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始まりは学園オカルトから――『絡新婦の理』(漫画版)1巻

さて、いよいよ京極夏彦『絡新婦の理(じょろうぐものことわり)』のコミカライズ単行本1巻が発売されましたので、今回はそれを取り上げさせていただきます。



 (原作小説についての記事
 (連載時の記事 → 第1話 第2話 第3話 第4話
 【追記:連載時には「原作第6章」と何度も書いていましたが、私の勘違いで実際には「第7章」だったと思われます】

作品の基本構造については原作についての記事で、そしてコミカライズのされ方(原作との対応、改変、キャラクターイメージなど)については連載各話のレビューで一通り語らせていただきましたので、今回は大まかなストーリー紹介からいきましょう。

この1巻での主な舞台は名門の女子中学校「聖ベルナール女学院」
この学院内に呪いの噂が流れています。最近、一人の女性教諭が連続殺人鬼に殺されたのですが、それも呪いの仕業であると――
2年生の呉美由紀(くれ みゆき)は、親友の渡辺小夜子(わたなべ さよこ)のために、呪いの儀式を行っているという連中と接触を図ります。
美由紀自身は呪いなど信じていないのですが、小夜子は教師の本田幸三に陵辱されて泣き寝入りを強いられているという事情があり、それで小夜子の気が済むのなら、という想いから協力するのです。
ところが、儀式を行っている連中が呪ったという相手が実際に殺人事件の次なる被害者となってしまい……混乱の中で、学内でも惨劇が起こります。
はたして呪いは本当にあるのか、そもそも何が起きているのか……

というわけで、本作は志水アキ氏によるこのシリーズのコミカライズとしては初めて原作の構成を大きく組み替えており、1巻では美由紀を主役とした学園オカルトホラー的な物語が中心になっています。
そんな中で、東京の街中で、呪いの対象になったその女性が連続殺人鬼「目潰し魔」に殺された事件を捜査する刑事・木場修太郎のパートが挿入され(現段階ではそう言うのが相応しいでしょう)、このオカルトホラー的な事件が別のところから見ればまったく違った顔を見せることを示唆する、という感じです。

学院内で呪いの儀式を行う集団の名称が「蜘蛛の僕」である一方、木場の追う目潰し魔事件でも容疑者の一人が「女に、蜘蛛に聞け」と言い残す――というわけで、今巻時点で見えている重要モチーフの一つはタイトルにもある「蜘蛛」です。

キャラクターと演出に関しては原作のイメージを裏切ることなく、申し分ない出来です。
お嬢様学校と東京のうらぶれた淫売宿の雰囲気の差異も描けていますし、何より長身で(本人はひょろ長くて女の子らしい可愛さに欠けると思っているようですが)表情豊かでアクティブな美由紀の魅力がよく出ています。


構成の改変に関しては連載時にも言いましたが、「原作は京極堂と真犯人(黒幕)の対決から始まっていたが、それはヴィジュアル化するとネタバレになる」「掲載誌と読者層を考えて学園編から」などの理由が考えられます。
そもそも、原作が冒頭に京極堂と黒幕の対決を置いたのは、これが蜘蛛の巣の中心に「蜘蛛=黒幕」のいる事件である、と明示しておく意図もあったと考えられます。それは黒幕なき事件であった前作『鉄鼠の檻』との対比でもありますが、コミカライズでは順番変わって『鉄鼠』がまだ描かれていませんから、そこにこだわる必要はなかったのかも知れません。

また、原作の構成自体、全編関口の一人称であった『姑獲鳥の夏』の後、その後の3作ではかなり頻繁に視点を入れ替えるスタイルを取ったこともありましたが、5作目の本作ではかなりそれも洗練され、

・章ごとに視点人物交代、章の途中で視点交代はなし
・ある人物の視点がしばらく描かれずに間が空いた場合、その間の出来事は回想で

という形になっていました。
ただ、漫画の絵はそもそも三人称で、小説に比べると視点を切り替えやすいものですし、叙述を時系列に沿って組み替え、原作では回想で描かれていた部分をリアルタイムで、というのは妥当な選択と言えます。
逆に時系列と叙述の順が入れ替わり、まず事件のニュースを見せておいてからその事件発見当初の様子に遡る、という場面もありましたが、そこの関係もきわめて分かりやすいように描かれているので、特に問題はないでしょう。

それに、月間連載になり話の区切りが増えたこと、また単行本での区切りなども意識しているように思われますね。

原作だと死んだ後に回想シーンで暴れていた人物が、時系列順に構成を組み替えたことによりその死が描かれる前にその暴れっぷりを見られるようになった場面もありますが、「遠からず死んで退場する」と分かっている人物が暴れるのとは存在感の違うものがあり、これも良かったのではないでしょうか。ただでさえ漫画というのは、場面ごとの感情的な印象付けがものを言うジャンルですし。


そもそもこのコミカライズ、今作から出版社が講談社に移動しました。
これは掲載誌であった『コミック怪』の休刊に伴うことと思われます。そもそも、角川書店からコミカライズが出ていたことはおそらく『魍魎の匣』の映画化に連動してのことで、原作を元々刊行していたのは講談社でしたから(色々あって文春から新版が出たりしていますが)、妥当な引受先とも言えます。
ただ、マガジンKCなので版型が一回り小さくなり、カラーページもモノクロでしか収録されていないのが残念なところでしょうか。
思えば、『魍魎』の最初の方の巻もカラーはなかった覚えがあります(紙の単行本の場合)。それがカラー印刷しても採算が取れる目途が立ったのか、途中からカラー収録されるようになりました。
考えてみると、『ジャンプ』のようなメジャー誌の単巻100万部クラスの作品でもカラーページがないんですからケチな話です。

閑話休題。
それからカバー下も今までのシリーズと違って、キャラクター紹介になっています(これまでは表紙と同じ構図で別キャラを描いていました)。やはり本作から入る読者を念頭に置いてのこと、でしょうか。

絡新婦の理 1巻カバー下

そして、巻末には第1話掲載時の『マガジンSPECIAL』に掲載された京極夏彦・志水アキ両氏の対談も収録


とにかく全体として、掲載誌の移動などといった周辺事情も考慮に入れつつ、漫画の特性を活かしてより良いコミカライズにするための工夫が見られる、素晴らしい質のコミカライズです。文句無しにお勧めできます。
公式PV動画もいい出来ですね。



 ―――

なお、『姑獲鳥の夏』コミカライズの文庫版も同時発売です、なぜか。



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