スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

今一度『星の瞳のシルエット』と恋愛の通過儀礼の話

新作の話題などもありますが、ここは一つこちらの話を先にしてみることにしました。
最近、18年ぶりの続編が掲載されたことで少し触れましたが(こちらの記事で)、昭和の少女漫画の名作『星の瞳のシルエット』の話です。



本作の主人公は沢渡香澄(さわたり かすみ)、物語開始時点で中学3年生の女の子です(途中で高校に進学)。
子供の頃、名も知らぬ「すすき野原の男の子」にもらった「星のかけら」を大切に持っています。

星の瞳のシルエット3
 (柊あおい『星の瞳のシルエット 5』、集英社、1987、p. 7)

この画像↑は高校編の初めのもの。まあこの後、重い展開なので暗い表情が続くことの方が多いんですが……

そんな彼女の親友の森下真理子(もりした まりこ)が好きになったという男の子が、同学年の久住智史(くずみ さとし)

星の瞳のシルエット6
 (柊あおい『星の瞳のシルエット 1』、集英社、1986、p. 14)

こちらが久住君。中学編では弓道部です。

星の瞳のシルエット5
 (同書、p. 27)

しかし図らずも香澄は久住君と仲良くなってしまい、とはいえ先に好きになった親友の真理子に譲ろうとその想いを外には出すまいとするのですが……中盤で三角関係が表面化してからはどんどん話が重くなります。

そんなわけで二人で決裂しても、健気にも両方の友人であり続けるのが泉沙樹(いずみ さき)

星の瞳のシルエット4
 (『星の瞳のシルエット 5』、p. 9)

↑この画像も高校編スタート時のもの。

本作の王道少女漫画としての恋愛ストーリーに関しては、これ以上細々と語ることもありますまい。
以下は最近になって本作を読み返して思ったことです。

香澄は決して久住に想いを打ち明けるつもりはない、真理子に譲るのだと決心しつつ、何食わぬ顔で久住と仲良くなっていきます。
中学編時点でほぼ「落として」いるようにしか見えません。

星の瞳のシルエット7
 (柊あおい『星の瞳のシルエット 4』、集英社、1987、p. 66-67)

「付き合うつもりはないと言いつつ、こんなに仲を進展させちゃって大丈夫なの?」というハラハラする感覚こそ見所ではあるのでしょうが……

沙樹に関してはもっとあからさまで、彼女の相手役はマンションの隣に住む幼馴染みでプレイボーイの白石司(しらいし つかさ)ですが、彼らはベランダ越しに相手を気軽に呼び出し、ともすれば家の食材まで共有する仲。どう見てもほぼ夫婦です。

星の瞳のシルエット1
 (柊あおい『星の瞳のシルエット 3』、集英社、1987、p. 58)

星の瞳のシルエット2
 (同書、p. 64)

司が香澄への想いを見せて三角関係に介入するようになってから彼らもこじれた関係に積極的に絡むことになり、また沙樹の素直になれない切ない想いもあって、彼らの恋愛ドラマもなかなか魅せますが――そんな中でも、二人は日常的にベランダ越しで香澄たちのことを話し合ったりしています。
司が香澄を好きになったのは作者にとっても最大の予想外で、物語に大きな軌道修正を強いたことはことあるごとに作者自身語っていますが、もしそれがなければ、沙樹と司はずっと安泰の脇役夫婦だったのではありますまいか。
(もちろん、読者としての私もそうして軌道修正を知られた結果の物語については満足していますが)


ここで思い出すのは、『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』のスウェーデン人漫画家オーサ・イェークストロム氏と、やはり日本での生活に関する投稿で人気を集めたカナダ人Youtuberシャーラ氏の対談です。

 「告白されて付き合うのってヘンじゃない?」 外国人から見た“日本人女性の不思議”

――[……]日本では男女が付き合う前に“告白”という儀式をすることが通例ですが、海外ではあまりしないそうですね?

