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面白いから面も被るのだ――『百器徒然袋 面霊気 薔薇十字探偵の疑惑』

今回はこちらの漫画――京極夏彦『百器徒然袋』シリーズのコミカライズ最新巻にして完結編を取り上げさせていただきます。


 (シリーズ前作の記事
 (連載時の記事

――とその前に、今更の感はありますが、この機にまず原作『百器徒然袋』シリーズについて整理しておきましょうか。
『百器徒然袋』は「百鬼夜行シリーズ」(京極夏彦氏のデビュー作『姑獲鳥の夏』から始まるシリーズ)のスピンオフで、探偵・榎木津礼二郎が活躍するシリーズです。
原作小説は『雨』と『風』の全2巻で、それぞれ3つのエピソードからなっており、漫画版は、計6つのエピソードをそれぞれ全1巻で描く形になります。
(なお、文中では語り手の名前が最後まで明かされない仕様になっており、『雨』の最後で姓が、『風』の最後で名前が明らかになったのが、これで完結と推測する強い理由の一つです)

内容的には、意味の多層構造による謎の形成と、京極堂の言葉による謎の解体をメインとする本編に対して、こちらは榎木津が「悪い奴をやっつける」のがメイン。
犯人は最初から分かっていてどう「やっつける」かが軸のこともありますし、事件そのものには謎めいた要素があることもありますが、その場合でも中盤にさっさと答えは語られていたりします(語り手は鈍いので、丁寧に説明して貰わないと気付きませんが)。
しかも榎木津の言う「悪い奴」の判断はあくまで彼の主観が全て。
しかしだからこそ、法に訴えても情に訴えても裁くことの難しい事件も、彼が中心になると全てが単純明快になります。

「やっつける」ために色々と相手を嵌めたりするための仕掛けをするのが毎回の見せ場で、ここには京極堂も一枚噛んでくるのですが(こちらでは京極堂もくだらない仕掛けに付き合ったりと、本編に比べ随分と腰が軽めです)、しかし具体的な仕掛けを練り指示を下すのが京極堂であっても本シリーズの中心があくまで榎木津にあるのは、彼がそうして価値判断そのものを仕切っているからです。
そのお陰もあって、事件そのものは最初の「鳴釜」が強姦で、その後は殺人事件が絡んでくることも多く、決して軽いものではありませんが、全体のノリは総じて軽く楽しく、締めも比較的心温まるものが多めです。

また、モチーフとなる妖怪は鳥山石燕『百器徒然袋』からの引用ですが、石燕の中でも『百器徒然袋』に登場するのは全て器物の妖怪で、しかも詞書の最後に「~と夢のうちにおもひぬ」とあって、石燕の創作であることを示しています。
石燕のそうした作品はもっぱら寓意や言葉遊びを描いていると思われますが、京極氏の本シリーズもまたそれを反映したように、当該の道具に言葉遊び(釜とオカマ、瓶と亀など)を自在に絡めたモチーフ設定になっています。当然、妖怪蘊蓄は控え目。

それから、少し余談ながら、作中の時系列は下記のようになります。

『姑獲鳥の夏』 昭和27年夏
『魍魎の匣』  昭和27年秋
『狂骨の夢』  昭和27年11~12月
『鉄鼠の檻』  昭和28年2月
『絡新婦の理』 昭和28年春
『塗仏の宴』  昭和28年6月頃
「鳴釜」     昭和28年夏
『陰摩羅鬼の瑕』 昭和28年夏
「瓶長」     昭和28年夏
「山颪」     昭和28年秋
「五徳猫」    昭和28年秋
『邪魅の雫』   昭和28年秋
「雲外鏡」    昭和28年晩秋
『鵺の碑』    昭和28年11月(未刊)
「面霊気」    昭和28年年末

