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センス・オブ・ワンダーの村――『宇宙人の村へようこそ 四之村農業高校探偵部は見た!』

今回取り上げるライトノベルはこちら、今月の電撃文庫の新作です。



帯に「第21回電撃小説大賞編集部選考会で議論を呼んだ怪作が登場!」とあるので、同賞からの拾い上げデビュー作(受賞デビュー作は2~3月発売)と思われます。

本作の主人公は神室圭治(かむろ けいじ)。東京で高校生をやっていましたが、このたび急遽、母の実家がある岐阜県四之村に越してくることになりました。
しかし四之村は明治後期になってその存在を世に知られた隠れ里で、現在もインターネットにもその存在がほとんど載っていないような村。そしてその実態は住人が宇宙人の子孫だという噂もある、外界よりも遙かに進んだ科学を発達させた驚異の村でした。
祖母谷葉子(うばがい ようこ)(通称「ハコさん」)と名乗る女生徒によって「探偵部」に入部させられた彼は様々な怪事件に遭遇するのですが……

そんなわけで、本作は全5話構成で、各話で独立した事件を扱った短編集形式です。
しかも四之村は自治を徹底しており、農地で起こった事件は農協が、駅の事件は駅員が、そして学校内の事件は探偵部あるいは警察部が捜査するというルール。
ですから、描かれる事件は外界なら刑事事件もの、それも吸血鬼(?)による殺人、首切り殺人、食人etc...となかなかにグロテスクです。

ただ事件発生後の展開はと言うと……SF・オカルト的な真相を繰り出してくるわ、主人公もハコさんも推理を外すわで、前半はぶっ飛んだ真相でずこけさせる邪道・アンチミステリ的なテイストでした。

それが中盤以降は、そもそも推理と答え合わせという手順すら踏まなくなり、謎解きの雰囲気は減少。その代わり、時間操作、個体性の問題、バイオテクノロジーで生物が改造されているのが当たり前の世界での倫理の問題など、SF的センス・オブ・ワンダーに満ちたネタが次々と繰り広げられるようになります。
第三話など、タイムパラドックス的なオチは最初から容易に読めるのですが、「時間停止した世界」の描写――雲も太陽も動かず、山の中なのに生物の気配がなく、そしてその世界の物質にはほとんど干渉できない――には見事なものがありました。
「平等」のため全員の人格を等質化してしまう村というのも、何度となく見てきたネタですが、切なくも少しばかりの救いのある締めがいい味を出していました。
さらに食人(カニバリズム)を扱った話が二つのあるのですが、その内の一方は「人間に近い相手を人間ではなく食用の肉と見なしている」という設定だけに、いっそう興味深いものがあります。

 ハコさんが口を挟んだ。
「違うわ。彼女には知能があるもの」
「違わんよ。わしら、柄羅阿賀が育てている牛のなかには高等種もおる。こいつは自分でものを考え、自らよりよい肉質となるために、適度な運動、適切な食事、休息をとる。牧童を必要とせんで、育てる手間がかからん。こいつは賢いぞ。はっきりいって、外界の人間に並ぶくらいの賢さはある。だが、あくまでも食いものだ。知能は関係ない。だいたい、賢い生き物を食べてはいけなくて、賢くない生き物は食べていいなんて話はおかしいだろう」
 なるほど一理ある。ぼくは思った。たしかに知能の多寡で、食べる、食べないを決めることはできない。ぼくはちらりとウルシを見た。だがたとえなんと言われようと、彼女を食べる気にはなれない。どれほど美味しかろうが、ぼくにはできない。
 (『宇宙人の村へようこそ 四之村農業高校探偵部は見た!』、KADOKAWA/アスキー・メディアワークス、2015、p. 258)


「知能が高い動物だから殺してはいけない/食べてはいけない」というのは捕鯨反対論者のよく口にする理屈ですが、捕鯨云々に限らず、動物愛護の文脈でしばしば混乱を招いていることでもあります。
果たして「食べる、食べない」は「知能」のようなある程度まで客観的に測定できる能力の有無あるいは多寡によって決まるものなのか、どうか。

何しろ四之村においては、多くの住人が人間離れした能力を持っており、その系統は動物名で分類されています。ハコさんからして、牙といっていい大きな犬歯を持ち、背中に毛が生えているのです(毛深いヒロインというのも珍しい)。ましてや、バイオテクノロジーで改造された動植物は……
本作は、人間も多様な姿を取りうる一方、どんな動植物がどんな能力を備えていてもおかしくない世界を通して、「客観的に見て特定の能力(たとえば知能)を備えている」ことと「その動物を大切にし、ましてや食べない」こととが「だから」という理由を表す接続詞で結び付くかどうかは自明でないことを、見事に描いています。

一つ一つの事件の幕引きは苦味の残るものもあり、また物語としては一応のオチが付いていても事件が綺麗に解決したとは言い難いものもありますが、そういう部分も含めて、それぞれでもっと長い話も書けそうなSF的ネタを惜しみなくつぎ込んでくるのが、本作の魅力でしょう。
何しろ、四之村の住人が宇宙人だという話からして、最初こそハコさんが「とんでもない秘密」とか言っていましたが、その後の物語は特にそれを追って展開するわけでもなく、それどころか途中からは「船が落ちてきた時~」などと当然のことのように堂々と語られていたりします。
裏を返せば「住人が宇宙人」程度ならば解くべき謎ではなく前提として扱われてしまうくらい、ネタが豊富だということです。

一点特化で一つのネタを掘り下げるのか、惜しまず多様なネタをぶち込むか――もちろんいずれのやり方にもそれぞれの長所がありますが、少なくとも本作は、後者のやり方ならではの魅力をしっかり発揮した作例であろうと思います。


イラストは霜月えいと氏。
ハコさんの肉感的な肢体は見事ですし、風景描写もよく雰囲気を出しているのですが(今の私は登山帰りだけに、なおさら山の空気を思い出します。それゆえにライトノベルのイラストとしては珍しい風景のみもアリとしましょう)、しかし重要なサブキャラもイラスト化されていないことが多いのはやや残念。ビジュアル化してインパクトのある場面は他にも多々あったろうに……

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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