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時と人間関係の移ろう中で――『安達としまむら 4』

今回取り上げるライトノベルはこちら、入間人間氏の百合小説『安達としまむら』の4巻です。

安達としまむら (4) (電撃文庫)



 (前巻の記事

前巻の最後で2年生に進級した安達としまむら。
安達の願い叶って、同じクラスにもなることができましたが、それでもクラスが変わると友人関係も確実に変化します。
新しい友人候補と出会うしまむら、そして思うようにしまむらに近付けず悩む安達……二人の視点を交互に描いて、温度差を示す構成の巧みさは相変わらず(今回、元は入間氏の公式Webサイトに掲載された第三者視点のパートが冒頭に入ってはいますが)。

そんな中、安達は妙な易者から後押しを受けたこともあって、休日しまむらの家にお泊まりを決意するのですが……

今までにもまして印象的なのは、しまむらのことで頭がいっぱいで挙動不審、暴走気味な安達の姿……もありますが、他方での、内心他人に対し距離を取りながら淡々と流されていくしまむらの心理描写です。

 面倒くさがらなければ意外と楽しさはそこら中にある。
 ようは本人の気の持ちようだということを、ボールを弾ませて思い出した。
 授業が終わってからも、サンチョたちの流れに巻き込まれて一緒に教室へ向かう。
 なにかが違うと感じながらも、わたしの足は周りに合わせて動く。
 唇は周囲の反応を窺って曲がり、頬は半分ほど聞いていない話によって盛り上がる。
 自分が最適化されていくのを冷たく感じた。
 体育館を出て、背中側から雨を含んだ風が吹く。
 強くもない風なのに、側を通るとその温度差に吹かれて身体が動く。
 春だなあと、そうつぶやくしかなかった。
 (入間人間『安達としまむら 4』、KADOKAWA、2015、p. 53)


 その、『なにを言っているのか分からない』ところに感銘を受ける。
 わたしは良くない癖というか、多分誰でも持っているであろう感覚……いやそう考えること自体がそこにはまっちゃっているのか。つまり、自分の考えがみんなの考え、みたいに捉えてしまうことが結構あって、それが恐らく周りの人に強く関心を持てない理由の一つかなと思う。
 だって自分と似ている相手なんて、知ってどうするのだ。
 だけどそれは大抵の場合に間違いで、こうして同じ時間を過ごした樽見はまったく別の感想を持って今ここにいる。それに気付かせてくれるのはやはり、他人しかいないのだ。
 (同書、p. 79)


けれども、どちらかというと他人との強い関わりを求めないで成り行き任せに友人付き合いをしているしまむらにも、選択と決断の時は来ます。
一世一代の決心と入れ込んでいる安達とはその重さが随分と違いますけれど、そう言って良ければ「いずれの付き合いを選ぶのか」という選択の時が――

そんなわけで、今回とりわけ鮮烈な印象を残すのは「時の移ろい」に関する記述です。
疎遠になった旧友、そして新たな友人……そうした移り変わりを感じさせる顔ぶれは、友人関係というものはちょっとしたきっかけで出来もするし、疎遠にもなるのだということを強く印象付けます。
そんな中でこの関係は特別であり揺るぎないのだと――安達はそうあることを願っているでしょうが、しまむらにとっての実態がそうとは言いきれないのです。
それが青春の一幕の味わいであり、そしてだからこそ、(実は危ういところで)関係を存続させる巡り合わせと選択の意義が光るのです。

そうしたテーマを締め括るラストはまことに美しい名文です。


前巻で登場したしまむらの旧友・樽見も、「久し振りに再会した旧友とのぎくしゃくした関係」を通してそうした人間関係の移ろいを感じさせる存在です。
彼女は(あれで終わりかと思いきや意外なことに)今回も引き続き登場しますが、今のところ安達を嫉妬させたり正面から衝突したりという役割は担っていません。
今回は安達と樽見の出会いもありますが、お互いにしまむらという共通の友人がいることは知らないままです。
もちろん、今後はさらなる動きがあるかも知れませんが、「正面衝突での修羅場」といったストレートな展開はあえて外しているような感もあります。安達と樽見を(旧友と現在の友という)お互いに時間軸上でズレた存在としてニアミスさせているところが、青春の儚さと美しさを感じさせる本作の妙味ではないでしょうか。

安達としまむら、二人の関係がおよそコミュニケーションの「コンテンツ」を持たないのも今までと変わりなし。

 最近もなにも、安達とはあまり電話で話さない。そう、話すことがあまりないのだ。
 お互いに無趣味だから、会話が弾まなくて当然である。共通の趣味、もしくは同じ部活に属して活動しているとか、そういう会話のとっかかりがないと盛り上がりようがなかった。
 そんな相手と、よく半年も交流が続いているものだ。
 (同書、p. 150)


コンテンツなしコミュニケーションで盛り上がれる相手こそ友達なのだ、というのは『ぼっちーズ』でも描かれていたことですが、しかしこれは意図してやることではありません。そこでわざわざ「どうでもいい話」をしようとしたりする辺りが「ぼっち」たちのズレているところでもあったのですが、まあそれはまた別の話。
安達としまむらは、ごく自然に「無内容なコミュニケーション」で盛り上がれるほどお互いに適合した関係ではない、それも関係の危うさと貴重さを感じさせるポイントでしょう。


例によって、章間には日野と永藤のパートと、しまむらの妹とヤシロのパートが交互に入ります。
日野永藤パートは今までずっと、日野が永藤家に入り浸っているところばかりだったのですが、今回ついに日野家が描かれました。

日野に関しては、仕草の「一つ一つが丁寧に感じられ」「親のしつけが厳しいのかもしれない」(2巻、p. 131)という記述があり、また高級なお茶を買い込んでいたこと(同じ2巻)、家では着物姿でいることがあるらしいこと(3巻)、さらには兄がいるらしいがそれについては語りたくなさそうな様子(同じ3巻)などから、割と名家のお嬢様で、面倒なのを嫌って庶民の永藤家(肉屋)に入り浸っていることは何となく予想できましたが、概ね想像通りでした。

「描かれていること」と「描かれていないこと」のいわば間に、「示唆されていること」があるのだと思います。そして「示唆されていたこと」を具体的に描いてそこに違和感がない時、「キャラクターの掘り下げ」というものもすんなり嵌るのでしょう(というのも、まったく「描かれていないこと」を描けばそれは何とでもできる「後付け」であり、「描かれていること」を描けばそれは「分かりきったことの繰り返し」ですから)。
本作においては、登場人物の生まれ育ちまで含めた人物像について、そうした「示唆」がよく効いています。

クラス換えの影響か本編では出番の減った日野と永藤ですが、本当に揺らがず仲の良さを見せてくれます。永藤のズレた言動も変わらず笑わせてくれますし。

ヤシロに関しては……やはり『虹色エイリアン』で触れられていた不定形の種族が彼女たちであることが裏付けられた格好でしょうか。
「ドーホー」こと『電波女と青春男』の星宮社が人にたかって居候するだけだったのと違って、こちらのヤシロはハイスペックですが(オバQとドラえもんくらいの差があります)……しまむらの妹が欲を掻いて悪用するような子でなくて良かった、というべきでしょうか。


それから、前巻の最後でしまむらの、そして今回で安達、日野、永藤のフルネームも明らかになりました。
作者の作品だと名前が明かされないのはよくあることですが、4巻にもなって……というのは珍しいパターンかも知れません。
日野と永藤に関してもこれもイメージ通り。しまむらの名前だけ厳めしすぎる印象は変わりませんが……

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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