『百器徒然袋』の第1作である「鳴釜」は、『塗仏』の後日譚に関する言及があり、またこの「鳴釜」と『姑獲鳥』の両方に京極堂の妻の千鶴子が祇園祭で京都の実家に帰っているという発言があるので、『姑獲鳥』から1年経っていることが分かります。
この時点では刊行順と一致していた(「鳴釜」の初出は『塗仏』の後)のですが、その後、作中時期において本編を追い越して年末まで来てしまいました。「瓶長」では榎木津が一次目が見えなくなったと『陰摩羅鬼』での件に言及があり、「雲外鏡」から益田が『邪魅』で手に入れた乗馬用の鞭を振り回すようになることから関係が分かります。
未だ刊行されていない『鵺の碑』(『百鬼夜行 陽』に前振りあり)を含めても、「面霊気」は作中時期的には一番後になります。


さて、今回の『面霊気』では(連載時にある程度触れましたが)、

・本島の隣家に住む友人・近藤の宅に空き巣が入る。無くなったものを調べていたところ、見覚えのない面を発見。この「禍」と書かれた面を骨董屋の今川に見せたところ、日本の面の系譜を覆すような大発見かも知れないとの発言。
・探偵助手・益田が(嵌められて)盗難の嫌疑をかけられる
・探偵・榎木津は「オニ苛め」(節分とは別)をやろうと言い出す

といった出来事が重なります。
まあ三つ目は明らかに独立として、上の二つはどうやら連動して、彼らに窃盗容疑をかけて榎木津を陥れる罠のようで……それとの対決にオニ苛めはどう絡むのか、乞うご期待。

というわけで、今まで以上に謎の要素は少なめ、黒幕である羽田隆三との対決がメインになります。
羽田製鐵は「五徳猫」の時から絡んでいて、羽田は手先を潰されたことで榎木津を恨んでいるわけですから、原作では『百器徒然袋』収録の3編が一応「羽田との対決」とい題材で貫かれていることになります。
それでも、謎の面の正体を巡って「最後に明かされる真相」という要素は一応ありますが。

モチーフは当然、

もちろん、道具としての面もありますが、社会生活において取り繕う外面といった比喩的な意味も絡みます。
いつでも堂々としている榎木津からすれば、変装して調査を行っていた益田など「面なんかかぶってコソコソして恥ずかしくないのか」ということになりますが……
彼に言わせれば、小説の中の探偵が変装するのは「面白いからやってる」と。

面霊気1
 (京極夏彦/志水アキ『百器徒然袋 面霊気 薔薇十字探偵の疑惑』、KADOKAWA、2015、p. 77)

ある意味でこれは、仕掛けのために登場人物が様々な扮装や演技をするこのシリーズそのものについての言及でもあります(もちろん、別人に成りすまして知人を欺けるような変装はありませんが)。
そして今回も本島は仮装をさせられます。そう――あの名場面が。

面霊気2
 (同書、p. 144)

こんな泥棒、現実にいるか。

人はある意味で面を被って生きている――そんな凡人の姿と、天衣無縫に思える榎木津は徹底して対比され遠いからこそ、榎木津の不器用さが垣間見えるラストは暖かく印象的でもあります。

漫画としては、『雲外鏡』から掲載誌が移動して、1エピソードが単行本1冊の頁数はそのままに全4話から6話構成になりました。
『雲外鏡』では6話構成で解決編をラスト1話に詰め込んだので最後は窮屈な感もありましたが、今回はラスト2話が解決編で、ちょうど良かったのではないでしょうか。

漫画なので今までも何度か描かれてはいましたが、息子以外の前に初めて姿を見せる榎木津の父親・幹麿(みきまろ)元子爵も登場。

面霊気3
 (同書、p. 179)

概ね期待に違わぬコミカライズでした。シリーズを最後まで見届けることができて幸いです。
『今昔続百鬼』のコミカライズ情報は今のところ見当たりませんが……期待はしています。






 ―――

なお『百器徒然袋』シリーズはドラマCD化もされています。










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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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