シャーラ:ないない。だってお互い好きだって自然に分かるじゃん。気づいたら付き合ってる感じ。

オーサ:儀式的になってるのが不思議です。なんか「好きです!」みたいな分かりやすい告白は日本だけかなと思います。


そう、まさしく「告白する」という「儀式」を行わねば、なし崩しでどんな親密な関係が成立していても駄目だ、という独自の文化です。

一般に男女関係において「既成事実」といえば性行為、あるいは妊娠くらいの事柄を指しますが(これもそれだけ客観的な事実が成立してこそ、という考えを反映しているように思われます)、ここではこの言葉を文字通り「すでに成立している事実」という基本的意味で使うことにしましょう。
既成事実として親密な関係が成立しているだけでは駄目で、通過儀礼を行わねばならないのです。

恋愛物で、幼馴染みのような当初から親密な関係にあるキャラに対してしばしば「その立場に甘えていてはいけない」「危機感を持て」といった言葉が投げかけられますが、これもまさしく「既成事実としての関係だけではいけない」という信仰を示しています。
幼馴染みがしばしば「負け属性」と見なされるのも、既成事実として親密な関係が成立しているがゆえに、かえっていまさら改めて通過儀礼を行って区切りを付けにくい、という理由があるのでしょう。

裏を返せば、この告白という儀式至上主義がなければ、沙樹と司はもちろん、香澄と智史も既成事実として完全なカップルであり、真理子も自分の入り込む隙はないとおのずから悟ったに違いありません(それではドラマになりませんが)。

この点に関して示唆的な事実があります。
真理子の相手役――恋愛に破れたキャラへのいわゆる「当て馬」――として高校編から登場するのが香澄たちと同じ高校の日野君です。

星の瞳のシルエット10
 (『星の瞳のシルエット 5』、p. 93)

彼の一途な献身も感動的でしたが(個人的に好きなのは沙樹、好きなカップルも沙樹と司ですが、最近読んで泣いたのは断然、日野君のエピソードでした)、それはそうと――
『星の瞳のシルエット』は、香澄と智史、沙樹と司、そして真理子と日野という3組のカップルがほぼ同時に成立して大団円を迎えるのですが、ここで真理子と日野だけは――少なくとも形式的に台詞の内容を見る限り――「告白する」という形を取っていないのです。
これは、それまでの想い人である久住智史の存在と彼への想いを追いやるほどに日野が大きな存在になっていたと真理子が気付き、受け入れる内面のドラマだけで一つのカタルシスがあり、区切りになっていたがゆえに、「告白」という儀式は必要なかった、ということではありますまいか。

恋愛というものはほとんど全て文化的に規定されたやり方に基づいているのであって、告白という儀式もその一つですから、私はそうした文化の是非を言いたいわけではありません。
ただ、こうしたドラマの魅せ方がどれだけ固有の文化的背景に依存しているかを見てみるのも、たまには良いのではないか、と。

 ―――

まったくの余談ながら、本作中では太田裕美『星がたり』がテーマ曲として使われており、イメージアルバムも出ています。





その辺に関して作者が欄外で語っているところがあるのですが、太田裕美以外での好みの音楽として「中島みゆき、谷山浩子、松任谷由実」(『星の瞳のシルエット 2』、集英社、1986、p. 23)等の名前が……見事に私と合います。

その他にも、たまに細部のセンスがツボに嵌って仕方ないことがあります。

星の瞳のシルエット8
 (柊あおい『星の瞳のシルエット 6』、集英社、1988、p. 146)

「その時モスラの幼虫がさ」って何の話をしていたのやら、ですが……

星の瞳のシルエット9
 (柊あおい『星の瞳のシルエット 7』、集英社、1988、p. 88)

