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まずは比較的穏当なスピンオフ、ということか?――『薔薇十字叢書 石榴は見た 古書肆京極堂内聞』

昨日はとある先生に教えを請うべく広島まで行ってきました。
広島カープが負けて4位で終戦した翌日に広島行き……

結果は実り多いものでしたが、さすがに一気に旅費がかかりました。おまけに帰りも遅くなったのでついでで高めの外食をしてしまい……
交通費・学会費・宴会費こそ最大の(と言っては大袈裟ですが)出費の種です。

 ~~~

今回取り上げる小説はこちら。
なんと今月から刊行スタート、複数レーベルにまたがって京極夏彦氏の『百鬼夜行』シリーズのスピンオフを展開する「薔薇十字叢書」の第一弾の一つです。



本作の語り手は京極堂の飼い猫である石榴(ざくろ)
この猫の視点から本シリーズの主要人物たちの日常が描かれます。
作中時期は昭和28年の夏~秋で、「大磯の事件」云々と言っていることからも『邪魅の雫』の後と分かります。

内容は兄と喧嘩して飛び出した京極堂の妹・中禅寺敦子(ちゅうぜんじ あつこ)を描く「猫盗人」、青木刑事が榎木津の死体を見たという事件でドタバタする「連れ添い猫」、そして京極堂の妻・千鶴子が失踪する「猫と良薬」の3編です。
登場人物の基本の振る舞いや口調には違和感なし、昭和28年当時の東京を描くに当たってもかなり気を遣っているのは分かります。文体も原作を意識している感じで、文章が頁をまたがないところにもオマージュが感じられますし、それにイラストも志水アキ氏のコミカライズによく似せています(※)(書影を見れば分かりますが、「薔薇十字叢書」の他作品はそうでもありません。まあ『ルー=ガルー』シリーズにはすでに複数の絵が付いたりしているので、あまりこだわる点でもないかも知れませんが)。

※ ただし、主役の石榴だけは違いますけれどね。漫画版の石榴はブチじゃありませんし……

石榴(漫画版)
 (京極夏彦/志水アキ『百器徒然袋 五徳猫 薔薇十字探偵の概念』、角川書店、2013、p. 105)

ただ、その人物たちがやっていることには違和感があるんですよね。その意味で、「こんなことをする人物だったろうか」というキャラへの違和感はあります。
女だからということで、仕事ぶりとは別のところばかり注目されてしまうという敦子の悩みなんて、まさしく『絡新婦の理』の主題の一環だったことですし、――確かにあの話に敦子がそれほどコミットしていなかったのは事実ですが――彼女はすでにそういうことは乗り越えたところにいたのではありますまいか。
まして、敦子の男のことをやたらと気に賭けて動揺する京極堂なんて、ベタなシチュエーションを無理矢理嵌め込んだ感が否めません。

全体として、女性向けレーベルらしい恋愛色の強さが目立ちます。
関口夫妻と中禅寺夫妻の甘い関係は、こういうレーベルの読者にはいいのかも知れません。

それから、原作の蘊蓄の代わりが落語なんですね。
それ自体は悪くありません。京極堂が明治期の落語雑誌を取り寄せ、実在する落語を引用しつつ、それが作中で実際に起きる出来事に重ねられる――というのも原作の構成に対するオマージュなのは分かります。
しかし、どうせそうするなら、「この落語には実はこんな読み方もある」と後でもう一捻り加えてくれるような意味の多層性を期待してしまうのは、原作寄せであればこその高望みでしょうか。

石榴が邪険に扱われている割に京極堂にしか懐かない理由が分かったのが、一番の見所かも知れません。
まさか文字が読める猫で本を読みに膝に上がってきているとは……まあ本作中での石榴は、他の人物にも結構懐いているようにも見えますが。


同叢書の刊行予定作品のあらすじを見ると、ほとんどファンタジーになっているものもありますし、パラレルとしか思えないものもありますし、まあ何をやってもいいのでしょう(たとえば三門鉄狼氏の『ヴァルプルギスの火祭』など関口の孫が主人公らしいのですが、「川赤子」で子供を持つことを恐れてた関口の描写を見るに、彼に子供ができる可能性は低いように思えましたし)。
何しろコミカライズ作者の志水アキ氏に「京極堂殺してもいいですよ」と言ったという原作者ですしね(『マガジンspecial』Vol. 6の対談より)。

そんな中で本作は、原作に忠実であろうというリスペクトは強いのだと思います。
だから原作で描かれていない――しかしいつか描かれないとも限らない――裏設定や過去、あるいはその後などを書くのは避けて、少なくとも出来事のレベルでは原作に矛盾せず、ストーリーに影響を与えないような主要人物の日常話にした、そんな気がします。
しかしその分、キャラクラーにはその気配りが及んでいない感もあり。

まあ考えてみれば、関口・京極堂・榎木津とも、何か起こらなければ何もしない連中ですし……


「薔薇十字叢書」第1弾のもう1冊はこちら↓
こちらは敦子の女学生時代を描いているようですが、はてさて……
叢書開始にあたって、まずは完全にパラレルな別物とかではなく、原作との食い違いが少ないような作品から始めているのでしょうか。そこまで計算の上かどうか分かりませんけれど。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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