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現代風の孫世代になっても変わらぬ味を――『薔薇十字叢書 ヴァルプルギスの火祭』

今回取り上げるライトノベルはこちら、今度は講談社ラノベ文庫より刊行の「薔薇十字叢書」の新作です。
作者の三門鉄狼氏も少年向けの(とされる)いわゆるライトノベルレーベルで書いてきた作家ですね。



本作の主人公は関口辰哉(せきぐち たつや)は高校生でライトノベル作家としてデビューしましたが、そもそも後のことなど考えず何となく書いたものでデビューしてしまっただけで、1冊きりで打ち切り、その後は新作も書けずにスランプに陥っていました。
そんな彼はある日、古本屋の孫・中禅寺秋穂(ちゅうぜんじ あきほ)、探偵の孫の榎木津玲菓(えのきづ れいか)といった美少女たちと共に、孤島にある由良家の館に招かれます。
館の主・由良薫は彼らに対し「魔女はいますよ」と断言。
そして実際に館で起こる「魔女」を巡る事件……

というわけで、京極夏彦氏の『百鬼夜行』シリーズのスピンオフですが、なんと孫世代が主役です。
あらすじを読んだ時点で最初に生じる疑問は、「そもそも彼らに子孫がいるのか?」ということで、関口は子供を持つことを恐れている感じでしたし、榎木津に至っては独身です。
ただ、そこを割り切れば、最初から別物としてハードルを下げられることもあってか、意外に良い出来でした。

題材となる怪異(この場合は「魔女」)に関しての豊富な蘊蓄、実際に怪異が現前したかのような事件、そして京極堂(孫)による「憑物落とし」きちんと原作に倣った構成で、蘊蓄や謎とその解明の質も悪くありません。
とりわけポイントなのは解決編で、これまでの「薔薇十字叢書」では一番原作に近かった『桟敷童の誕』も京極堂が憑物落としに出張る必要はない事件でしたし、「憑物落とし」まできちんと原作の構成をなぞった作品は初めてです。

ラストは結局祖父登場か(これだけ祖父のキャラを孫世代に置き換えたんだから孫世代だけで完結させても良かったのでは)、と思わないでもありませんでしたが、しかし二段階の解決編自体は納得の出来でした。
途方もない真相にもちゃんと説得力を与えています。

何よりちょっと感慨深いのは、作者がプロフィールで(おそらく珍しい)『陰摩羅鬼の瑕』ファンを称しており、実際に本作は事件の主役も『陰摩羅鬼』の由良家の子孫ですし、そして館とそこで外界から隔絶されて育ってきた主という設定も『陰摩羅鬼』を忠実になぞっていることです。

そもそも『陰摩羅鬼』はそれまでの作品とは大きく趣向が異なっており、真相は容易に分かってしまいます。どんなにぼんやりしていても解決編の少し手前までくれば分かります。
その真相を見通しつつ、語れば相手の信じているものを、ひいては相手の生きている世界を破壊せねばならない、その残酷な仕事を引き受ける京極堂の悲しみを読者に追体験させることが狙いの作品だったようですが、結果として、それまでのシリーズのような、複雑な構成と先が読めず、何が起こっているのか分からない事件、そしてその謎の解体というカタルシスを期待していた読者にとっては、シリーズ中で一番つまらない作品でした。

本作『ヴァルプルギスの火祭』は『陰摩羅鬼』ほど真相が見え透いているわけではありませんし、そもそも事件が起こって決定的な破局が生じた後の「憑物落とし」ですから、「憑物落とし」で相手の世界を破壊することが主眼というわけでもない、その点で趣向は違います。
しかし、孤島の館に隔絶されて育った由良薫という人物がどんな世界に生きているのか、その何がおかしいのかについては、前半である程度まで見える作りになっています。
それでいて、怪異の実現したような異様な事件、そこに祖父と同じく自己と世界に対する認識の胡乱な関口の語りも相俟って、本当に魔女の存在する世界に巻き込まれたような気分にさせられ、それをすっぱりと京極堂の「憑物落とし」が払う、という原作前期作品のフォーマットとそのカタルシスもきっちり踏襲しています。

原作シリーズの基本フォーマットを押さえるだけでなく、『陰摩羅鬼』という特定作品のネタまでオマージュした上で、より良いものを作ろうという意欲
怪異モチーフの何が事件なのかもただちに分からない事件と、他方で一つの真相が、ひいては歪んだ世界とその破局が(部分的にであれ)見えてしまう辛さという二重の課題の引き受け
事件発生から解決編までが短くてややあっさりしているきらいはありますが、それを差し引いても間違いなく『百鬼夜行』シリーズのシェアドワールドに相応しい作品でした。


