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学生時代のエピソードは多くのファン待望と思われるが――『薔薇十字叢書 天邪鬼の輩』

今回取り上げる小説はこちら、京極夏彦氏の『百鬼夜行』シリーズの公式スピンオフである「薔薇十字叢書」の新作です。タイトルは『天邪鬼の輩(あまのじゃくのともがら)です。
「薔薇十字叢書」の第1弾はまずは講談社ホワイトハートからでしたが、この度本作ともう一作は、新しいレーベルでライトノベルと一般の中間的な位置を占める富士見L文庫から刊行です。



本作の主人公にして語り手は旧制第一高校に入学して間もない頃の関口巽
高校に付いていけず、引きこもって鬱々とした日々を送っていた関口ですが、同級の中禅寺秋彦によって連れ出され、やがて1年先輩の榎木津礼二郎とも交流を持つことになります。
しかしそんな中、榎木津が女学生を妊娠させたということで謹慎処分。しかも相手の女学生が失踪したということもあり、関口と中禅寺で捜査に乗り出すのですが――

というわけで、彼らの学生時代を描いたスピンオフです。
榎木津の同級生で『姑獲鳥の夏』における事件の中心人物であった藤牧こと藤野牧朗(ふじの まきお)が登場するのも嬉しいところ。
それから、原作では未登場の榎木津の兄・総一郎も登場したりします。

ストーリー的には作者があとがきで「二時間サスペンス」と言っている通りの内容。
読者に提示された内容から厳密に真相が推理できる「ミステリ」ではありませんけれど、まずまずの内容です。

単独の作品としては悪くない出来なのですが……ただ、原作との関係で引っ掛かる点、物足りない点はいくつかありました。

・登場人物の違和感

そもそも事件の発端となった榎木津のやったことにしても、「か弱い女学生に頼まれたら断れないじゃないか」という弁明にしろ、どうも本編で描かれる榎木津の人物像とは違う感があります。
本編だと人のことをボロクソに言う代わりに自分が何と思われても平気な榎木津が、中禅寺から馬鹿だ何だと言われて不機嫌になっている場面が多いのも引っ掛かるところ。
関口たちの語りからしても、彼らのこういう部分は昔から変わっていなかったのだろう、と思われるところですからね……

それでも、これは昔のエピソードということで若干差し引いてもいいでしょう。
ただ、末尾の現在(つまり本編の昭和27~28年頃)の場面で、酒場でも一切酒を飲まないはずの京極堂が麦酒を口にする描写があるのはいただけません。そもそも酒を飲まない人間の家に酒が常備されているとも思えませんし(まあ、もしかしたら千鶴子夫人は飲むのかも知れませんけれど)。

・せっかくだから活かして欲しかった点

中禅寺が榎木津を関口に引き合わせた時に、「彼は苛めると鬱病を発症する。先輩は躁病気味だからバランスを取るといい」旨のことを言った、という記述が原作にはあるのですが、そういう原作で判明していることが反映されておらず。
せっかくだから、原作で記述のあることは活かしてくれれば「あ、あの場面か」ともっと受けたでしょう。

・妖怪「天邪鬼」の扱い

冒頭に妖怪に関する文献の引用を置き、事件に妖怪を絡める、というスタイルが原作のオマージュなのは分かります。
ただ、そこで引用される文献が角川文庫の『日本妖怪大事典』である辺りに限界も感じます。原作なら『日本妖怪大事典』が参照している古典を引っ張ってくるところですから。
事件への絡め方も浅いかな、と。

これは原作比でつい厳しくなってしまう点です。

やはりこういうものは「あのシリーズのスピンオフだから」と原作の(とりわけそのキャラクターの)ファンを対象にしているのでしょうけれど、「スピンオフだからこそ」原作比でハードルが高くなる面もあるような気がするのです。そこまで気にする読者がどれくらいいるのかは分かりませんが。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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