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戦争の影で市井の人々に――『戦うパン屋と機械じかけの看板娘 2』

今回取り上げるライトノベルはこちら、『戦うパン屋と機械じかけの看板娘(オートマタンウェイトレス)』の2巻です。


 (前巻の記事

先の大戦でワイルティア共和国に併合された新境ペルフェ地区の鉱山街オーガンベルツでパン屋「トッカーブロート」を営む元ワイルティア兵士のルート・ランガードと、ウェイトレスとして彼の元で働く美少女スヴェン(その正体は人造人間にしてかつてルートの愛機であった搭乗型兵器「アーヴェイ」)――今回は彼らのもとに1枚の招待状が届きます。
戦時中には軍船として活躍した巨大飛空船「デフェアデッド号」でワイルティアとペルフェの親睦を記念した空中パーティーが開かれるので、そこにパン屋として参加してパンを焼いてほしいと。
トッカーブロートを宣伝するまたとないチャンスですが、軍隊時代のことを思い出すこともあり、当初は難色を示したルート。が、結局参加を決めます。

しかし、いざ参加してみて彼が目にするのは、ワイルティアのペルフェに対する差別感情、戦争の爪痕とそれによるペルフェ人の怨念といった厳しい現実。
「ワイルティアの食文化がペルフェ人の間で人気を博している」ことを示すための広告塔として呼ばれはしたものの、実際に「皆にパンを食べて喜んでもらう」どころではありませんでした。
そして、やはり事件が起こります。その背景にあるのは、やはりペルフェ人の宗主国ワイルティアに対する、あるいは大戦でワイルティアに敗れた某国の遺恨、さらには陰謀です。

というわけで、今回も一筋縄ではいかない様々な傷を抱えた「戦後」というものをきっちり描いていて、読み応え十分でした。
やはり「~ですわ」と丁寧口調で愛想と宣伝文句を振り撒くことも自在ながら、同時に軍隊仕込みの荒々しさを備えたスヴェンがいいキャラをしています。
他の女性キャラとの“女の戦い”でも

「別にですわー……ただ、ウチの主さまにちょっかいかけてねーでございましょうね」
 (SOW『戦うパン屋と機械じかけの看板娘 2』、ホビージャパン、2015、p. 18)


なんて独特の調子ですが、そんな日常の掛け合いだけでなく、前巻に引き続き、敵対してきた相手(それがパン屋での嫌がらせであれ本格的なテロ活動であれ)に対して「戦時のルールとはこういうもの、覚悟はできてるんだろうな」と脅しをかける場面があるのがポイント。彼女の強烈なキャラと相俟って、戦う者の構えとは何かをきっちり見せてくれるのです。

他方で、ルートは対照的に、外見こそ強面であるものの心優しく弱者に甘い性格。不器用ですし、愛想も苦手なら意図して脅すようなこともできません(意図せずして恐れられるのはいつものことですが)。
しかしそんな中で、――もう軍を辞めてパン屋になったとは言え――兵士という「人を殺すことを許された立場」だからこそいかなる一線を守るべきか、という矜恃を持っているのも見せます(ただ、今回「戦うパン屋」としてルートの活躍は少なめでしたが)。

そんな好対照な二人だから、実にいいコンビなのを感じさせます。

前巻の最後でルートはスヴェンの正体に気付いていましたが、どうもスヴェンは引き続き正体を隠し続けているようで、表向き大きな変化はなし。ただ、時にルートが彼女の正体を踏まえた発言をするもスヴェンが違和感を感じている間にさらっと流される――そんなやり取りもあって、何だか微笑ましさを感じます。

それから今回は、ルートの元上官にしてスヴェンの開発者の(軍隊機構上は)部下に当たる女軍人、ソフィア・フォン・ルンテンシュタットも物語に絡んできます(登場自体は前巻からありましたが)。
事件に巻き込まれて戦いにも加わると同時に、ヒロインとしても参戦するようで……こちらの動向も楽しみですね。

