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初の長編、そして最初の事件簿――『スフィアの死天使 天久鷹央の推理カルテ』

今回取り上げる小説者こちら、『天久鷹央の推理カルテ』シリーズ第4弾ですが、ただ今回はどういうわけか、『スフィアの死天使 天久鷹央の事件カルテ』と、今までとはメインタイトルとサブタイトルが逆で、しかも「推理カルテ」でなく「事件カルテ」になっています。


 (前巻の記事

タイトルに巻数を示す数字もありませんが、これは作品内の時系列的に『III』の続きではないからでしょうか。
というわけで、今回は時系列を遡って、小鳥遊と鷹央との出会いおよび最初の事件を描きます。
構成も今までとは少し違っていて、これまでは短編連作で、毎回冒頭に最後のエピソードの山場を書いていたのですが、今回は400ページ近いボリュームで1本の長編を描いており、冒頭に山場の先取りもありません。

描かれる事件は、1巻から「過去に鷹央が解決した事件」として前振りのあった件――「宇宙人に誘拐されたと称する男の起こした殺人事件」「宗教団体による大規模な洗脳事件」です。
今までにも警察沙汰はありましたが、今回はスケールの違う本格的な刑事事件で、病院内で結構死人も出ます。
宗教団体に潜入調査を行ったりと捜査も行う二人の姿も描かれます。

著者の医学・生理学的知識を活かしたネタは相変わらずの出来、途中までは比較的分かりやすいかと思いきや、もう一団裏があったりする多段階の解決編もよくできた構成です。
頭蓋骨で守られた脳に損傷を与えることを「最小の密室」と表現したり、はたまた洗脳を受けた人間に現実を突き付けることを癌告知に喩えるセンスも冴えています(後者は京極夏彦氏の『百鬼夜行シリーズ』なら、憑き物落としにより呪いが解け、現実が解体されることで今まで抑えられてきた歪みも噴出する、と言われるところでしょうが――何と表現しようと、謎を解く者の倫理というのも重要な問題の一つです)。

待望の前振りされていた過去の事件、初の長編、そして人の生死に関わるハードな事件――という一冊で、そこからの期待にはあずまず応える内容だったと思います。まあこのシリーズの今後はやはり短編メインで、長編はたまでいいような気はしますが。

ただ若干違和感を感じたのは、宗教団体の黒幕が警察の捜査に対策を練っていたりと、クレバーすぎる印象があることでしょうか。逆に、当の洗脳の手段そのものはシンプルで。
ただ、実際のカルト宗教に関するルポを読んでみると、たとえばあのオウム真理教にしても、――確かに薬物の使用などもあったようですが――それなりにきちんとしたヨガの修行を取り入れるなど、信者に独自の体験をさせるために複合的で手の込んだやり方をしていたようなのです。
そもそもカルト宗教に限らず、詐欺師は往々にして自分の嘘を信じてしまったりするものと言いますし、人をちゃんと騙すにはそれぐらいでちょうどいい(というのも妙な表現ですが)のでしょう。
「獲物を騙す」ことよりも「バレた時の対策」を先に考えるのは、やはり詐欺として本末転倒ではないかと思うのです。

まあ、こういう「理屈はそうだが、実際にはそこまでクレバーにこなせないだろう」という印象を与えるのは、本作の「犯人」全般にありがちな傾向かも知れません。

 ―――

ところで、「過去にあった件」のことに触れておいて、後から時系列を遡ってそれを描くスタイルは、『涼宮ハルヒ』シリーズが取っていた手法ですが……ちょうどイラストレーターが同じいとうのいぢ氏だけに、なおさら連想したりします。

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