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パートナーと共に摑む歓び――『たま高社交ダンス部へようこそ』

今回取り上げるライトノベルはこちら、角川スニーカー文庫の新作で、第20回スニーカー大賞「春の選考」の特別賞受賞作です。



作者の三萩せんや氏はほぼ同時に第2回ダ・ヴィンチ「本の物語」大賞でも『神さまのいる書店 まほろばの夏』で大賞を受賞、刊行しているようですが……時々いる同時受賞デビューでしょうか。

さて、本作はタイトル通りに社交ダンスを主題にした部活もの――まあフォーマットとしてはスポ根ものといってもいい内容です。
舞台となるさいたま高校(通称「たま高」)は部活動とその新入生勧誘がことのほか活発な学校。主人公はたま高の新入生・桧野雪也(ひの ゆきや)。何事も三日坊主な少年でしたが、食べ物に釣られて社交ダンスに入部させられてしまいます。
社交ダンス部は新興の部活で部員は全員一年生、雪也以外は女の子が3人で、ダンス歴は長く真剣に取り組んでいるものの過去のある件から男性に不信感を抱き、パートナーを組みたがらないでいる麻田璃子(あさだ りこ)、イギリスからの留学生で日本のアニメオタクのフィオナ・シングラー、そして部長を務めているものの弱気な性格の宮畑珠美(みやはた たまみ)という顔ぶれです。
三日坊主を脱却して、徐々に社交ダンスに惹かれていく雪也。

元々同校にはやはり社交ダンスを行う「競技ダンス」もあるのですが、それとは異なり競技会出場と勝利を目標にはしないという方針でやっていた社交ダンス部。
しかし状況が変わり、部の存続をかけて競技会に出場することになり、日本では男女パートナーを組まねばならないので初心者の雪也が特訓して競技会に挑むことになり、困難を乗り越え競技ダンス部のライバルと対決……と物語はスポ根の王道を行きます。

本作のポイントはやはり、「男女でパートナーを組む」という社交ダンスという競技の性格を通して、競技の魅力、困難の乗り越え方といったスポ根としての要所を、主人公とヒロインの関係に結び付けていることでしょう。
最初は険悪な態度を取っていた璃子と徐々に親交を深め、男性不信であった彼女も心を開いていって、良きパートナーとなっていく様は青春ものの王道の魅力に満ちています。

本作は例によって「勝利至上主義の部活との対決」という要素もあるのですが、結局競技会で「勝敗を競う」結果になるのなら、どこに差があるのか、という問題にも(あっさりしてはいましたが)ちゃんと答えていて、そこも好感が持てました。

ただ、何事も三日坊主だった主人公が社交ダンスには嵌る過程の描写はあっさりしていて、「なぜこれに限って嵌ったのか」の説得力が弱い感は否めません。そもそも、彼が三日坊主だったこと自体、自己申告だけで具体的な描写や言及はありませんし。

それからやや気にかかるのは主人公の「売り」の部分です。
主人公の雪也は「お尻の筋肉の付き方がいい」と褒められる場面が二度あるのですが、それがたとえば山場での困難の乗り切り方などに結び付いているかというと、そうではないのです。
もちろん、社交ダンスはあくまで審査員の評価によって決まる競技ですし、「ここでこう動いたから勝てた」ということを明瞭に示せる性格のものではありません。
ましてや、「要所で主人公の長所たるスキルが活きる」という展開にはしにくいのだろう、とは思います。
そうした事情は分かるものの、途中で言われていた主人公の長所と山場の展開が繋がらないのは、構成としてはややマイナスです。

それから気になるのは、主人公の友人キャラである須藤春樹(すどう はるき)女装にハマる設定。
それ自体は良しとして、本筋との関連性云々も置いておくとして、彼が平然と教室にまで女子の制服で登校してくるようになるのは、さすがに気になります。
ストーリー上は、彼が「女の子だと思われている」ことに幾許かの意味はありましたが……
女装することと、それを教室という公空間に持ち込むこととでは大きな隔たりがあるのではないでしょうか。
「女装で登校」の壁を描いていた『放浪息子』という先例を読んでいるだけに、なおさらそう思います。

題材が社交ダンスだけに公共性の問題に気を遣って欲しかった…・・というのはいささかこじつけで、私の贅沢なのかも知れませんが。

 ―――

本作の内容からはやや逸れた話になりますが、人は割引原理により努力と才能をトレードオフであるかのように考えてしまいがちです。
しかし、その考え方が有効なのは、努力の才能のいずれかがあれば比較的容易に達成可能で、なおかついずれかがあった(もしくはなかった)ことが明らかな場合だけです。

世の中には「能力的にこれと言った売りのない主人公が、出くわした状況でどうするか」という物語もありますが、同じルールの上で勝敗を競うスポ根というジャンルに限って、それは考えにくいものです。
そして、皆ある程度までは「努力している」前提で、その上で主人公には「他人に真似のできない売り」が求められます。それこそ「才能」としか呼びようがないのではありますまいか。

そういう意味でスポ根は、少なくとも主人公の主人公たる所以に関しては、才能がモノを言うジャンルです。
そして、それは決して「努力の否定」ではありません。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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