコールではありません。
そもそも「他人を蹴落とそうとする」ことと「自分が向上しようとする」ことは違うのです。
競争意識は必要だけれど、とにかく競わせれば良いというものではない――このことは、「自分は落ちこぼれず、落ちこぼれを見下す側になろうと必死にならせる」椚ヶ丘の教育システムと、落ちこぼれクラスをケアする殺せんせーの教育との対比において描かれている、本作の根幹をなすテーマの一つです。
さて、椚ヶ丘の教育システムの設計者である浅野理事長は、E組に対し満足のいく勝利を収められない息子の学秀を見切り、自ら教鞭を執って期末テストでのE組との対決に乗り出します。

(同書、p. 66)
しかし、E組との度重なる対決を通して考えに変化のあった学秀は、そんな父親のやり方に反発し、父親を「殺すこと」をE組に依頼します。

(同書、p. 88)
もちろん学秀はE組の暗殺のことは知りませんし、文字通りに殺すことを依頼しているわけでもありません。
ただ、父の率いるA組を破り、そのやり方を否定して欲しいと。
比喩的な意味では「殺す」というのはありふれたこと――これもまた、本作の描いてきたことです。
そのための期末テストの問題は、並外れた難問になります。

(同書、p. 99)
もっとも、現実的なことを言わせていただくならば、――名前さえ書けば誰でも入れるような大学は別にして、「下手な大学」というのは中堅大学のことだと理解するとしても――「下手な大学なら入れる」中学生など、さほど珍しいものではありません。
何しろ、少なくとも現国では、大学入試と中学入試で同じ文章が問題として使われたりしているのですから。もちろん設問の仕方に差はありますし、英語のように大学入試にあって中学入試には全く存在しない分野もありますが、難関中学に合格するレベルの子供なら、小学生時点で大学受験用の勉強をしさえすればそこそこの大学に合格できるでしょう。
しかも中高一貫の進学校では、中学段階で高校の内容をかなり先取りしてやりますから、「下手な大学なら入れるレベル」のテストというのはそう驚くものでもないのです。
――が、本作はさすがによくできていて、ちゃんと「中学生の知識で解けるけど、大学入試レベルの問題」を出してきます(Z会に作成を依頼したとか)。

(同書、p. 129)
そしてこの問題の解法(における学秀とカルマの対比)を、上述の「縁」――他者を認め受け入れることに結び付け、学園祭編からこのテーマをスムーズに繋げて見せる流れは、見事の一言です。
テスト問題をモンスターの姿で描く演出も相変わらず。

(同書、p. 110)
最後に、業を煮やした理事長が殺せんせーと直接対決となるのですが、――

(同書、p. 184)
しかしこの一連の対決で、彼も底を見せた感があり……
二度も敗北すれば自分を保てなくなるだろうとは、彼自身が言っていたことですが、まさにその通りの、敗北による破綻を見せる時が来たのか……
ラスボスの風格がある人物だっただけに、ここでどうなるのか――理事長の過去が描かれそうな引きもあって、この後も楽しみです。
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