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戦争の影の下で咲け乙女たち――『薔薇十字叢書 ジュリエット・ゲェム』

今回取り上げるライトノベルはこちら、先日取り上げた『石榴は見た 古書肆京極堂内聞』と並ぶ「薔薇十字叢書」の第1弾となる作品です。



この「薔薇十字叢書」、まず女性向けレーベルである講談社ホワイトハートからの刊行となったわけですが、本作に関しては、作者の佐々原史緒氏はファミ通文庫などで活躍してきたベテラン作家(2001年デビュー)で、女性向けレーベルでは初の仕事となります。

内容は京極堂の妹・中禅寺敦子を主人公にしたスピンオフです。
作中時期は開戦の翌年である昭和17年、12歳の敦子は横浜の私立港蘭女学院に入学し、寮生活を始めます。
その凌で彼女と同室になったのは、優美な「お姉さま」という感じの本栖紗江子(もとす さえこ)と、一人称「僕」の喋りからしてボーイッシュな高宮万里(たかみや ばんり)(本当は「まり」なのですが周りには「ばんり」と呼ばせています)という二人の先輩……と、いかにも少女小説的な顔ぶれ。

過剰に敦子のことを構いたがる濃い先輩たちに翻弄されつつ、敦子が学院内外の騒動に関わる……というストーリーで、紗江子に関する不穏な噂と学院内で流行する「天使様」のおまじない(「コックリさん」のヴァリエーション)を巡るエピソードの後、ほとんど会ったことのなかった兄との心温まる関わりを描く敦子が8歳の時の短い回想エピソードを挟んで、神奈川県立第一高等女学校と合同でイベントを開催するエピソードという全3章構成になっています。
タイトルにある「ジュリエット・ゲェム」は第1話において学内イベントで彼女たちが上演するシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に絡んでのもので、第3話でも別のイベントを開催……と、花の女学校らしい学園生活のイベント満載ですが、しかしそこにつねに影を落としているのが戦争に向かっていく時局です。

何しろ、港蘭への入学からして、「公立はもう駄目だ」という兄・秋彦(後の京極堂)の見通しにより、本人も知らぬ間に決まっていたこと。
以来、英語が「敵性語」として禁止され、教育カリキュラムが次第に戦時のために訓練ばかりになり……と、教育現場の次第に戦争に侵食されていく様は何とも重苦しいものがあります。
本作はそんな中で、時には虚しいと知りつつも精一杯の抵抗をしつつ生きる乙女たちの姿を鮮烈に描いています。

理知的な敦子は女学校と女子コミュニティならではの空気に馴染まないことも多いのですが、しかしだからこそ、逞しく物語を引っ張ってくれます。

あとがきによれば、作者も敦子の女学校時代を描こうと考えて、後からその時代の情勢に気付いたとのこと。
実際、少女小説や漫画の女学校もので戦時中というのは珍しい気もしますが、まさにスピンオフであるがゆえの制約が、稀有な味わいの作品を生んだという面もあるのでしょう。


とは言え、物語としてはどちらかというと、原作から独立して楽しめる一本でしょうか(榎木津に関してだけは、若干設定を押さえておいた方がいいかも知れませんが)。
原作のキャラクターで登場するのは敦子と秋彦、後に秋彦の妻となる千鶴子と、それに榎木津だけです。
実は、敦子と榎木津の初対面の場面も描かれているのですが……榎木津はどこに出ても、誰が書いても揺るがないキャラで、しかも何でもお見通しで、安心させてくれます。

敦子が子供時代、兄とは離れて京都の親戚の家(千鶴子の実家)で育てられていた、というのは原作の記述通り。
本作では、一時期東京の中野で兄と同居した後、兄によって港蘭に送られた……ということになっており、オリジナルの設定ですが、原作との整合性はきちんとしています。

ただ登場人物の年齢に関しては、原作でもやや曖昧なところがあるのですが……というのも、『姑獲鳥の夏』では12年前の「昭和15年」に関口と京極堂、それに一つ先輩の榎木津や藤野牧朗が高等学校の学生で、久遠寺梗子は15歳だった、とあります。
当時の高等学校は3年制で16歳から入学できますから、だとすれば関口たちは『姑獲鳥』時点で30歳かその手前という設定だったようにも思われます(実際、自分の年齢に関してもあやふやな関口の語りではありますが、「妻は私と同じで27~28ではないか」という文言があったりします)。
ただ、その後を見ると榎木津、および彼と同じ年の木場が30代半ばということで固定しています。
まあ、ストレートで入学・卒業したとは限らないと考えると多少の開きは許容範囲内かも知れませんが、そう考えると今度は同学年でも同じ年とは限らない可能性も出てきますが……
ともあれ、本作では昭和17年時点で京極堂22歳を採用しています。
敦子が兄と10歳差なのははっきりしているので、彼女の女学校時代を描くには、この年代が限度だったのかも知れません。


なお、「薔薇十字叢書」の続く作品は比較的新興のレーベルである富士見L文庫から刊行予定。やはり作者は女性向けレーベルで活躍してきた方々のようです。



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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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