オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
「先生」の伝えたかったこと――『暗殺教室 15』
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それはともかく、今回は、一つの佳境を迎えつつある漫画『暗殺教室』の最新15巻を取り上げさせていただきます。
ただし手短に。その理由は内容によるものです。
(前巻の記事)
前巻ではA組と最後の対決となる2学期の期末試験に勝利したE組。
これは、A組の担任として自らE組との対決に乗り出した理事長への勝利をも意味しており、結果として、A組の生徒たちでさえ理事長に異議を唱えることになりました。
業を煮やした理事長は、ついに自分のやり方で殺せんせーを殺すべく勝負に出たのですが……それはむしろ彼の底を見せる結果となってしまいました。
そしてついに明かされる理事長の過去……というところで引きでした。
その前に、すでに前振りはありました。


「そもそも人に何かを教えたいと欲する時 大きく分ければ理由は2つしかありません
自分の成功を伝えたい時と 自分の失敗を伝えたい時」
(松井優征『暗殺教室 14』、集英社、2015、pp. 101-102)
そして、今までにも何度となく描かれていた、殺せんせーと浅野理事長が対照的な教育方針を持っているようでいて多くの点で通底し、同じく熱心な教育者として同じ問題に向き合っていることは、「何かを教えたいと欲する」理由に関しても、両者が同方向であることを示唆していました。
今巻は理事長の過去から始まるわけですが――

(『暗殺教室 15』、集英社、2015、p. 11)
あれほどえげつない存在であった理事長に関してすら、締めは爽やかでした。


(同書、pp. 37-38)
それから物語は、よりにもよって年末に行われる演劇発表会で、まさかの殺せんせー主役実現。
シリアスなストーリーの比重が高かったこの巻にあって思い切り笑わせてくれたエピソードでした。

(同書、p. 58)
そんなエピソードを挟んで物語は急展開、一人のクラスメイトが思いがけない正体を見せます。


(同書、pp. 69-70)
この点に関してのネタバレはやめましょう。読んでいただくのが早い。
ただ、言われなければまず気付かないレベルのディテールながら、実は序盤から伏線もあったという。
そして、彼女の過去が殺せんせーに関係していたことから、ついに殺せんせーの過去が語られる、というところで今巻の引きです。
暗殺に成功した後で知る機会はいくらでもある、と言って頑なに過去のことを語ろうとはしなかった殺せんせー。
しかし、彼と過去の因縁があるクラスメイトの登場により、皆が納得するためにも全てを語らざるを得なくなります。
そういう意味で必要なステップとしてこのエピソードを挟みつつ、同じく「悔いた」過去があって教育者をやっている浅野理事長と対比する、全てにおいて計画的で見事な運びです。
まあ先生の過去については、まず第1話のこの回想がありました。

(『暗殺教室 1』、集英社、2012、p. 52)
それから、殺せんせーの前任者、前年度の3学期までE組の担任でその後姿を消したという「雪村先生」に関する前振りを考え合わせれば、この回想で殺せんせーにE組の生徒たちを託した女性こそ「雪村先生」であることは当然予想できる範囲内でした。
その意味で全ての布石は過不足なく嵌り、なおかつ新鮮な衝撃を与えてくれる――そんな、よく構成された長編の見所が詰まった展開です。
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