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村の発展、公と私――『シャルパンティエの雑貨屋さん 3』

今回取り上げる小説はこちら、『シャルパンティエの雑貨屋さん』の3巻ですが……語ることはそれほど多くないかも知れません。



 (前巻の記事

本作はRPG的ファンタジーの世界にあって、辺境を開拓して村を作るというフロンティアスピリット溢れる物語です。
少しずつ村の人口が増え発展しつつある現状、今巻の新たな誘致ポイントはまずは「教会」です。
主人公のジネットたちが信仰心篤いかというとそうでもないのですが、やはり精神生活の中心とされるものだけに必要です。

「現状、領民の数倍もの冒険者が常駐するシャルパンティエだ、冒険者中心の領地経営になってしまっている。……まあ、間違いえはないし、彼らにそっぽを向かれては、領地が立ち往かなくなってしまう」
「うん」
「だが教会は人々の心の拠り所で、領地の発展という観点から俯瞰すると領民を蔑ろにしているようにも見えるな。……『孤月』の受け売りだが」
 (大橋和代『シャルパンティエの雑貨屋さん 3』、フロンティアワークス、2015、p. 18)


が、その結果はというと諸事情あって、孤児院付きの教会が移転してくることになりました。40人からの子供たちと一緒に。
一気に村の人口が増え、しかも若い世代が増えて活力のある村になったのは間違いありません。

しかし、その孤児たちの一人、ゲルトルーデという少女がユリウスによく懐いている上、親が悪徳商人に嵌められて蒸発し、この度教会も土地を強引に買い取られるような形になった結果としてひどく商人を嫌っており、ジネットをも「悪徳商人」として敵視して「どちらがユリウスと結婚するか」を賭けて勝負を挑んできます。
子供相手とは分かっていても、勝負となれば適当に済ませる気はない辺り、ジネットも焼きもち焼きと言いますか何と言いますか……

 幼なじみってほど長いつき合いじゃないけれど、多少はユリウスの性格や行動も読めるようになってきたし、好き……うん、自分を誤魔化してもしょうがない、好きな気持ちに嘘はない。
 いますぐは無理でも、結婚するならユリウスがいいなあって気持ちは、間違いなくあった。
 そのうち……なし崩しかもしれないけれど、嫁に来いって言ってくれるって、思ってた。
 ううん、甘えてただけかな。
 ユリウスは、顔も恐いし声も低いし、大きな体で迫力も凄い。
 恋敵なんて現れないと高を括ってたのは、わたしだ。
 その競争相手が五歳の女の子だったのは、幸運だったのかそうでないのか。
 もしもゲートルーデが十代半ばの少女か、わたしと同年代の女性だったりしたら、拗れたときに誰にとっても救いようがないことになっていたかもしれないし。
 (同書、p. 69)


ところどころに入るユリウス視点のパートを読めば、両想いなのは明らかなのに、何とも奥手な二人。
後半はユリウスがかつて冒険者だったときの仲間たち(美女の神官含む)も登場し、ジネットのやきもきする想いはさらに加速するのですが……その結末ははてさて。

そんなわけで、今回は恋愛要素が強め。
ユリウスのかつての仲間たちにはやはり貴族をやっている者もおり、最後にはかなりの大物たちがシャルパンティエに集合、何やら波乱の予感……というところで引きになってはいますが、今のところまだ大きな事件は起きていません。
前巻のように人命を救うため皆で困難なミッションに挑む……といった山場もなし。
猛獣に出会う……という程度の事件があっても、割とあっさり片付けてしまう始末。
むしろ、割合に平穏な日々を通して、人々の日常の営みと村の発展を着実に感じさせてくれます。

それに加えて、ジネットに使い魔(イタチ系の小動物)ができるというイベントもありました。
こちらもまだそれほどの活躍はありませんが、書き下ろしの外伝で色々と活動しているところが描かれたりして、これまた楽しいものがあります。イラストに描かれていないのが残念。

他方で、たとえ子供のしたことであっても領主との誓約を違えたら相応の処置を施したという形を取らねばならない等、社会制度上のこともきっちり描いています。

 領主に対する反抗や破約は、重い罪になるとされていた。本当に切り捨てられても、名分が立ってしまう。
 ただ、流石にそのままじゃ重すぎると世間でも認識されていて、大抵は何某かの理由がつけられて減刑される。
 例えば杖打ち刑と裁定されても、罰金を支払って免除や減刑がされるようなことが多い。けれど、捕縛の時や裁判中に抵抗しようものなら、本当に首斬り役人や杖打ち人が呼ばれることもあった。
 じゃあそれが理不尽かと言えば、全部が全部そうとは決めつけられない。
 領主の特権には、わたしが代理で使った領主裁判権の他にも、徴税の権利や軍権が含まれている。
 小さな領地が国だとすれば、即ち領主は王様で。
 叛乱を起こしたことと同じって、見なされちゃうわけで。
 もちろん、道理の通らない理由で領民を切り捨てたり鞭や杖で打ったりするような碌でもない領主は、それなりの罰……って言っていいのか微妙だけど、ちゃんと苦しい立場に追い込まれるようになっていた。
 (同書、p. 85)


些細なことに見えてもこれは公的な事柄なのです。
そしてジネットは、恋愛という私的な領域では非常に初々しいものがありますが、一人の商人として、またユリウスの筆頭家臣として、公的な場面ではきっちり仕事ができるところを見せます。


いささか余談ながら、このアリアンローズという女性向けレーベルの作品をいくつか読んできましたが、むしろ恋愛要素なんて脇に置いて斜め上に突き抜けるような奔放な活躍を見せてくれる女主人公が爽快な作品が印象に残りました。逆にあまり恋愛要素が強いものは苦手かな……と思っていたのですが、私は少女漫画も結構読んでいた時期がありますし、そういう問題でもない気がします。
実際、本作『シャルパンティエの雑貨屋さん』では、今回恋愛要素の比重が増しても楽しく読めました。
個人的に何が分水嶺なのかと言うと難しいところですが、本作の場合だと、ポップな地の文が大きいように思います。
口語調の文体の作品は多々ありますが、「~なんだ」「~よ」「~ね」といった口調を地の文で多用する作品は、それほど見たことがない気がします。
お陰で恋愛要素も軽く微笑ましい印象になっており、これが割と合っているように感じるのは事実です。
(まあ、少女漫画ではシリアスなものも随分と読んできましたけれど、文章だとまた随分と感触が違うのです)

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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