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ミステリ諸々

作品の読み方は一つではないわけでして、「この作品を他人は面白いと言うが、自分には良さが分からない」と言うのは、それだけではあまり意味はありません。

ただ、世の中には比較的読み筋を限定する類の作品もあります。
たとえば、ミステリー
とりわけ、殺人事件が起こって名探偵登場、犯人は誰だ、というオーソドックスな構成のミステリで、もちろん最後にわざとアンフェアな答えを出すアンチミステリというわけでもない……と来れば、やはりミステリとしての、「謎解き」の出来を評価の中心にしたくなります。
「謎解き」と言いますか、むしろ「騙される楽しみ」と言った方が良いでしょうか。解決編で真相を明かされて、「そうだったのか」と知ると同時に、同じ情報からそれまでのとはまるで違う眺望が見えてくる楽しみです。

まあ百歩譲って、「事件の謎解きとは別のドラマや演出が面白い」といった評価点を認めるとしても、世にいるミステリマニアたちは、やはり上述のような「ミステリとしての出来」を第一に期待していると思われるわけです。
ところが、「ミステリマニアの間で優れたミステリとして高評価にも関わらず、当の謎解きの部分の出来がいいとは思えない」となると、何とも首を傾げてしまうわけです。

まあ、そこには作品の登場した時代背景を含む様々な事情があるのだと思われますし、そもそも私はそこまでミステリ読書量が多いわけでもありませんが、そんな「どうも疑問符」なミステリを挙げてみますと……


● コナン・ドイル「赤毛連盟」(『シャーロック・ホームズの冒険』収録)は殿堂入り

……と言いたいところですが、これは「なぜか有名」なだけで「評価が高い」わけではないかも知れません。
内容的には犯人の計画もホームズの推理も一から十まで筋の通らない大駄作。
他にもホームズの推理には結構無理や飛躍が多いとは言え、中でもなぜこれが有名なのかだけが謎です。




● 横溝正史『本陣殺人事件』



↓こちらの作品集にも収録。



名探偵・金田一耕助初登場の作品なのですが、最後まで読んでもよく分かりませんでした。
何が分からないって、「物理的トリックが具体的にどんな風に動いていたのか、解決編の説明を読んでもよく分からない」のです。
こう感じるのは私だけではないようですが、しかし映画化されているんですよね。映画版は観たことがありませんが、映画のスタッフにはこのトリックが分かったのか、それとも独自にアレンジしたのか……


● クロフツ『樽』



クロフツと言えば「アリバイ崩し」で知られる作家で、このデビュー作も例に漏れず。
最初から怪しい奴が割とストレートに犯人で、ただアリバイがあるのでそれを崩すのが焦点になります。
だから、ページ数の割に事件の構造は単純(探偵・犯人・偽犯人・被害者以外に話をややこしくするような人物は登場しません)ですが、まあそれはいいのです。

問題は、「アリバイ崩しが軸なのに、アリバイトリックがショボい」という一点に尽きます。
もっとよく調べたり、証人がちゃんとしていたらすぐに分かってしまう微妙さ。
その反面、犯人は偽筆などの偽装工作にはやたら巧みで、アリバイによる自分の安全よりも他人を陥れることに手を尽くしているのは、力の入れ所を間違っていないでしょうか。

まあ、もうちょっと言っておくと、本作はロンドン港に届いた樽の中に死体が詰められていた、というところから始まります。
そしてこの樽の足跡を調べてみると、樽は何度もロンドンとパリの間を行き来していることが分かってくるのです。
この樽の実態は……という部分の仕掛けはなかなかよく出来ています。
ただその出来がアリバイトリックに活きているかというと……なのですが、時代(発表は1920年)も考えると、英仏両国の首都にまたがるアリバイトリックというのはそれだけインパクトが大きかったのでしょう。