キャラ的にも、関口・京極堂・榎木津と三人とも性格・口調ともに祖父にそっくりですが、あくまで別人なので多少の違いはあっても引っ掛かりは感じませんし、実際ある程度まで意識して違いを入れているらしきところもあります。
京極堂の孫娘は祖父に比べると時に穴のある推理や十分に確証のないことを口にする甘さもありますし、榎木津礼二郎の「記憶を視る」能力は弱視に由来するもので遺伝も関係無かったらしく、孫といえど伝わっていません。その代わり孫娘の玲菓は別の特殊能力を持っていて、真相を一発で見抜くけれど他人には理解出来ず意味がないところは同じだったりしますが。

それに、祖父たちと同じ――つまり「女言葉」の入らない喋りが、京極氏の描くボーイッシュ少女を思わせて、違和感なく馴染んでいるんですね。
まあ秋穂(僕っ娘)とが玲菓がそれぞれ『ルー=ガルー』の歩未と美緒に見えますが……むしろ元々『ルー=ガルー』のキャラが『百鬼夜行』に被っていたというべきか。
玲菓の一人称は(ここは祖父と違って)「私」なのに秋穂は「僕」にしている辺り、三門氏も『ルー=ガルー』のメンバーを意識しているのかも知れません。

ちなみに、主役三人と由良家以外のキャラもみんな原作キャラの子孫(傍系・遠縁含む)とファンサービスに満ちた設定。
しかも鈴木食品なんて『ルー=ガルー』の設定まで取り込んでいます(原作の鈴木敬太郎は『百鬼夜行』と『ルー=ガルー』にクロスオーバー出演するキャラ)。
ただし刑事たちだけは子孫じゃなく他人の空似のようですが……関口の子供はありでも木場はなしという判断なのでしょうか。


以下は設定マニア向けの余談(しかもそれなのに長い)ですが、ライトノベルは水物なので、現代物であればアクチュアリティを重視して、ほぼ出版年を作中年代とすることが多いものです。
本作も現代編という設定を見た時点でそうなのかと思っていましたが、読んでみると違うことに気付きました。
まず「ライトノベル」という言葉が存在している時点で1990年代以降なのは確実ですが、作中の4月30日が土曜日なので候補は1994年、2005年、2011年に絞られます。
さらに

・関口が「ライトノベル」についてよく知らなかった
・作中に携帯電話が登場しない

ことから、'94年の可能性もあります。
ちなみに原作の関口と京極堂は昭和27~28年(1952~53年)時点で30代前半ですから、2000年で80歳くらいの世代です。
本作中でも彼らは健在で、京極堂はまだ現役の神主兼古本屋店主、榎木津については詳しい記述はありませんが兄の総一郎は現在形の榎木津グループの代表とありますから、その点でも'90年代の方が自然なのかも知れません(もちろん、自営業にもグループ代表にも定年はないでしょうから、2000年代でも不可能ではありませんが)。
そして、'94年というと原作『姑獲鳥の夏』が刊行された年です。

ただし、この説を採用する場合に若干引っ掛かるのは、関口がインターネットで小説新人賞の募集サイトを見付けて電子データで応募してデビューしてしまったというくだりで、インターネットサービス黎明期の'90年代前半の設定としてはいささか無理があるような……まあ、そのくらい手軽でなければ彼は応募しなかったでしょうけれど。

まあ、日付が4月30日なのはこの日が「ヴァルプルギスの夜」だからという理由があるのであって、そして中高生の彼らが泊まりがけで館に出かけるにはその日が土曜日でなければならなかったという事情は分かりますし、それ以上の詮索は無用なのかも知れませんが。
(これが現在なら金曜日の放課後から出かけることも可能かも知れませんが、もし'90年代だとするとまだ学校は土曜全休ではなかったのです。こういうことを考えても'90年代説を採りたいような、微妙なような)


この公式シェアドワールド企画、私は今でもコレクターアイテムとして是が非でも集めたいとは思いませんが、あくまで良いものもあるかも、と内容に期待して読んだ甲斐はあったかと思っています。

次の薔薇十字叢書はふたたび富士見L文庫から。
あらすじを読んでも作品のジャンルがどうなるのか分かりませんが、とりあえずあらすじからして『魍魎の匣』のネタバレだということだけは言っておきます。
まあ原作未読の読者は最初から対象に想定していないのかも知れませんが……




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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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