加えて、スヴェンの能力と可能性にも謎が多いですし、何より戦後の闇は深く政治的陰謀もまだまだありそうで……いずれの方面もまことに楽しみな作品です。


なお、キャラクターの面で一つ言い添えるならば、もう一つのポイントとして、ルートの友人にしてスヴェンの登場でトッカーブロートが繁盛するようになる以前からの(ほぼ唯一の)常連客であったジェコブの存在があります。
彼は金髪碧眼の12歳の少年ですが、レギュラーキャラ中最年少でありながら聡明で弁が立ち、店の経営のことなども的確に指摘しますし(ウェイトレスを雇うようアドバイスしたのも彼です)、ヒロインたちの争いも冷静に見ていたりとなかなか美味しいポジションです。
こういう役割は「どうせなら女の子がいい」とでも思われているのか、こういういい感じの少年キャラはライトノベルでは意外と少ない印象で、こういうところもポイントが高いのです。
ただ、1巻ではストーリーの結構重要なところに絡んでいた彼ですが、今回は舞台が他の街になったので話の大部分では留守番。さらなる活躍を期待したいところですね。


さて、この併合された国という題材に関しては、1巻の時のレビュー記事のコメントで言っていた方いましたが、当然のことながら韓国を連想する向きもあり得ます。
というか、私もそこを念頭に置いて記事を書きました(「作者の意図」などという究極的には知りようのないものは知ったことではありません)。
たとえば、戦時中日本に併合されてた韓国で行われた創氏改名は、むしろメリットがあるから韓国人が自ら望んだのであって押し付けではないとか、そういう話はあります。
しかし、大きな動向としてはそうであっても、一人一人の人に目を向けた場合、誰もがそれで片が付くわけではないこと、ここではそれが問題になっているのです。
併合によって国全体が利益を得て、その恩恵に与った人も少なからずいたとして、他方でそれを望まなかった人、辛い目を見た人もいる。それを「○○人は~」と一括りで語って済ませられるのか、ということです。

そんな問いも、本作の読み応えをなす要素の一つです。

さらには、宗主国側の尊大な態度のおぞましさも、今回は主人公側に向けられる悪意として、明瞭に突き付けられます。

 ワイルティア人とペルフェ人の確執には、様々な理由がある。
 ペルフェ人の、自国の誇り、民族的アイデンティティを奪われた怒り。
 そしてワイルティア人が潜在的に持つ、ペルフェ人への差別意識。
 自分たちは戦勝国であり、先進国である。
 劣ったペルフェを、「子分にしてやったのだ」という思想は、根強い。
 (同書、p. 126)


そもそも、被併合国の運命を余所の事柄だと思って済ませるのは単純に過ぎるでしょう。

 ワイルティアが行った無差別爆撃は、本来なら国際社会に非難されてしかるべきだった。
 しかし、ワイルティアは戦勝国である。
「一日も早い勝利のために必要な行動だった」「やむを得ない犠牲だった」そんな理屈を、敗戦国に押し付けて、飲み込ませることができる。
 (同書、p. 258)


言うまでもなく、日本の読者にとってはこれは、第二次世界大戦におけるアメリカの日本に対する空爆を連想させます。
ここでは一転、日本はワイルティアではなく敵国の方に重ねられることになります。
ここで問題になっているのは被併合国ペルフェとはまた別ですが、戦勝国の「下につく」ことによる屈折した立場は、決して他人事ではないのです。

そんな戦勝国ワイルティアの軍人だったルートは、非道に手を染めてきたことを悔いて、軍を辞めてパン屋になりました。
しかし、ただ過去を悔いるという後ろ向きな気持ちだけでやっていけるのかどうか――それも今回、問われることです。

本作は、決して軍と戦争を全否定するわけではありません。
ただ戦争は、一概に「良かった」か「悪かった」かと言い切れないほどの、様々な光と影を残すのです。

 戦争というのは不条理が支配する時代である。
 その中に投入される新技術の開発のため、時に平時ではありえない予算と時間と人員が割かれる。
 ドゥコンディショナーは、そんな時代でなければ、そもそも発案もされなかっただろう。
 争いは何も生まない――だが、戦争はそうでもない。
 ロマンチストたちには申し訳ないが、それもまた真実なのだ。
 (同書、p. 164)


だからルートは過去の自分をも否定するのではなく、過去を受け入れて、その上でパン屋をやるのです。
大局的な政治のレベルでへ取り逃されるような市井の人たちに、一人でも「美味しいパンを食べて笑顔になってもらう」ために――

そんな「戦争」に対する眼差しと取り扱いもまた、実にいい塩梅の作品です。

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愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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