当のトリックに比べると些事ですがもう少し言っておくならば、『樽』は三部構成になっていて、第二部まではパリ・ロンドン両市警の警部が協力して捜査を行っていたのが、第三部になって私立探偵が登場します。
しかしこの探偵も、警察と同じく地道な足の捜査で稼ぐタイプなのです。
あえて地味で凡庸な探偵を設定するのはクロフツが意図的に選んだ戦略でもあったようですが、しかし「警察の出した結論を名探偵が覆す」という構成を活かす設定だったかどうかは、疑問の余地があります。


というわけで、『樽』に関してはまずは時代背景があったのでしょうが、『本陣』に関してはまた別種の事情がありそうです。
もちろん、私が文意を摑み損ねているか予備知識が足りないかで理解出来ていないだけ、という可能性もありますが、もし仮にそうでないとしたら、「物を考えるに当たって具体的なイメージを抱かない人」が結構多いせいではないか、という気がしています。

そもそもミステリのトリックに限らず、極端なことを言うと「小さいもので大きいものを覆い隠す」とか「相手が余所見をしている隙になら何をしても気付かれない」といった無茶な描写をする小説は結構多いのです。
具体的に考えればそんなことがあるはずはなかろう、と思うのですが、「間にものがあれば、向こうにあるものは見えない」とか「目を向けていなければ見えない、見えなければ分からない」という形式論理だけで考えているかのように――
そしてそれが通用するということは、読む方も形式論理で通しているのではないか、と思うわけです。

 ~~~

さて、「疑問符なミステリ」の話はここまで。
以下は控え目に言っても割と良作の話ですが、アガサ・クリスティ『ABC殺人事件』がコミカライズ中なのです。



今月末には2巻も発売↓



癖の強い絵柄を観て初めて作者名に気付いたのですが、作画は『週刊少年マガジン』誌上で『哲也-雀聖と呼ばれた男』(原作:さいふうめい)を描いていた星野泰視氏。

そして、興味深いことに、舞台が2.26事件(1936年)の頃の日本に改変されているのです。
登場人物も日本人になり、語り手のアーサー・ヘイスティングスはブラジル帰りの青年・朝倉平助(あさくら へいすけ)に、

朝倉平助
 (アガサ・クリスティー/星野泰視『ABC殺人事件 1』、小学館、2015、p. 13)

そして名探偵エルキュール・ポワロ英玖保嘉門(えいくぼ かもん)になっています。

英玖保嘉門
 (同所)

本作はほぼ唯一、ポワロが犯人から挑戦状を受け取った作品であり、王道ミステリとしてのエンターテインメント性は高いので、コミカライズの題材となるのはよく分かります。
また、冒頭に別の短編(「厩舎街の殺人」)のエピソードを持ってきて、完結に英玖保の名探偵ぶりを見せておく構成も巧み。

ただ、「頭文字がABC」というネタを日本に置き換えた時点で、多少の違和感は禁じ得ません。
まず日本の時刻表会社で「ABC社」って何でしょうか。
登場人物の名前も、上述の朝倉と英玖保は語感をそのままに音写したため、姓名が引っ繰り返っています。
極めつけはアレクサンダー・ポナパルト・カスト(頭文字がABC)阿部力(あべ ちから)ですからね。日本にはミドルネームが存在しないので漢字三文字に対応させるというウルトラC。
他方でジャップ警部が「日之元警部」のような“意訳”もあり、この辺はむしろ原作既読者向けの「こう改変してきたか」という楽しみなのかも知れません。

とは言え、出来自体はなかなかのものです。
ポワロは外見のイメージが濃すぎるので、誰が描いても自然にあのイメージに収束するのかも知れませんし、この漫画の英玖保が日本人顔かというとちょっと疑問もあるのですが、とにかく原作のイメージに比して違和感はなく、それでいて戦前の日本の街にもよく馴染んでいます。
カスト=阿部もこの冴えなさがほぼイメージ通り。

阿部
 (同所、p. 160)

作中で引用されるブラウニングの詩が芥川龍之介の『歯車』に改変されているのも、雰囲気が出ていて良かったのではないでしょうか。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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