背景ポスターをアップにすると……↓

星の瞳のシルエット11

「仮面ライダーBlack!! がやってくる」……

なぜ本作がこんなに嵌るのか分かった気がする、そんなセンスの合い加減を感じました。


追記には再読した時の感想を読書メーターから転載しておきます(まあ、すでに読書メーターのまとめでこのブログにすでに掲載していますが)。


外伝を含めても18年ぶりの続編が描かれたのを機に再読。幼い頃に出会った男の子に貰った「星のかけら」とその想い出を大切にしていた香澄だが、親友の真理子の想い人・久住智史に惹かれるようになり……恋と友情、それに過去の想い出と現在の想い人という二重の引き裂きに苦しむ香澄の姿が、王道ながら心に沁みる味わい。昭和の少女漫画らしいテイストとラジオの投書での伝言といったギミックに感じる懐かしさ。スパッとした正確の眼鏡っ娘・沙樹がいいキャラ。真理子のキャラは忘れてた…やはり好きじゃないのかも。人気がないのは分かる。



再読。星のかけらをなくした香澄。だがそれを拾ったのは久住の父で、久住経由で帰ってくる。久住の家庭の事情も描かれる巻。文武両道に家事もできて全てにハイスペックな彼だが、友人の司に振り回され父に使われているのが彼の可愛い所だろうか。そしてプレイボーイと思いきや、香澄の想いを察して後押しする司の存在感が急上昇。御名がお互いを気遣ってる中で、自分の久住へのアプローチばかり考えているのが真理子の不人気の理由か。彼女が悪いんじゃない、周りが優しすぎるんだ。最後に香澄の告白する男子登場だが…二階堂君とは何だったのか。



引き続き再読。香澄と久住を後押しする司だが、この介入を巡って沙樹と対立。この頃から沙樹のシリアスな表情が増えて印象的。隣同士でベランダ越しに気軽に呼び出せる夫婦のような馴染み具合の司と沙樹の関係、他方でそこに亀裂を入れるようなそれぞれが垣間見せる想いが実にいい。もうここからはこの二人メインでいい、というか実際そうだったような印象さえ。作者も後に語っている通り、この司の動きが一つの転機だったような。本作が短期終了していたら司と沙樹は安定のサブキャラ夫婦として終わったのか……と思うとまた感慨深いものが。



引き続き再読。久住の怪我の見舞いに訪れ、ついに彼が想い出の「すすき野原の男の子」であることを知る香澄。そして高校受験、それぞれの進学が決まるが、卒業式の日に香澄の想いが真理子にバレ、沙樹が気付いていたことも香澄に知られて、3人の友情に危機が…。真理子を気遣えばこそ自分の想いを隠し、成就することは諦めながら、真理子を応援することもできなかった香澄の屈折した想いと、自然とアプローチを進めてしまっていたことが悲痛な結果に繋がった感。沙樹の想いも切ない。久住の父がい味を出している。



引き続き再読。この巻より高校編スタート。新キャラも複数登場、とりわけおケイの存在感。久住にアプローチをかける彼女とそれを阻止する自然と新たなコンビになっていく辺り(壁ドンあり)、引力が働いたかな。香澄が沙樹の家を訪ねて仲直りする箇所は感動的だが、真理子との関係は以前拗れたまま…。香澄は相変わらず図らずも久住と接近しており、何とももどかしい。それから真理子の新たな相手役・日野君登場。彼の印象は薄かったが今見ると彼の真理子との出会いの流れは何だか微笑ましいラブストーリーであること。彼の人柄にも合っている。



引き続き再読。秋の天文部の合宿でついに久住に想いを告白される香澄だが、答えることができない。香澄からすれば何かと助けてくれる司は優しくて素敵な男の子なわけだが、そのために久住は香澄が司のことを好きなのかと疑っており…。香澄はもちろんながら、司への想いに素直になれない沙樹も切ない。そんな中でもおケイに久住への想いを打ち明け、中学時代の二の舞は回避する香澄。こっちの友情は爽やかな感じで良かった。だがそんな中、日野君に誘われて文化祭にやって来た真理子と……。今回の時代を感じるアイテムは「駅の伝言板」。



