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再現度では一番――『薔薇十字叢書 桟敷童の誕』

今回取り上げる小説はこちら、「薔薇十字叢書」の第2弾として『天邪鬼の輩』と同時に富士見L文庫から発売された作品です。
タイトルは『桟敷童の誕(さじきわらしのいつわり)――「誕」と書いて「いつわり」と読みます。調べてみるとそういう読みもあるのですが、まあその意味は最後まで読めば明らかに。



本作の作中時期は昭和27年末、『狂骨の夢』の後の時期です。
関口巽のもとに小説家の弟子入り希望だという青年・天城悠紀夫(あまぎ ゆきお)が現れます。関口は弟子など取れる立場じゃないといって断るものの、付いてくる天城青年。
そもそも天城の家は劇場・映画館の経営者一族で、遺産分与で揉めている最中という、少し話題の家でした。
そして、天城の経営する劇場では座敷わらしならぬ「桟敷わらし」の人形を縁起担ぎとして置く習慣があったのですが、榎木津がそれに興味を示し、(人形ではなく)本物の妖怪を見たいと無茶を言い出して天城家の劇場に乗り込み始めます。しかし、そこで榎木津が事件の存在を指摘。
死体はあったのか、なかったのか、やっぱりあったのか……榎木津の説明がさっぱり分からないこともあって、事態は混迷に陥るのですが……

本作はここまでに読んだ「薔薇十字叢書」の中では、文体、構成、妖怪蘊蓄の使い方まで一番原作に近い作品でした。
文体に関しては、文章が一切ページをまたがないところまでは再現していませんが、改行の仕方などに現れる息づかいが実に原作風。冒頭からして、

 町が燃える匂いを覚えている。

 夜の蓋が開いたかのように空が明るく輝いていた。焼夷弾の紐についた火が軌跡を描いて、しだれ桜みたいに流れ落ちていく。防空壕に向かいは知る僕のまわりで空気が轟と吠えていた。肌を炙る熱風が僕の全身に圧をかける。風に勢いよく押されたようになって、なにが起きたのかと視線を上げる。
 (佐々木禎子『薔薇十字叢書 桟敷童の誕』、KADOKAWA、2015、p. 5)


という鮮やかさ。
はたまた、

 木場修太郎は映画が好きだ。
 四角く武骨な強面と、東京警視庁刑事課所属の刑事という仕事のせいか、映画が好きだと云うと「へえ」と驚かれることが多い。しかし人は顔つきや職業で嗜好を決めるわけではないのだ。
 映画の種類は、洋画でも邦画でもかまわない。とりあえず面白ければどんな映画でも好きだった。特に好きなのは勧善懲悪ものだ。明確な悪と戦いやっつける単純なものなら、なおいい。胸がすっとするような幸せな結末が、映写機から零れ落ち、形を結んで終わる。
 表立っては云えないが、木場は戦争のときのほうが生きやすかったとたまに思うことがある。あの頃は自分の内面なんて感じる暇はなかった。そういう意味では木場は戦時に適合して暮らしていたので、今を生きるのが少しだけ難しい。
 (同書、p. 61)


と視点が切り替わったところで人物語りから始まるのもいかにもな感じです。
会話シーンも(一部呼称に違和感があるところはありますが)関口のああとかううとか言うだけで要領を得ないところとか、榎木津のエキセントリックでわけの分からない発言とか、京極堂の蘊蓄とか、実によく再現しています。

そして何より、妖怪ですね。
『石榴は見た』『ジュリエット・ゲェム』と異なり、本作と『天邪鬼の輩』はタイトルの付け方も「○○の×」(○○は妖怪名)という原作のスタイルに沿っています。そして、妖怪の使い方では本作が一番でした。

『天邪鬼の輩』と違って冒頭に文献の引用こそありませんでしたが、「座敷わらし」という妖怪についてきちんと蘊蓄を展開し(実はこの妖怪については、原作シリーズでも『姑獲鳥の夏』で少し語られたことがあるのですが)、その意味の多層性にも着目した上で、解決編で京極堂が事件を妖怪の名と意味のもとに総括する構成に至るまで、なかなかの出来です。

事件の背景は、時代状況を活かしたものでもありますし。

気になる点があるとすれば、天城青年も話がまどろっこしい人物で関口も要領を得ず、榎木津も何を言っているのか分からない……で何が起こっているのが判然としないまま中盤までが長いこと、そして解決編のカタルシスがいささか弱い(とりわけ原作比で考えてしまうと)ということでしょうか。
再現度が高いからこその贅沢とも言えますが……


総じて、スピンオフである以上、人物像や設定に原作と齟齬があるとどうしても引っ掛かって評価が低くなる一方、あくまで別人が書いている時点で、話の構成や雰囲気、文体は原作と別物であっても構わないのです(その意味で原作のことをあまり気にせず楽しめたのは『ジュリエット・ゲェム』でした)。
原作に寄せるとその分ハードルが高くなる面もあり、難しいところです。

 ―――

さて、「薔薇十字叢書」の次なる予定はふたたびKADOKAWAから講談社に戻って、レーベルも講談社ラノベ文庫と少年向け(とされる)ライトノベルレーベルに移ります。『ヴァルプルギスの火祭』、10月30日発売予定(妖怪名のところに入るのが日本の妖怪でこそありませんが、これも一応原作の形式に沿ったタイトルです)。
何でも関口たちの孫世代の物語のようで……あらすじと設定を見る限り、『百鬼夜行』シリーズのスピンオフである必然性をあまり感じませんが、これくらいやると別物として割り切って読めそうなので、かえって楽しみです。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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