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使い捨てられた子供たちの未来のために――『彼女は遺伝子組み換え系』

今回取り上げるライトノベルはこちら、電撃文庫の新人デビュー作(拾い上げ作品)です。



さっそく内容を見ていきましょう。
本作の舞台は現代日本に近い世界ですが、遺伝子改造によって高い身体能力を超能力を得た人間――アレイスター・クロウリーの小説に倣って「ムーンチャイルド」と呼ばれています――たちがテロ兵器として実用化されたという忌まわしい歴史を抱えています。
世界テロ紛争は2年前に終結しましたが、各国で生み出されたムーンチャイルドたちは公式にはその存在すら認められないまま、利用されて切り捨てられた形となり、今でも数多くのテロ事件に関わり続けていました。
各国政府はムーンチャイルドの掃討戦を行い、ムーンチャイルドは対抗して戦うという、血で血を洗う状況です。

そんな中、新東京都にクラス高校2年生の少年・命川景(めいかわ けい)偶然出会ったムーンチャイルドの少女に家を(隠れ家として)占拠されてしまいます。
その結果、彼はムーンチャイルドたちの戦い、とりわけムーンチャイルドの人権獲得を目指して戦うテロ組織「武装人形楽団」のテロに巻き込まれることになっていきます。

というわけで、本作は非常にシリアスな異能バトル物です。

何となく、本作はタイトル先行で生まれたような印象がなくもありません。
このタイトルから人間の遺伝子組み換え → 普通それは人道的に認められないであろうから、非合法に生み出された悲劇の人間兵器たち……というように真面目に考察を進めた産物ではないか、と。
というのも、日本語の場合、人間に関しては「遺伝子改造」等の方がしっくり来るのであって、一般には「遺伝子組み換え系」という表現を用いることはあまりありませんから、いささかふざけた表現を真面目に考察した産物という気がするのです。
あとがきに以下のようにあるのも、それを裏付けるようにも思えます。

「彼女は遺伝子組み換え系」というタイトルから、学園ラブコメ的な内容を期待していた方もいらっしゃるかもしれませんが……、ごめんなさい、本作品はラブコメ成分を含有しておりません。
 (嵯峨伊緒『彼女は遺伝子組み換え系』、p. 354)


もちろん、この記述自体は特に制作事情を語るものではありませんが、作者自身がタイトルのミスマッチを感じているらしいことは分かります。

まあ、それはそれとして、本作の出来そのものは悪くありません。
多様かつ強力な超能力を持つムーンチャイルドたちによる異能バトルは見応え十分ですし、ムーンチャイルドという作られた存在の立場というSF的題材にきっちり挑んでいるのもいいところです。
テロに訴えても世間はますますムーンチャイルドを恐れ敵視するだけなのは明らか、しかし存在を認められてすらいない者たちが語り、訴えることができるのか……
「公然の秘密」で皆知っているのに頑としてムーンチャイルドの存在を(すなわち、自分たちがムーンチャイルドを作り出し利用していたことを)認めない政府という設定も、ある意味で現実的なものを感じさせたり。

作者は「ラブコメ成分」を否定していますし、まあ実際恋愛というほどの関係には至っていませんが、「屑」が口癖の毒舌ではあるものの根は優しいヒロインの「伊井さん」(型番が「E-003C1」であることからの仮名)はなかなか可愛く、景との掛け合いもそれなりに楽しめます。

細部の展開に粗さが見られるのは事実。とりわけラストなど、主人公の姿は途中まで公衆の前で目撃されているのに、何事もなかったように帰って来られる辺りとか……
主人公と敵ボスの正体などの主要な真相も、割と容易に予想が付きますしね。

ただ、基礎的な部分を魅力的に書ける能力はやはりポイントが高いもの。今後にも期待しておきましょう。続巻が出るといいのですが……

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テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

No title

彼女は遺伝子組み換え系、面白そうですね。
学園ラブコメではない、とあるそうですが、個人的にはシリアスな異能バトル好物です! 今読む予定のものが終わった時の候補になってよかったです。
それとリンクフリーとのことですが、ブログへリンク追加します。 という報告を一応させていただきました。

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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