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人間が絶対的強者たる世界は正当か?――『バリアクラッカー 神の盾の光と影』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。



本作は第21回電撃小説大賞「電撃文庫MAGAZINE賞」受賞作品です。
「電撃文庫MAGAZINE賞」の慣例として、『電撃文庫MAGAZINE』に全文掲載されています。
ただ本作は長編作品なので、同誌Vol. 42-44の3号に渡っての分割掲載となりました(雑誌連載開始時の記事はこちら)。

その内容とある程度のレビューは雑誌連載開始時にも触れましたが、改めて書いておくと、本作はまずファンタジー作品として始まります。文明レベルとしては、銃器が使われており(馬車の方が主とは言え)蒸気自動車が実用化されているので近代初頭くらいのイメージでしょうか。
ただ、この世界においては全ての人間が「アイギス」という、あらゆる傷病を防ぐ能力を授けられています。

他方で、この世界には「レプトイド」という、蜥蜴人間のような連中も存在しています。彼らは人間の姿に擬態することができ、また蜥蜴人間の姿になれば人間を遙かに上回る身体能力と、一部の個体は特殊能力までもを備えていますが、アイギスを持たず神に「呪われた」獣とされています。
この世界で権力を持つ聖盾教会はレプトイドを「異端者」と見なしており、本作の主人公ベルヘルミナ・バスカヴィル(通称ベル)はレプトイドを捕縛する異端審問官を務めている17歳の少女です。
ただ、彼女には、10年前に兄ナレシュがアイギスを失い、異端者と認定されて地底世界「タルタロス」へと追放されたという過去があります。ナレシュは決してレプトイドなどではなく、またある時期まではアイギスを持っていたにもかかわらず……
それゆえベルヘルミナは、出世してこのような教会のシステムを変えようという野望を抱いていました。

そんな彼女はある時、やはりアイギスを失い異端の嫌疑をかけられた少女ミューを救うため奮闘し、アイギスの謎を探求している内に、アイギスを無効化する能力を持つというレプトイド「バリアクラッカー」との戦うことになります――

この設定においては、アイギスを持つ人間は絶対的強者です。
レプトイドの身体能力がいくら人間を上回っていても、彼らは人間に傷一つ付けることはできません(拘束することはできますが)。
バトル物ならボス級の(犯則的な)能力を全人類が備えているというのは確かにユニークな設定ですが、これは冷静に見れば絶対的強者たる人間がレプトイドを迫害している世界でしかありません。
このような世界で展開される物語は、ベルヘルミナが救おうとしているような「間違って」異端認定される人間のことを度外視しても、そもそもこの現状をただ是認して「バリアクラッカーを倒してめでたしめでたし」とはなり得ないのは明らかでしょう。
むしろ「真相」は、レプトイドを迫害する人間の正当性を問い質す方向に向かって然るべきです。

本作の終盤で開かれる真相は、概ねそうした期待に沿うものです。
その分読みやすいところもあり、「予測不能のゴシック・ミステリー」という煽り文句ほどではないかも知れませんが、伏線とその回収が手堅いのは確かです。
(つい先日の『魔女殺しの英雄と裏切りの勇者』のレビューでも同じようなことを書いていた覚えがありますが、実際、最初から解体されるべきものとして善悪対立の図式を掲げ、期待通りに解体するという構造は両者の作品に共通するものです)

ただ、引っ掛かることもあります。
本作の世界においては「レプトイド」という種族の区分と「異端者」という信仰上の区分が同一視されています。人間に擬態したレプトイドの正体を見破る方法が――レプトイド自身が正体を現さない限り――アイギスの有無以外にないという事情も関係していますが、しかし以前は確かに「アイギスを持った人間」だった者がアイギスを失ったという、作中世界の歴史上何度か認定されているケースはどうなのか。人が信仰を失うことはあっても、それによって種族まで変異することは導かれますまい。
私が言いたいのは、このくらいのことは作中世界の人間と言えど気付いて問題にするのではないか、ということです。
ただその辺は追究されておらず――結局本作においても教会は「欺瞞に満ちた教えを押し付ける組織」として悪役を担うに留まっている感があります。つまるところ、信仰そのものの扱いは薄いものと。

 ―――

本作は10月には2巻が発売予定、また今月発売の『電撃文庫MAGAZINE』Vol. 45からはタルタロスに追放されたナレシュを描く「バリアクラッカー・アントールドファクト 奈落の王」を連載開始となっています。
予告によると2巻はこの雑誌連載とはまた別の新章となるようで、実際この1巻の最後ではすでにこの世界を揺るがす新たな動きの種を示してもいるので、今後どこまで掘り下げてくれるのか、楽しみにしておきましょう。



追記では少しだけ(一番の核心とは言わないものの)真相部分のネタバレに関わる話を。



実のところ、「前近代ヨーロッパ風ファンタジー」の世界が実はかつての文明の超科学によって作られた遠未来、という本作の設定も、過去に2~3回は見た覚えがあります。
当ブログ内で語ったことのある例として『吼える魔竜の捕喰作法』がありますが、やはり私が第一に思い出す先例は漫画『聖戦記エルナサーガ』ですね(この漫画の名前にも『吼える魔竜の捕喰作法』の時に触れた覚えが)。

ただ、作中世界にとっての有史以前=現実の我々にとっての未来として明確に西暦まで出すのは珍しい気がしますが。
それと、本作は『エルナサーガ』のような先行例に比べても疑似科学的説明が多めで、それだけ真相で「SFにシフトした」印象が強い面はあります。

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Author:T.Y.
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