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芸能界の勇者たち――『勇者と勇者と勇者と勇者』

今回取り上げるライトノベルはこちら、今月新発売の川岸殴魚氏の新作です。


 (前作『人生』最終巻の記事

本作は(一応)異世界ファンタジーです。
勇者フレイズが魔王を倒してから25年、魔王が消えても人を喰らう魔物はいなくならず、フレイズの跡を継いで名乗りを上げる「勇者」が急増、大勇者“あまり”時代が到来した世界が舞台です。
主役は勇者専門学校を出たものの仕事がなく、シェアハウスで暮らす6人の若い勇者たち

ルディ・シュミット(主人公) … 剣の腕は立つものの、成功者を妬むひねくれ者の青年
ナディーネ・クラーン … 週5日アルバイトをしている生真面目な少女
ネネ・コンティ … 田舎出身の小柄だが元気な少女
ヴォルフ・ロルフェス … アイドル勇者と付き合うために勇者を目指したと公言するオタク勇者
クリストフ・パーカー … モテるために勇者を目指した優男だが、実際にモテている気配はなし。薬師の家系出身でしばしば危ない薬品を使用する
アーニャ・フォス … ほとんど寝てばかりいる怠け者の少女。グッズ販売や名義貸しで楽して儲けることだけ考えている

という顔ぶれ。最近のライトノベルとしてはやや少数派なことに、ルディ、ヴォルフ、クリストフの3人が男で男女比は半々です。

そんな訳で彼らは、クエストへの応募を巡って互いに争ったり、仕事を求めてオーディションに応募したり、ビジネスチャンスを狙ったりして日々を過ごしています。
コント的な会話劇と、求人広告などの定型文を遣ったギャグはいつも通りの作者らしいセンスです。

たとえばオーク討伐の求人広告は……

職種:オークの群れから娘さんを救出するだけの簡単なお仕事です。村長さんも気さくで明るく楽しい職場です。オークも思ったより凶暴ではありませんのであの染みながらお仕事できます。
経験資格:防御力の高い勇者さん大歓迎。とくに棍棒での打撃が平気な方、お待ちしてます。
 (川岸殴魚『勇者と勇者と勇者と勇者』、小学館、2015、pp. 15)


はたまた会話だと、

「バイトばっかりやってる勇者って、徐々にバイト中心の生活になって、だんだん勇者への情熱もなくなって、いつの間にかただの店員になっている。中途半端な真面目さが仇になる」
 ルディは思ったことは口に出さずにはいられない性分。そして誰もが見て見ぬふりをしている現実に触れずにはいられない性分なのだ。
 ナディーネはルディの話を真剣な顔で聞いている。バイトをしていない人間がバイトをしている人間にお説教する。本来なら滑稽な姿なのだが、ナディーネは純粋で人を疑うことを知らない。
 「そ、そんなことは……、私は本気で勇者に……」
 (同書、p. 56)


過去作品と異なる特徴としては、一人称の地の文ではなく三人称になっていることでしょうか。
比較的短いエピソードでくだらないドタバタを繰り広げつつ、前の話の内容が不意に後に繋がってきたりするのも流石の出来。

ただ、「勇者」という題材がすでに使い古されているという問題はどうしてもあります。
「勇者」あるいはそれが登場するファンタジーをパロディ化した作品がありふれているというよりも、まず「勇者という“職業”は成り立つのか?」という問い自体が問い尽くされている感があるのです。
『勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。』(左京潤)に至っては、タイトルからして「勇者になることは就職ではない」と明言しています。

ギャグというのはやはり、それまでの認識の枠組みを(それも気が抜ける方向に)覆すからこそ面白い、という面があります。
極端なことを言えば、当たり前のことを言っても誰も笑いません。

その意味で、本作で描かれる「勇者志望者が一般的になるほど増えた結果の姿」という題材はすでに「周知のこと」となっている感があり、その分笑いのインパクトに欠けるのは否めません――とりわけ、邪神としてのやり方をマニュアルで語ってきた『邪神大沼』や、日常的な人生相談が予想もつかない方向へと暴走した『人生』といった同作者の過去作と比べると。
まあその辺は、「勇者って名乗ってるだけの無職じゃん!」というあらすじの一文を見た時点で分かっていたことでしたが。

そんな中で本作の特徴と言えば、まずは最近の作品らしく異世界転生ネタが随所に見られ、しかもそれが社会背景レベルで当然のように定着していることでしょう。
だからこの世界にはテレビもインターネットもありますし(まあ、知識だけを持って転生した人間が現代の技術をどれだけ再現できるかという問題はさておいて)、異世界料理をの食堂「異民(いたみ)が人気チェーン店になり(元ネタが某居酒屋チェーン店なのは明らか)、「異世界転生者の経済活動の規制を訴えるデモ」まで頻発しています。
そう、「現代の文化、たとえば食事を異世界に持ち込んで無双する」話と「ファンタジーならではの現実には存在しない食材、とりわけモンスターを調理して食べる」話も今や食傷気味なくらい量産されています。

そしてとりわけ注目すべきは、本作の世界では勇者が完全にタレント扱いだということでしょう。
魔王と勇者フレイズの足跡を追う報道番組はいつの間にかバラエティ番組と化し、人気の勇者はヤラセのバラエティ番組で派手なリアクションを見せて多くのグッズを売り上げています。

そもそもファンタジーとしての本作の世界観は、モンスターやアイテムの名前で特に説明なく『ドラゴンクエスト』のネタを使ったりしており、ベースは『ドラゴンクエスト』にあると言えます(まあそれはデビュー作『邪神大沼』でもレギュラーキャラで田中露都(ろと)という勇者の少女がいたので、原点であり変わっていないところとも言えますが)。
が、それ以外で元ネタの明瞭なファンタジーのパロディネタは比較的少ないのです。
むしろ、現実世界の芸能や時事ネタの方が目立ちます。

川岸氏は元々パロディよりもコントという作風で、お笑い芸人と親交があるらしいところからしても、ベースはそちらにあるように感じられるところがありました。その観点を活かした作品としては悪くないのではないでしょうか。
全体として、ファンタジーというサブカルチャーの分野内での先行作品のパロディというよりも、芸能ネタ作品にファンタジーの外身を被せた感じの作品です。


――と思って読んでいると、最後でストーリー上の大きな前振りが。

本作は作者の過去作と違って、主人公が普通に強いのも特徴で、登場人物たちが勇者学校で培った高いスペックを(無駄に)使って低レベルな争いを繰り広げているところもコントとしての見所の一つですが、中でも腕は一番立つルディがその性格ゆえに仕事にありつけないでいる、という世知辛い話でもあります。
仕事は実力だけでなく仲間や上司とやっていくためのコミュニケーション能力も必要だ、というのは確かなのですが、それ以前にこの世界では、「戦いの強さ」はそもそもタレント化した勇者の仕事上の「能力」として認められていないのです。

しかし、最後の振りからすると、その力でもって「戦う」ことが彼らにふたたび求められる日が来るのは、けっして夢物語ではなさそうなのです。
これは真面目に考えれば「状況が変われば働き方や求められる能力も変わる」ということになりますが、このコント的な話では一体どうなるのか……とまれ、本作の「勇者と魔王」というシリアス方向にも転びうる要素の使い方次第ではないかと思われます。


『人生 えきすとら(仮)』はどうなったのでしょうかね……




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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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