学園祭で鉢合わせもやはり決裂、改めて自分が真理子を裏切ってきたことに気付く香澄。他方で真理子は日野の献身的な後押しもあり、ついに久住に告白する。それを祝福しようやく真理子と仲直りできたと笑う香澄だが、司と沙樹は黙っておらず……そして司の告白。こんな中でもズッコケさせてくれる久住父の安定感、そして久住と司の男としての対話があらぬ噂を呼ぶとか笑いどころもきっちり。同じ相手を好きになった同士も香澄―真理子(女同士)と久住―司(男同士)の方向性の違いに注目。後は司との関係を言われた時の沙樹の反応かな、可愛かった。



再読。真理子と付き合い始めた久住、香澄を誘う司。本命でない相手と沿った挙げ句に二組のカップルの遭遇…と定番ではあるが、結果、再びすすき野原で久住と香澄が決定的な接近を…。この期に及んでの久住の鈍さには呆れるが、彼は女子コミュニティの面倒な機微など知る由もないということか。おケイはようやく久住へのアプローチを止めて司に鞍替え。彼女も難儀な人だ。新たな恋敵の介入もあり、司と沙樹にいよいよ焦点が当たる。司の部屋での「おまえだよ」は痺れ、幼少時の出会いにニヤニヤ。そして最後、ラジオでの伝言が再び生きてこようとは。



引き続き再読。そう言えば「すすき野原の男の子」が久住だと本人達以外は知らなかったか…新たなラジオ経由のメッセージとその真相、そして真理子敗れる。過去の絆が全てではないが、しかしそれは「部外者」である真理子にこそ強い拘束力を発揮してしまう…。そんな真理子に健気に笑顔を向け続ける日野の包容力に泣いた。真理子の姉もいい感じ。隣家の幼馴染みであるが故に失恋もできない沙樹の鬱屈がまた切ない。今回はファンタジー要素によるコメディ番外編「お稲荷さん大パニック」も収録。異常事態に皆この順応力の高さ(笑)。



再読。これにて完結。香澄と久住、沙樹と司、真理子と日野、3組のカップルが成立して綺麗なハッピーエンド。真理子に失恋を忘れさせる程にその心を占めたのは日野の与える安心感と彼への罪悪感。典型的な当て馬だがすんなり来る流れだった。司とのデートからの流れは沙樹の魅力全開。どうしても素直になれない想いが切なく……やっぱりこのカップルが後半の山場な印象だな。香澄・久住に関しては最後むしろ起伏は小さかったし。いずれにせよずっと辛そうだった彼女達の笑顔に感無量。ラストの二階堂君再びに驚き。彼は何だったのか(二度目)。




本編に続き再読。表題作は香澄の大学進学後の話、というか熱意を失ったまま大学に入って彼女と出会った青年・遠野行の話か。他のキャラはおケイと久住しか登場しないのが残念だが。この指輪と二人のお互いに対する呼び方が変わっていることに関して、最近描かれた新作短編がいいミッシング・リンクに。他に二人暮らしの姉が結婚することになった少女を描く「少女憧憬」と、想い人に想いを伝えようとしてそれ以前でドタバタする少女を描いた「SPRING!」を収録。それぞれ毛色は違うがまずまず良かった。



再読。表題作は遠野行とおケイの話。おケイにも相手が見付かったようで良かった。内容すっかり忘れていたが、関係が始まったばかりのところで終わっているから「結ばれた」印象が薄かったのか…。司が少し出ている(相変わらずの様子)がそれだけなのが残念。ただ欄外等で沙樹や真理子も登場してその後が描かれてるのは良かった。/「はじめまして」は付き合い始めに話も保たず苦労する話。/「季節の栞」高校3年生の1年間を共有した二人、少女は最後に少年がいかに近くにいたか気付く。いずれも初々しく甘酸っぱい。服装が描かれた時期を示す。


「服装が描かれた時期を示す」と言ったのはルーズソックスのこと。『星の瞳のシルエット』から10年、'90年代後半はそんな時代でした。

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。