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この戦争と時代はどこへ行く――『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ 4』

今回取り上げる漫画はこちら、15世紀ボヘミアのフス戦争を描いた歴史漫画『乙女戦争』の4巻です。

乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ(4) (アクションコミックス(月刊アクション))



 (前巻の記事

本作は単行本の区切りをある程度考えたストーリー構成になっているようで、今回はまた新展開、敵側の要衝ヴィシェフラト城の攻城戦となります。

乙女戦争4巻1
 (大西巷一『乙女戦争 4』、双葉社、2015、pp. 24-25)

この難攻不落の城に挑む辺りジシュカが頼るのが、工学者コンラート・キーザーの孫娘リーゼロッテ

乙女戦争4巻4
 (同書、p. 32)

乙女戦争4巻5
 (同書、p. 35)

彼女が持ち出した戦いのカギを握る新発明は(他にも色々ありましたが)、表紙をも飾っている潜水服です。
水中の坑道を通って潜入する少年兵部隊に、シャールカも志願します。

乙女戦争4巻2

乙女戦争4巻3
 (同書、pp. 56-57)

しかし、シャールカたちは潜入したところで城内の塔に立てこもるという二重籠城の形になってしまい……

生活面に関しても時代考証を踏まえた入念な描写が魅力の本作、食料の尽きた籠城戦の悲惨さもみっちり描きます。

乙女戦争4巻7
 (同書、p. 124)

乙女戦争4巻8
 (同書、p. 131)

神聖ローマ皇帝ジギスムントの軍師で、2巻がシャールカが敵に捕らわれた時に交流もあった少年ヨハン・フニャディが前巻の最後でヴィシェフラト城に逃げ込んでおり、再会もありました。

乙女戦争4巻6
 (同書、p. 79)

こうした今までに築いてきた人物関係も活かしつつ、丸1冊使って攻城戦をみっちり描いた今巻、相変わらずの読み応えでした。
シャールカの、戦いの悲惨さに涙して敵をも助けようとする一方で、他方では自ら戦いに赴こうとする二面性と、そんな彼女が非力ながらで要所で事態を動かす展開の巧みな配置も相変わらず。
そして彼女に惚れた少年たちは順当に死亡フラグを立てるのですよね……フラグを立てておいて死に方があっけないのが、かえって生々しくて印象的だったり。
シャールカはそうやって無数の死を背負いながら生き続けて、戦争の語り部となりそうな雰囲気があります。

戦争はまだまだ続きますが……前巻で撃たれで一時生死の境を彷徨ったジシュカの身に変調が生じており、この一戦がどうなろうと先行きにはかなり暗い影がさしているのも、怖いながらに目を離せないポイントでしょう。

例によって巻末に解説があり、どこまでが史実でどの辺が脚色なのか説明されているのが親切なところですが、キーザーは実在の人物、潜水服も当時の資料に記述は存在するとのこと。
ただリーゼロッテは本作の創作であり、また今回の攻城戦の詳細も大部分はフィクションです(勝敗のような大筋に関しては史実に沿っていますが)。

かなり大胆にフィクションを交えながらも、本作は一つの一貫した歴史観を示しており、それゆえに歴史物として価値ある作品になっています。
その歴史観とは、フス戦争に――近代の始まりと言ってもいい――時代の転換点を見るということです。
その象徴はまず「笛」(鉄砲の原型)であり、それとジシュカの戦術によって女子供が参戦してきたという事実でした。
今回は4巻目にして「笛」の出番はかなり少なくなりましたが(脇役が扱っているシーンが少しあるくらい)、別の新兵器が登場します。「笛」と違ってこれらの兵器が実用されたというのはフィクションで、時代と地域の近さから大胆に結び付けてきたもののようですが、そうした天才や新発明の出現の背景に時代の流れを見るという一つの「軸」の上での結び付けであるがゆえに、作品に一貫した読み応えを与えているのです。

 ~~~

なお、今回は同作者の短編集『涙の乙女』が同時発売されました。

涙の乙女 大西巷一短編集 (アクションコミックス)



下記が読書メーターに私の書いたレビューです。

ナポレオン時代のフランスにおける男装の殺人鬼マネット・ボヌール、英仏百年戦争の時代にフランス王室への復讐ため戦った雌獅子ジャンヌ、そして征服者ピサロの女となったインカ皇帝の妹イネスと、歴史上の悲劇の女性を主題にした3編、そして領主に牙を剝いた囚人の王を描くデビュー作「豚王」を収録。フィクションであるデビュー作の方が人間関係や演出に凝ったものを感じる面も。ただ、歴史的知識に基づいた作品作りと歪んだ情念に動かされる女性達の描き方は一貫していて、良い味を出しているところでもある。


最初の3編は2010年以降の作品なのに対して、「豚王」は1997年の作品ですから、だいぶ絵柄が違います。
社会の底辺にある者達が「王」を称したという逸話を踏まえているものの、内容は100%フィクションです。

豚王
 (大西巷一『涙の乙女 大西巷一短編集』、双葉社、2015、p. 132)

ただ、城郭の中での一つの塔への籠城といったモチーフは、奇しくも今回の『乙女戦争』4巻と重なるものがあったりしますが……

実在の人物を主人公にした3編に関しては、(もちろんその人物像や心理は自由な創作の対象になりますが)いずれも最後は歴史の視点からその人物の生涯を概括するような締めになっています。
その分、架空の人物が主役の方が出せる味というものはあるように思われました。

『乙女戦争』は歴史上の実在する事件をモチーフにしながら、シャールカという独自の味を持った架空の人物を主人公にしており(※)、それが比較的自由に人物を動かしつつ特定の「歴史」に触れる作品を描けている一因でしょう。
作者の円熟を感じさせる作品で、今後も非常に楽しみです。

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愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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